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映画『快盗ルビイ』 和田誠の映画愛。本人は楽しかったろうな(ネタバレ感想文 )

監督:和田誠/1988年 日

京橋の国立映画アーカイブまで足を運んで、35年ぶりの再鑑賞。
私は公開当時に観ているんですが、ウチのヨメが「歌うけど観たことない」と言い出したんで・・・
あれ?このフレーズ、原田知世の『愛情物語』(1984年)でも書いてるぞ。

さすが国立映画アーカイブ、36mmフィルムでの上映でした。
しかも公開当時と同じく『怪盗ジゴマ 音楽篇』を同時上映してくれた。
これ、寺山修司脚本・和田誠監督のミュージカルアニメーションなんです。てゆーか、なんだその組み合わせ?
今回このアニメを観て驚いたのは、歌声だけで由紀さおりだと分かること。由紀さおりすげーな。

それはさておき、ジゴマじゃなくてルビイの方ね。

映画鑑賞の前に、和田誠展を見たので知っていたというのもありますが、和田誠自身も言っている通り、彼は「映画評論家」ではなく「映画ファン」なんですよ。特にクラシックハリウッドの。
だからこの映画が狙ってるのは、クラシックハリウッド的なロマンチック・コメディなんです。

映画序盤に顕著ですが、頻繁にクレーンでカメラ移動します。確実に「当時の映画」を意識してると思うんです。
昔はズームアップという技術がありませんでしたからね(たぶんその技術を早々に使ったのが、ヒッチコック『めまい』(1958年)だと思う)。

下の階から上の階へ、アパートの外観をカメラが縦移動します。
まるでヒッチコック『裏窓』(54年)。
で、小泉さんの部屋、窓から外が見える構図じゃないですか。星座がどうのとか言いながら。これ、窓の外に花火が上がってたら、まるでヒッチコック『泥棒成金』(55年)ですよ。まあ、泥棒の話だしね。
(たぶん花火を映した最初の映画は『泥棒成金』じゃないかな?だって当時はセット撮影ばかりだったから、花火を打ち上げられなかったはず)

そもそも小泉さんと真田広之の出会い、アパートの階段の上下で会いますが、これはもう『ティファニーで朝食を』(61年)ですよ。
お着替えも含めて、小泉さんをオードリー・ヘプバーンに見立ててるんだと思います。

あと、小泉さんの部屋に、ボギーことハンフリー・ボガードの巨大パネルがあるじゃないですか。
でも、小泉さんはそれに言及しないんですよね。
「ボギー、あんたの時代は良かった」と言うこともなく、悠木千帆(後の樹木希林)のように「ジュリー!」と叫ぶこともありません。
実はこのボギーに反応するのは真田広之だけなんです。
母親の水野久美は気付かないんですよ。マタンゴは分かるのに。
極端なことを言うと、ボギーは真田広之にしか見えないも同然。
つまりウディ・アレン脚本・主演『ボギー俺も男だ』(72年)だと私は思うんです。ということは、この眼鏡といい、真田広之をウディ・アレンに見立てているのではないでしょうか?

つまりやりたかったのは、オードリー・ヘプバーンとウディ・アレンによるヒッチコック的ロマンチック・サスペンス・コメディなのです。

と、和田誠の映画愛を全身全霊で受け止めようとしてますけどね、それほど面白くないんだよなぁ、この映画。

何故なんだろうと考えた時に、キャラクターに奥行きがないんですよ。立体的じゃないんです。和田誠のイラストと同じで平面なんだ。

写実的な絵を描く人でないことは分かっていますし、そんなことは求めてないんです。
でもね、同じロマンチック・コメディでも、ボギーに憧れるウディ・アレンはコンプレックスから強い男に憧れるわけですし、ホリー・ゴライトリーに至ってはなかなか重い人生を背負ってるんです。ところがこの映画の主人公二人は背負ってる物が何もない。

「怪盗になる」とワケノワカラナイことを言い張る小泉さんが、まだ若くて可愛くて、ワケノワカラナイことを押し通す力強さがないんです。

これがデビュー40周年を越えた今の小泉さんだったら、問答無用の説得力はあると思いますけどね。

(2024.02.03 国立映画アーカイブにて再鑑賞 ★★★☆☆)

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