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映画『トムボーイ』 (ネタバレ感想文 )世界は君に微笑んでいる。

なんて素晴らしい映画!
昨年観た『燃ゆる女の肖像』(19年)がとても読み解き甲斐のあるいい映画でした。そのセリーヌ・シアマ監督の以前の作品。日本公開は今年ですが、製作は10年前の2011年。彼女が32歳頃に監督した長編2作目。

この主演の子役をよく見つけたなあ。これ、1年違ったら身体つきもだいぶ違ってしまったでしょう。奇跡としか言いようがない。
ニルヴァーナ「ネヴァーマインド」ジャケットの「世界で最も有名な泳ぐ赤ん坊」が性的虐待だか児童虐待だかで30年も経った今提訴したという記事を読みましたが、この子は大丈夫だろうな?
カート・コバーンも浮かばれねえな。あ、俺、カート・コバーンと同い年。

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『燃ゆる女の肖像』が同性愛の話でしたし、セリーヌ・シアマ自身もそうだということなのですが、私にはこの映画、性同一性障害の話というよりも「少年少女の不安定な季節」の話に見えました。
おそらく、主人公自身にその自覚はないし、監督も具体的な説明を加えません。
むしろ映画は、夏の日差しの中で無邪気に遊ぶ子供たちを延々描写します。
これはキラキラした「子供」を描いた映画です。
この映画で描かれる「不安」は、彼女特有の自身の身体に対する不安であると同時に、子供なら誰もが抱える思春期の不安でもあるのです。

それにしても、なんて艶っぽい妹!THEオンナ。将来、リュディヴィーヌ・サニエ嬢みたいな小悪魔女子になるよ。

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私はこの姉妹を見ていて、萩尾望都「半神」を思い出しました。
そのせいで穿った見方をしてしまいますが、妹が「THEオンナ」である(無意識の)反動/抵抗とも考えられます。

そんな妹が「当てっこしよう」とクイズを出すシーンがあります。
人物当てクイズはフランスではよくある遊びなのでしょう。
最初に聞くヒントが「それは男ですか?」(女ですか?だったかな?)と、性別を聞くのです。
人が思う人の最初の分類は「性別」。
これは確実に監督の意図です。
さらに興味深いのは、新たに生まれた赤ん坊が男なのか女なのか、明らかにしないんですね。
生まれた時は「人」。でもいつしか「性別」に囚われていく。

彼女というか女友達ができますね。リザだったかな?
テクニカル的に気になった点として、リザが初めて訪問してきた時、階段下で待っているリザの所にミカエルが来る。板付きのリザの所にインするんですね。

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同じように、ラストシーンも板付きのリザの所にロールがインする。
一度は仲たがいした二人が再会するシーンです。
普通なら、主人公視線で、待っているリザの元に近づくカメラになる気がします。
でも監督はリザを板付きにした。
私はこの2つにシーンに違和感を感じました。
違和感があるということは、そこに監督の意図があるのです。

おそらく、「リザ=世界」なのでしょう。
世界は歩み寄ってくれません。
主人公は、自分の足で、世界へ踏み出す勇気が必要なのです。

ロール/ミカエルの顔で終わる秀逸なラストショット。
カメラは捉えませんが、リザが微笑んでくれたに違いありません。
偽らない姿で、自分の足で踏み出した者に、世界は微笑んでくれるのです。

世界は君に微笑んでいるんだよ。

監督がそう言っている気がします。
この映画が、終始、明るい陽ざしに包まれていることも、その証かもしれません。

(2021.10.03 新宿シネマカリテにて鑑賞 ★★★★★)

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監督:セリーヌ・シアマ/2011年 仏(日本公開2021年9月17日)

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