見出し画像

インドのひとたちとわたくし。(149)ーお預けワクチン

 シャバドから連絡があり、車で近くまで来ているので立ち寄りたいとのこと。私らのサインが必要な会社の書類を、父親に代わって届けに来てくれるのだ。

 玄関先でちょっと立ち話をする。シャバドに会うのも半年ぶりくらいになるが、元気そうだ。実は彼、春先のパンデミック第二波が起こったころに、コロナ陽性で入院していたのだ。「10日間、入院していたけど、一時は酸素飽和度が64%まで下がってたいへんだった」。それって『超』危険なレベルだよね。「そう。ただ3月だったからまだ病院には酸素ストックがじゅうぶんにあって助かったよ。酸素が足りなくなったのはそのあとだからね」。それはラッキーだったよねえ。インドでは一時期、吸入酸素が不足して、そのために亡くなったひともたくさんいるし、闇で、酸素ボンベを高値で取引して摘発された業者もいた。
 シャバドは最近、抗体検査を受けたところ数値がたいへんよく、医者から「もう君はマスクなしでいいよ」と太鼓判を押されたそうなのだが、それって周囲は大いに不安である。そのひとが抗体を持っているのかどうか見た目ではわからないし、抗体があるからウィルスを運んでいないとは限らないからだ。もちろんシャバドは今日もN 95マスクできちんとガードしてくれている。彼が常識あるひとでよかったよ。
 
 ところで我が家もそろそろワクチンの2回目接種に行ったほうがよい。インド政府が提供する、Co-Win というサイトで、最寄りのワクチン接種センター、提供ワクチンの種類と在庫、空き日時が検索できてたいそう便利なのだが、この数日サイトがダウンしていてアクセスできない。どこに行ったらよいかまるでわからなくなってしまった。これは困る。前にソニアが、「どこのセンターへ行けばよいか調べてアレンジしてあげる」と言ってくれてはいたものの、いろいろあって今ここで彼女に頼りたくはない。
 たまたま階下の駐車場で会った大家のカプール氏に、Co-Winのことを話したら「来週の月曜日には復旧するらしいよ」と言う。えっそれどこ情報ですか?と思ったが、聞けなかった。普段からこういう伝聞情報がこちらは多いのだ。まあ、運が良ければ、くらいに受け取っておく。
 そうしたらカプール氏の息子のアマンが電話で近くの大きな病院を教えてくれた。事前登録や予約なしでもだいじょうぶだという。その言を信じて向かってみることにした。

画像1

 ここはなんと、「ドライブ・スルー」のワクチン・センターだった。
 接種料が無料となった政府系施設とは違い、こういう民間の病院では数百ルピー(1ルピー=約1.4円)とはいえ料金が発生する。そもそもドライブ・スルーには車がないと来られない。次々と入ってくる車はどれも、ズタボロではなくそれなりにきれいなのであった。だけど来てみてわかったことだが、ここの提供ワクチンは、インド国産の『コヴァキシン』のみ。私たちが受けたアストラゼネカの『コヴィシールド』は、ここでは扱っていないのだった。ううん、残念。
 近所、というほど近くはないが、何度かかよっているPSRI ホスピタルのインターナショナル・デスクに連絡してみる。ここで、1回目のワクチン接種を受けたのだ。
 どうやら今、在庫不足かなにかでワクチン・センターは休業中らしい。近々に再開するのでそうしたら連絡してくれるという。こちらで言う「近々」「もうすぐ」というのはあんまりあてにはできないから、まめに電話で確認しないといけないなと思っていたら、数日後にほんとうに連絡をくれた。珍しいことだ。

 病院の受付で1回目の接種のときにもらった証明書を出す。接種日が4月21日、2回目は5月19日~6月16日の間に接種するようにと記載されている。実はこのあとすぐ保健省が、ワクチン接種の期間を4週間から12週間に延長すると発表したのだったが、いつからそうなるのかニュースでははっきりしなかったので、まあいいや何とかなるだろうと考えていたら案の定、受付の女性が日付をあらためて、「7月14日以降に来てください。今日はまだ接種できません」と言ってきた。あのルール、適用されていたんだ。またもや「空振り」だ。

 しおしおと帰宅すると、ちょうどアマンが電気工事の業者のひとを連れてきた。前から家の中の不具合を見てもらうことにしていたのだ。たいへん繊細で神経質なアマンは来るなり、「外のひとが来てるからほら、早くマスク着けて。早く早く」とこちらを急かす。
 点検に立ち会いながら彼は、「第三波は絶対に来る。今度はこどもたちが危険だよ。自分は感染者『ゼロ』になるまで家から出るつもりはない」と、力説していった。感染者『ゼロ』とはずいぶん先になりそうな話だけれど、第三波については私もこれは来るだろうと実は思っている。

 新規感染者が減り続けているので、デリー州政府は先日から段階的に規制の緩和を進めている。今週からは、学校やジム、映画館などを除いて、商店やモール、マーケットはほぼ通常営業だ。レストランやバーも酒類提供ができるようになり営業時間も10時まで延長された。いちどに入店できる人数や、結婚式の出席者数などあれこれ制限はあるのだが、報道で見る市内のマーケットはどこも、通りがひとで溢れている。マスク着用者がほとんどとはいえ、ソーシャル・ディスタンスはまったく守られていない。ううむ。デルタ株はすれ違っても感染するって言うから怖いよ、これは。
 警察が躍起になって違反者に切符を切っているらしいがこれでは追い付かないでしょ。家の前の公園でも、中にはマスクなしで走り回っている子たちもいる。どうもみんな事態を軽く見ているような気がする。アマンほどではないにせよ、こちらもまだしばらくは生活スタイルを変えず、慎重に行かなくては。

画像2

 州間の移動制限もなくなったものの、会社にもまだ出社はしないで様子を見ることにした。現場を見ているヴィッキーに、キャッシュの管理が雑なことや報告が遅いことなどを指摘すると、「家にいて金の心配だけしている身分のひとには、現場で走り回っているこっちの苦労はわからんだろ」と文句たらたらではあるが仕方がない。現場のオペレーションとインド人相手の交渉事はヴィッキー、経営管理はこっちって前に決めたでしょと言い返す。
 身の安全が第一だ。世の中、シャバドやアマンのように常識があって慎重なひとばかりではないのだ。

ワクチン投与間隔についての政府見解( India Today, 22nd Jun. 2021 )

デリーのロック解除、専門家は第三波を警告( NDTV, 20th Jun. 2021 )

デリー高裁は違反者の厳罰化を当局に要請( The Indian Express, 20th Jun. 2021 )

英国で急増するデルタ株、専門家はアストラゼネカに期待( India Today, 22nd Jun. 2021 )

( Photos : In Delhi, 2021 )


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?