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スケボー男子ストリート独特の空気感

★はじめに




先日初めてスケボー男子ストリートの決勝をライブで観た。予備知識も何も持たずに見始めたのだが、これが結構面白くて興味深い内容だったので少し綴ってみようかと思う。何しろ素人目線なので間違いなどもあるかも知れないが、その辺りは寛容に読んでいただけるとありがたい。

東京で緊急事態宣言が出される中、無観客といった割と強引なやり方で始まった今回のオリンピック・パラリンピックは私も多くの人と同様、100%心の底から楽しめているかといえばそうではない。矛盾も多いし、納得出来ない事だらけで、はっきり言ってモヤモヤしながら過ごしている。五輪だけでなく政府の対応やマスコミの在り方に対しても不満は募るばかりだ。
我慢を強いられ、それが一年以上も続き、よく暴動が起きないくらいだと思う。
そんな中で始まった今回の五輪の中で、少しでも清涼剤のようなものがあるとすれば、やはりアスリート達の真剣な闘いぶりであろう。
とりあえず今日は五輪開催の是非は横に置いておき、スケボー男子ストリートの種目に絞って私が感じたことを記したい。

★競技というより技の見せ合いっこ

今回初めてこのスケボー男子、女子ストリートという種目がオリンピック種目になったわけで、私も一般の人同様ルールも分からず、競技の進め方もわからず、ぼんやり見始めていた。
どうも45秒のランを2本、ビッグトリックという大技を5本飛んで採点するらしい。
フィギュアスケートで言うたら、規定とフリーのようなものか。ビッグトリックは失敗すると点が入らないが大技を決めないと点は伸びない。なかなかギャンブル的要素もあって楽しそうではある。

しかし、私の素人目線ではこのビッグトリックの大技のどこのどの部分がどうすごいのか、なかなか判断しづらい。後に「ビッタビタに合わせてきましたねぇー」で話題をさらった瀬尻稜さんの丁寧な解説がありながらようやく、ぼんやりついて行ける程度。

まあ、それでも段々と目が慣れてきて、今のは決まった!とか、今のはちょっと惜しかった!くらいはわかるようになってくるから不思議といえば不思議である。アナウンサーと解説って本当に素晴らしい。

私的によかった点は決勝に残ったファイナリスト達の前情報がほとんどなかった事。金メダルを取った堀米雄斗選手もこの時初めて見た。日本人選手が絡む競技はこの前情報が時に邪魔になるので、ファイナリスト一人一人をフラットに見ることが出来て新鮮な感覚だった。

で、肝心の競技なのだが、どうもこれが他の種目と雰囲気が違う。何だかうまく表現出来ないのだがゆるいのだ。ゆるいと言う表現はあまり相応しくないのかもしれない。オタク?ギーク?
もちろんファイナリスト一人一人には燃えたぎる闘志もあるにはあるのだろうが、あまりそれを感じさせない何かがある。

さっきも述べた通り、このスケボー男子ストリートはわかる人にはわかるが、どうも簡単にはわからないかなりオタクならではの世界観がある。
まるで精巧なネジばかりを集めた品評会や半導体の一部品だけで行われる見本市のような、専門用語が飛び交う狭ーい業界人だけに通じる様相といえばお分かりいただけるだろうか。その筋に精通している人にはたまらなくしびれるジャンプがあるのだろうが、それが素人目にはわからないもどかしさがある。それも含めて見続けてみた。

★自由過ぎるルール

先程も書いたように、オリンピック種目になったからには一応ルールはあるにはある。採点規準もあるのだろう。
だがしかし、何というか自由なのだ。選手達はパーク内のどこをどう滑ってもいいし、滑るタイミングも冬季五輪のスキージャンプみたいに合図があるわけでもない。
一応18歳以内はヘルメット着用のルールはあるが、それ以上で着用してもいいらしい。
銅メダルを取ったアメリカのジャガー・イートン選手は滑る寸前までスマホをいじって好きな曲でも探しているし、滑る時はヒョイとそのスマホをポケットにぶち込んで派手に転けたりする。あれ、スマホの画面絶対にバキバキだろ!の世界。

また、銀メダル獲得のブラジルのケウビン・ホフラー選手は神経質か!言うくらい自分が滑るであろう手すり?斜面を何度も何度も改めている。あれも時間制限とかないみたいなのだ。納得がいくまでどうぞと言う感じ。

やはりスケボーと言う競技独特の自由な空気がそこには流れている。競技であって競技ではないような仲間内だけが知っているちょっと排他的な、そして競技として未だうまく確立されていない荒削りな何か。

★もし観客がいたら

今回は新型コロナウィルスの感染者増大に伴い、無観客で競技が行われたが、これがもし観客がいたらもっと盛り上がっていただろうと思うととても胸が痛む。もちろんオリンピック種目で競技であるからには、頂点を目指すのも一つの大きな目標ではあるが、スケボーという特性を考えても多くの人に彼等のビッグジャンプを生で見てもらい、大きな歓声に包まれた時のアドレナリンの出方は相当違うものになっていたに違いない。そう、スケボーは優劣をつけるというより、見せてなんぼ、どれだけ拍手や歓声をもらってなんぼのスポーツだから。
観客がいたらどんどん自分のテンションを上げていける選手は或いは別の結果になっていたかもしれない。

★スケーター同士のリスペクトが半端なく熱い

競技、コンペティションでありながら、きっと今までの世界大会ではいつものメンバーなのだろうなという仲間感がものすごく出ている。
先程も書いたように、このスケボーはわかるヤツにはわかるが、わからないヤツには1ミリもわからないかなり特殊な種目だ。
だから今までずっと競い合い、教え合い、励まし合い、あるいはふざけあってきたファイナリスト全員がすごく仲が良いのが手に取るようによくわかる。私は熱心なジャニーズファンではないが、ジャニーズファンに言わせると、彼等のライブで見せるメンバー同士の仲の良さ、もっといえばイチャイチャしている様子がたまらないのだそうだ。今回はちょっとその気持ちがわかるような気がした。

また、他のスポーツにもあるようなある種の「流れ」(ストリーム)のようなものが確かにそこにはあった。大技を決めた選手の後に滑る選手は影響されてやはり決める。失敗した選手の後はやはり失敗してしまうと言うような。
これもお互いの感情の熱量が近いから起こり得る現象なのかなと思うと、非常に興味深い。デリケートなスポーツでもあるのだ。

大技を決めた人には最大級の賛辞やハグ、グータッチを行い、また、大技に挑戦したが惜しくも失敗した選手には決めた選手以上のハグを送る。なんか、書いててやばい。涙が出そうになってきた。それだけ相手のことをお互い知り尽くしているんだろうなと言う事がよくわかる。
もちろん他のスポーツにもこのフェア精神はある。でもスケボーに関していえばそれがとてつもなく濃い。
未だわかる人の総量が少ないためか、お互いを称え合う姿は見ていて競技の結果以上に心を揺さぶられる。

★NO MORE お涙頂戴ストーリー

大体オリンピックでメダル獲得した選手には彼等にまつわるストーリーが用意されている。彼等のご両親の苦労話。恩師の言葉。母校の後輩たちの応援、行きつけの飲食店店主。どれだけの困難や苦労に打ち勝ってメダルを獲得したかという分かりやすいストーリーだ。

そういうのは多分日本のみならず、世界中であるのだろうし、視聴者もマスコミも大好きな展開だからこれからもそういう話は量産されるのであろうが、ちょっともうそういう系の話はお腹いっぱい過ぎないか?というのが私の意見。
それも大切だが、今、この瞬間に決めた彼等のビッグトリックをもう少し詳しく知りたい!と、思った私にはこの中継は本当にありがたいものであった。余分な情報は一切挟み込まず、技にだけ集中出来て堪能出来たのは一視聴者としてはとても新鮮な体験だった。

独特の言葉使いやテンション低めの解説の瀬尻さんと倉田アナのゆるーいかけ合いもなかなかツボであった。特に失敗した選手がトライしようとしていた事を的確に言語化してくれて、素人には助かった部分が多かったように思う。

★スポーツが新しい概念を作っていく

このように競技でありながら、技の見せ合いっこであるかなり特殊なスケボーストリートという種目がオリンピックに選ばれた事によって、これから世界中でスケボー人口は爆発的に増えていくだろう。都市型スポーツというのもなかなか良い。広いグラウンドや大掛かりな設備も要らず、ボードに乗ればすぐに始められるのも若い人達には魅力的な点だと思う。
また、どんどん世界中の強者達が新しい技を編み出してどんどん挑戦してくるようになるだろう。それはそれできっと素晴らしい事だ。

でもそれと同時に仲間を大切にする、敬い、いつも信頼し、称え合う、このスピリットをこの競技だけは持っていてほしいと強く思う。
打倒!誰誰!
ではなくて、その日その風や、その空気感に乗ったヤツが、その日のお客さんの心を鷲掴みにしたヤツが勝者であるというようなあやふや感や独特のゆるさを持ち続けてほしいなとも思う。

どちらかと言うと日本におけるスポーツは、やはり根性や精神論が先走りして、いかに苦労したか困難を克服したかに焦点を置かれがちだったが、これからのスポーツはそればかりではない事をこのスケボーストリートが証明してくれたように思う。もちろん彼等だって靴底が破れるほど怪我をするほど練習しているのだ。失敗した時の転び方を見ればどれだけ彼等が転んで来たかがいやと言うほどわかる。
そんなことは皆百も承知だ。

でもどれだけ練習したか、どれだけ苦労したかは彼等の売りではない。何故ならボードに乗る事が楽しくて楽しくて仕方ない本当の意味でのギーク少年達だからね!

ここから新しいスポーツやスポーツを取り巻く概念が新しくなると良いなぁと思う。
この閉塞感漂う世の中で堀米雄斗選手の金メダルは尚一層輝いて見えた。
おめでとうございました!お疲れ様!

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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