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インドのひとたちとわたくし。(164)ーいつも何かと『戦って』いる

 生き死にに関わるほどでないが、面倒ごとは、それはそれはしょっちゅう起こるのだった。

 外国人がインドに住むにはいくつかの手続きが必要だ。ヴィザはもちろんだが、滞在許可にあたるFRRO (外国人地域登録)、PAN(納税者番号)、アダール(国民基礎番号)などがそうだ。
 銀行口座を開く場合は、これらの証明書をパスポートや住まいの賃貸契約(居住証明)などと一緒に銀行に提出する必要がある。ところがいざ証明を取りに役所に出向くと、そのときの担当者の判断によって先に銀行口座の証明書を出すように言われたりして、話が堂々巡りになるということもあるらしい。特にアダールは、2018年あたりに法改正があって、外国人は取得できないことになった。それがまた改められ、外国人居住者も取得する必要があるということになった矢先、パンデミックでどこの役所もロックダウンして手続きが止まってしまった。だからようやく今になってあらためて申請をしている。
 アダール事務所はわりとそこいら中にあるのだが、ローカル専用で英語が通じないことも多い。会社のひとに聞いたら、そういう手続きの代行業者がいるというので、今回はそこへ頼むことにした。数百ルピーの手数料がいるが、必要書類を持ってさえ行けば、申請からカード発行まで面倒を見てくれるからたいそう便利だ。2週間ほどしてアダール・カードが手に入った。あとはヴィザとFRRO の延長手続きをせねば。どちらもオンラインで済むから楽といえば楽なものだ。

 ある日、今度は銀行口座が突然の凍結措置に遭ってしまった。口座のある銀行から「コロナによる特別措置で外国人のヴィザ更新が無期限延期とされていましたが、このたび措置が解除されました。ついてはお客様のヴィザの有効期限が切れていますので、口座が凍結されます。〇日までに更新ヴィザの書類をお送りください」というメッセージが来たのだ。
 いーや、ヴィザは切れていません。何なのだこれ。と思いつつ、折り返しメールで手元にあるすでに延長したヴィザ関係の書類を送るも、なしのつぶて。とうとう問題の日に本当に口座が凍結されてしまった。仕方がないので最寄りの支店に行って同じ書類を出し直す。給与振込先はとりあえず家の人の口座に変更してもらうしかない。買い物用にまとまったキャッシュも持ち歩かなければ。ああ面倒くさい。
 一般のカスタマー・ケア部門と、外国人対応のできるインターナショナル・カスタマー部門と双方に支店から書類を上げてもらったが、いっかな解決しない。どっちからも「対応を該当する部門に送りました。お客様の認識番号は●●です。問題解決まで〇営業日お時間をいただきます」と来る。窓口は文字通り『窓口』でしかなく、君らの仕事は次の部門にクレームを送りつけることまでなのだな。問題解決にはいったい誰が責任を持ってあたるんだろう。
 言われた日にちまで待っても口座は凍結されたまま。しょうがないからまたあらためて「今のステータスを教えろ」という催促のメールを出すはめになる。そしてまた「該当部門に案件を送りました」という例の返事がやってくる。もう別の銀行に口座を開きなおそうかと思っているところ、ようやっと凍結が解除された。なんだったのだろうかこの不都合は。
 学習したのは、銀行支店の窓口担当者の言うことは当てにならないということだ。「携帯をリスタートしてアクセスし直してみろ」とか「最初に登録した支店へ行け」とか、結構、適当な回答で済ませようとするので、頭に来て支店長に会わせろとねじ込んだら、そこからようやく話が少しだけ前に進むようになった。支店長の名刺をもらったので次から困ったらこのひとに直接、言おう。窓口の彼のテキトーな対応もちゃんと言いつけておいた。「あなたがお帰りになったあと、私から彼に注意します」だって。

 日常の問題はまだまだある。『ハト』との闘いは、どこに住んでもつきまとう。

 私はハトが苦手だ。もう少し小さい鳥ならば軒先にいても気にならないが、傍若無人なハトどもは、我が物顔にベランダをうろつき手すりに止まり、隙あらばエアコン室外機の上や裏に巣をつくろうとする。
 前のアパートメントでは、あまり出入りしない北側のベランダの、室外機裏にカップルのハトが入り込み、せっせと小枝を運んで巣作りしているのを発見した。自分ではどうにもできないから、大家夫妻を呼んで見てもらう。が、カプール夫妻もまた自分では手を動かさないひとたちだ。「あらあ、困ったわねえ」と夫人が言って、あとは二人して室外機をじっと眺めている。   結局、通いの掃除人に頼んで巣を撤去してもらった。
 当時、隣人とハト対策の話で盛り上がり、ペットボトルを並べてみたりしては結果を報告し合っていたのだが、ある日、隣の家のメイドが掃除のついでにベランダでハトに餌やりをしているのを見た。これではそもそも無理である。
 ハトは平和の使者だとして、わざわざ餌を買ってまで与えるひとたちもいるが、生理的にダメなのだ。羽やフンから何か病気を運んでくるかもしれない。 
 今のアパートでは、大家の所有物を保管している裏側の小部屋にやはり窓からハトが入り込み、子育てに勤しんでいる。小部屋の鍵は管理人のヴィプールが持っているので、彼を呼んで見てもらうこと2回。2回ともヒナを袋に入れて持ち出してもらった。私と違ってヴィプールはハトのヒナに「ハーイ、ベイビー」と話しかけてやさしく袋でくるみこんだ。それより窓の隙間をどうにかしないと、また入ってくるんじゃないかと思うが、「これでだいじょうぶ」と彼が言うので放っておいた。そうしたらまたある朝から、ピーピーとドアの向こうで鳴く声が始まった。ほうら言わんこっちゃない。
 忙しいのか怠惰なのか知らないが、ヴィプールは「やる」と言ってから実際に腰を上げるまでが非常に長い。3度目のクレームにも「誰か寄越して窓を塞ぐよ」と言ったものの、そのまんまである。
 このアパートメントの屋上に違法に増築したに違いない部屋があって、そこに住んでいるヴィプールは、我が家から電気を『盗電』しているのではないかと、前から疑っている。どうやら家主のプージャもそれを知っていて黙認している風なのだ。

 他にもいろいろ腹に据えかねていることもあって、どこかこの近所で別のアパートに引っ越すことをまじめに考えている。

 役所や銀行のトラブルは日常茶飯事なのに、思い切り使い倒している食品デリバリーでは不思議と問題が起こらない。ほぼ時間通りに来て誤配もないし、欠品はきちんと連絡をくれて代金がリファンドされてくる。これはどこも、仕組みがよくできていると思う。

成長続くインドの食品デリバリー業界( GLD Insight, 30th Jun. 2021 )

ハトに餌をあげないで( TFIPost.com, 6th Oct. 2021 )

( Photos : In Delhi, 2022 )

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