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映画『昇天峠』 (ネタバレ感想文 )大衆娯楽に忍ばせる説教。食えないブニュエル。

監督:ルイス・ブニュエル/1951年 メキシコ

私は、ルイス・ブニュエルと書いて「ふざけた爺さん」と読むこの監督が好きで、きっかけは大学生の時に池袋の文芸座で観た『小間使の日記』(1964年)なのですが、思い出話を書くのはまた別の機会に。
歳をとったら「説教」「自慢話」「思い出話」をしちゃいけないという高田純次の教えもありますしね。あ、以前も同じこと書いてた。

スペイン人のブニュエルはスペイン内戦で敗走、渡米してメキシコに渡るのですが、この『昇天峠』はメキシコ時代の一作。
1946〜63年がブニュエルのメキシコ時代ですから、51年の本作は割と早い時期。ブニュエルは1900年生まれなので、51歳頃の作品。

ブニュエル好きとして課題映画だったのですが、やっと観ることができました。K's cinemaの「奇想天外映画祭2022」に感謝。

以前も書いたかもしれませんが、「ブニュエルのメキシコ時代は暗黒時代」と長いこと思われていたんですね。
四方田犬彦曰く日本における「ブニュエル元年」は1984年だそうで、83年にブニュエル翁が死去して翌84年にぴあが特集上映するまで、日本ではメキシコ時代のブニュエル作品は紹介されていなかったそうです。
実際私がブニュエル作品に出会ったのは85年頃だった(大学生だった)と思うのですが、その当時、メキシコ時代の情報は世の中にほとんどなかったように思います。
だからと言って何故「暗黒時代」と思われていたのかと考えると、日本では「亡命」って暗いイメージを持たれるからではないでしょうか。
ブニュエル自身はメキシコに帰化しているので、メキシコが好きだったんだと思いますよ。

この長々書いた知識自慢で何を伝えたいかと言うと、欧米でもメキシコ時代の作品は紹介が遅れたそうですから、この映画をリアルタイムで観たのはメキシコ人だけだと思うんです。

つまりこの映画、多くの(ほとんどの)人が「ブニュエルだから」と思って観ているので、無駄に過大評価されている気がします。
例えば今回私が観た「奇想天外映画祭」。
先程感謝を口にしておいて舌の根も乾かないうちにナンですけど、この映画、言うほど奇想天外かなあ?
たしかに、変な妄想シーンはあるけどさ。

変な妄想シーン

私は、大衆娯楽作品だと思うのです。
歌ったり、セクシー美女が出てきたり、ドタバタコメディがあったり。
ところが、私も「後に」観ているので「ブニュエルだから」視点で観てしまっています。

ブニュエルって、意外と政治的なんですよ。
この映画でも、選挙ウンヌンのクダリが出てきます。

そう考えるとこの映画は、
「陽気なメキシコの太陽の下で明るく楽しく能天気に暮らしてるのもいいけど、もっと子供の未来、この国の未来を考えろよ」
と言っているような気がするのです。

めちゃくちゃ能天気

あとブニュエルは『ビリディアナ』(1961年)を観たいんですよね。
カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作なのに「反宗教的」という理由で
(浮浪者たちが飯食ってるシーンがダヴィンチ「最後の晩餐」のパロディーなんだって)で逆鱗に触れ、スペインとイタリアで上映禁止になったという作品。観たーい!

(2022.09.19 新宿K's cinemaにて鑑賞 ★★★☆☆)


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