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映画『秘密の森の、その向こう』可愛い幻想譚、かなり好き (ネタバレ感想文 )

監督:セリーヌ・シアマ/2021年 仏(日本公開2022年9月23日)

原題は「プチ・ママン」。英語で言うなら「リトル・ママ」。
これはそういう映画です。
いいえ、スナックのチーママの話ではありません。

監督はセリーヌ・シアマ。
『燃ゆる女の肖像』(2019年)で惚れ込み、新作を楽しみにしていました。
日本では昨年やっと公開された『トムボーイ』(2011年)は、昨年の私のナンバー1映画。

『燃ゆる女の肖像』はとても読み解きがいのある映画でした。言い換えると「記号」の提示が巧みな映画。
また、『トムボーイ』は子供の扱いがものすごく上手な映画でした。
そして本作は、その両方。
あの子供たちはどうやって演出してるんだろう?

パラレルワールドというのか何というのか、
「小屋」を挟んでコッチの世界とアッチの世界が描かれるんですが、
それを示唆する「道具」の見せ方が巧みなんです。

棚か何かを動かして「古い壁紙が出てきた」という辺りから巧みに「示唆」が始まります。
例えば家の外観。
ただ同じ風景を映すだけではなく、主人公が立ち止まって見るというアクセントをつけています。
例えば室内の、廊下の物置。
押して開くタイプの扉なのですが、主人公はちゃんとそれを押し開いて確認するのです。
これが下手な映画や脚本だと台詞で処理しちゃうんですよ。
「同じだ…」とか何とかつぶやいたりして。
この映画の台詞は優れていて、「トイレは廊下の奥?」って聞くんですね。
自分がトイレに行きたいふりをして間取りを確認する、そして観客にも「彼女は気付いている」と分からせる秀逸な台詞。

この映画は主人公の少女の視点で貫かれていますが、彼女が何をどう感じたかということは言葉にしません。
不思議な現象に対しても、論理的な説明めいたことは一切言いません。

有体に言っちゃうと、この手の「子供もの」って「成長」を描きたくなるんですよ。いやまあ、それは悪いことではないんですけどね。
でもセリーヌ・シアマは、成長途上の少女の「今、この瞬間」を捉えようとしている気がします。
森とか室内とかの閉塞感のある空間が多い映画ですが、ボートで漕ぎ出す二人の少女のシーンは一転して「抜け」の画面になります。これは若者たちには進むべき未来があることを暗示しているのでしょう。
しかし監督は、少女の未来や成長に対して、論理的な説明や解説を付したり、観客の理解を得ようとしていません。
私だけかもしれませんが、この映画で感じたのは「今、この瞬間」だったのです。

あ!
ここまで感想を書いていて気が付きました。
監督の目線が少女の目線まで下がっているような気がします。
だから、不思議な現象を説明することなくあっさり受け入れ、
母親の過去を回想などではなく「今」の出来事とし、
未来とか成長とか母娘の絆といった「大人の理屈」を一切排除して、
「今、この瞬間」を生きる少女を活写できたのだと思います。

(2022.09.23 ヒューマントラストシネマ有楽町にて鑑賞 ★★★★☆)


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