弥生短歌　20首vol.5

1.春風よ　君がはらりと　舞うたびに　　
思い出の人　手を振ってゐる

2.夜明け前　君の寝息が　優しくて
安堵の温度　心を満たす

3.鉛色の　空を見上げて　南国の　
君が聴くはず　コーランの音を

4.牛乳を　ゴクゴク飲むと　何故かすぐ
子どもの私へ　タイムリープ　

5.いつからか　紙の手紙が　姿消し
文字は電子の　海を彷徨う

6.ズズズンと　割れんばかりの　音響き
クラブへするり　人を掻き分け

7.濡れそぼる　カラーコーンが　待機中
もうすぐ熱い　マラソン始まる

8.妊娠の　事実伝えて　看護師の
仲間は誰もが　凍てつく沈黙

9.この人と　一緒に居ると　落ち着くな
その直感ガチ　大切にして

10.夜明け前　ぽっかり浮かぶ　月光を
独り占めして　深呼吸する

11.裏返し　洗濯機から　出るソックス
今朝もはぁと　ため息ひとつ

12.マラソンの　先頭集団　駆け抜ける　
雨を切り裂き　飛び魚みたいに　


13.イヤフォンから　好きな曲が　流れ出し
家はすぐそこ　でも遠回り

14.ヨレヨレの　ヒートテックに　袖通す
上着ブランド　着てもあかんわ

15.コスパいい　そんな言葉に　疲れたよ
やりたいように　やらせておくれ

16.幼子の　手を握りしめ　歩む土手
まだその温もり　胸を去来し　

17.旋(つむじ)風　思わず目を　覆いたく
春への儀式　肩を竦(すく)める

18.コスプレは　なりたい自分に　すぐなれる
擬態したとて　かりそめの自我

19.サーカスの　道化師のよう　悪い癖
笑いながらも　自虐の私

20.ビーフシチュー　コトコト煮る時　窓開けて
ヒュルリと春風　香る如月