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映画『他人の顔』 人は見た目が〇割とか言ってる場合ではない(ネタバレ感想文 )

監督:勅使河原宏/1966年 日

安部公房原作・脚本の勅使河原宏監督作ってたぶん4本あると思うんですが、その中で唯一観ていなかった映画。ケーブルテレビで放送していたので録画して鑑賞。仲代達矢×京マチ子なんて超楽しいじゃん。

この映画、『砂の女』(1964年)、『燃えつきた地図』(68年)と合わせて「失踪三部作」と呼ばれているそうですが、その前の『おとし穴』(62年)も含めて4作品全部「人が消える」話なんです。

そういう時代だったんでしょうね。
1960年代の日本は失踪者が多く社会問題になっていたらしい。松本清張も失踪物が多いし、テレビでは「人探し」番組を70年代くらいまでやってましたしね。今村昌平『人間蒸発』(67年)なんて映画もあったな。狂ってて面白かった。二度と観たくないけど。
勝手な推測ですが、60年代日本の「高度成長」は「失踪(蒸発)」と表裏一体、「光と影」のようなものだったのかもしれません。

これら「安部公房×勅使河原宏」作品は、「失踪」の先に「人間としての存在証明」を描いているような気がします。
中でもこの『他人の顔』は顕著で、「人は見た目が〇割」なんて生易しい次元ではなく、顔がアイデンティティーそのものだという哲学的命題を突きつけてきます。これは自己同一性アイデンティティーとは何かと問いかける物語なのです。
そういった意味では、押井守『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(95年)と同系統と言ってもいい。

ネットで調べるとあらすじに仲代達矢の物語ばかりが出てきますが、それと平行して、顔の半分が焼けただれたようなあざになっている美女の話が進行します。

Wikipediaによれば「ケロイドの女」という役名で、入江美樹という女優さんだそうです。だそうですじゃねーよ、小澤征爾の奥さんじゃねーか。小澤征悦の母ちゃんだ。一度だけお見かけしたことあるけど、メチャクチャ綺麗なお婆さん(<失礼)でした。

それはさておき、私はこの「顔半分美女」の話が興味深かったんです。
「お兄ちゃん、長崎の海を覚えてる?」といった台詞があります。
おそらく彼女は長崎出身なのでしょう。二十歳はたち前後の年齢からして、赤ん坊の頃に被爆したのかもしれません。
彼女が下働きする病院では、空襲に怯える精神病患者が描かれます。
そしてこの兄妹は、戦争が再び始まることを待ち望んでいるようです。

この意外に濃い戦争色は世のあらすじからばっさり切り落とされていますが、実はこの話は「対」の構造になっているような気がします。

顔に火傷(の跡)がある「男と女」。
「他人の顔で生きようとする男」と「自分らしさを保ったまま死のうとする女」。
夫婦、兄妹、ついでに言えば医者と看護婦の男女関係も「対」です。
そして「平和と戦争」。高度成長の「光と影」。
その象徴が、陰と陽を併せ持った「半分美女」(<小泉今日子の曲ではない)の顔。

「安部公房×勅使河原宏」当然前衛芸術アヴァンギャルドなんですが、若い頃に勅使河原はドキュメンタリー、安部はルポルタージュを経験しているそうで、ちょっとそういう色も見え隠れしている気がします。

あー、なんだか真面目に書いちゃったな。
本当は、ペドロ・アルモドバル『私が、生きる肌』(2011年)、キム・ギドク『絶対の愛』(2006年)と併せて「世界三大他人の顔映画」とか書こうと思ったのに。どっちも基地外映画だ。
あー、ジョン・ウー『フェイス/オフ』(1997年)ってのもあるな。
でもそれは「自分の顔」だな。

(2022.12.03 CS録画にて鑑賞 ★★★☆☆)

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