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日本人が知らない世界最強シャープペン「P205(ピーニーマルゴ)」って何ですか?


みなさん、こんにちは。
シャー研部員の藤村です。

今回はちょっと趣向を変え、ワールドワイドにシャープペンを語りたいなと思っています。というのも、これまでのシャー研で取り上げてきたのは、
「サイドノック式への愛が爆発!(過去最高の9500overのスキを獲得)」

「折れない芯のハイテク戦争勃発!」やら、

「ピアニッシモ!懐かしい〜」などなど、

どれも日本におけるシャープペンの話題ばかり。

そう!「シャープペンの魅力を」と言いながらも、我々シャー研はドメスティックなものにばかり目を向けていたのです…! じゃあ、シャープペンって海外ではどんな感じで使われているの?? シャープペンの使われ方でお国柄ってあるの??ところ変わればシャープペン変わる…ということで、ちょっと視野を広く海外にまで目を向けてみたいと思います。

今回は、海外のシャープペン事情を知り尽くすこちらの2名にインタビューを敢行!海外営業本部アメリカブロック部の鮎瀬さん(右)&渡辺さん(左)です。

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お二人ともぺんてるの海外事業所での勤務経験アリ。海外営業部の中でも、特に現地のシャープペン事情に詳しいとのこと。ちなみに鮎瀬さんとは、「#忘れられない一本」にてPG1000(グラフ1000)への一目惚れについて語ったあの!!!鮎瀬さん。

鮎瀬さん渾身の「#忘れられない一本」はこちらから

それでは、グローバルな視点でシャープペンの魅力に迫っていきましょう。

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かわいい系から本物志向まで、世界のシャープペンカラー&デザイン事情


シャ:お二人は、これまでどこの国でお仕事をされてきたんですか?

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渡辺:現在はアメリカブロックを担当していますが、2012年から2020年の9月までは韓国を担当していました。韓国の代理店にぺんてる製品を提案するなどの営業を行っていましたね。仕事の基本は製品紹介で、販売は韓国の代理店さんにお任せしています。

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▲韓国のぺんてる製品展示スペース

シャ:日本でもともと販売されているものを持っていくのですか?

渡辺:はい、基本は海外仕様製品ですが、韓国向けにアレンジもしていました。国が違えば、好みも変わる、ということもありますので。

シャ:どんなものが売れるんですか?

渡辺:低価格の普及品よりも、長く使用できる製図用シャープペンなど、高品質なものが売れていました。シャープペンに求めるのは機能性や質感、材質など本物志向なのだと思います。

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鮎瀬:アメリカでは、逆にオモチャっぽいものが好まれるというこれまた面白い違いもありますよね。ベタな商品というか、ハッキリしたカラーリングやわかりやすいものが好まれています。

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シャ:Mr.PG1000こと鮎瀬さん!現在は渡辺さん同様にアメリカブロック担当とのことですが、その前はどこの国でお仕事をされていたんですか?

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鮎瀬:私はイギリスに5年、スイスに6年、メキシコに4年赴任していました。

シャ:ではヨーロッパは全体的に、どういったカラーやデザインの製品が人気なんですか?

鮎瀬:基本的には、スケルトン(透明プラスチック軸)ものはあまり受け入れられないですね。人気があるのは淡い色系のメタリック素材やネオンカラーまで幅広いです。

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この辺りの塗装はフランス現地でやっています。一時期、現地の若手デザイナーを起用して、若者向けのカラーリングだったりに挑戦したこともありますね。

シャ:おフランス製っていうだけでなんだかオシャレ(笑)。

渡辺:海外ではパステルみたいなソリッドはいいけれど、スケルトン(透明プラスチック軸)はほとんどウケが良くなかったですね。海外のユーザーはシャープペンに対して、品質が良い精密機器のような良さを求めているのかもしれません

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なるほど!マンガやアニメのようなクールジャパンはウケるものの、ことシャープペンになるとかわいらしさは必要ない?海外で実際に売れているシャープペンとはどんなもんや?ということで、まずはアジアでの売れ筋シャープペンを渡辺さんに、伺いました。


キーワードは“金”?アジアの鉄板シャープペン


渡辺:アジアでもP205(ピーニーマルゴ)は、大変普及しているシャープペンです。それ故に、世界中で桁違いに安い「P205のコピー商品」が出回ってしまい、悪影響を受けていました。でも、やっぱりユーザーは品質の良さを求めていたのでしょう。コピー商品が溢れる中で、価格が高くても大多数は“本物”のP205を選んでくれたのです。

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シャ:やはり、コピー商品はすぐに壊れるのでしょうか?

渡辺:見た目だけ真似た「コピー商品」は短期間で壊れてしまいます。それに比べ本物のP205は、「数十年前に買ったものを久しぶりに使ったのに、まだまだ使えた!」というエピソードを良く聞きます。ぺんてるのシャープペンは「使うこと」が前提で作られているので、結果的に品質が良く、長持ちするのです。

シャ:おー!メイドインジャパン!

渡辺:いろいろ調べていくうちに、中価格帯以上の製品でも、付加価値が付けば選んでもらえることがわかったのです。そこですでに日本で発売したことのあった製品からヒントを得て「インパクトのあるゴールド製品を出しませんか?」という話を現地の販売代理店に持ちかけたところ、通称“金ケリー”と呼ばれるP1035-XADが大ヒットしたんです。

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シャ:金ケリーってあのケリーでしょうか?すごい、全然違う製品に見えますね。ちなみにお値段って?

渡辺:今の日本の市場小売価格が5,000円ですね(発売当初は3,000円)。

シャ:た…たかい!!!

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▲発売当時の流通向けチラシ(現在ぺんてる株式会社では取り扱いはございません)

水口:金メッキ製品はいろいろありますが、なかでも金ケリーはすごいプレミアが付いていますよね。ぺんてるのTwitterにも「金ケリー復活してください!」みたいな投稿があったり。

シャ:お、マーケティング部の水口さん!いつもありがとうございます。

渡辺:このヒットを皮切りに、金メッキの限定品を続々と企画して販売したところ、ほとんどが完売しましたね。製品を積んだ船が港に着いた瞬間、全部出荷完了しちゃったなんて話も。

シャ:どういうことですか?

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渡辺:本来なら貿易港に到着した製品は販売代理店の倉庫に入るんですが、あまりの人気に倉庫に入庫せず、そのままお店に直行し、店頭に並んでしまいました(笑)。それだけ愛されている製品でしたから、同じくゴールドカラーのPG1000(グラフ1000)PG1015(グラフギア1000)これまでにない爆売れでした

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シャ:すごいですよね…。港からお店への直行といい、なんでそれほどまでに大ヒットしたんですか?

渡辺:ズバリ、リアル感だと思います。先ほどの話のように、オモチャっぽい質感のプラスチックより、金属の方が受け入れられやすいという下地があるんですよね。

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▲韓国文具店のぺんてるコーナー。商品ラインナップや文具店の雰囲気はさほど日本と変わらない様子だが、やはりディスプレーションからも本物志向がうかがえる。

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シャープペンを求めて港にわんさか人が押し寄せる…。そんなこと想像したこともありませんでしたが、これもれっきとした史実。それだけ当時は「金の●●」が流行っていたのでしょう。

さて、アジアのみならず海外ではオモチャっぽい質感よりも重厚感あるシャープペンが好まれるとのことですが、はてさてヨーロッパはいかに?鮎瀬さんがヨーロッパのシャープペン事情についてお話ししてくれました。


あっちが金ならこっちは銀!伝統と文化を重んじるヨーロッパ


シャ:では、Mr.PG1000(鮎瀬さん)的には金色のシャープペンはどうですか?

鮎瀬:ヨーロッパは金より銀の文化なんですよ。イギリスの法定品位で定められた価値ある銀を“スターリングシルバー”って言うんですが、ヨーロッパで価値ある金属といえば銀。銀食器の文化もありますからね。ただ、シルバーはシルバーでも、シャープペンは磨き上げられたツヤ感のあるシルバーよりも、ちょっとマットな質感があって落ち着いたものの方がいい、その辺りの絶妙なバランスが好まれる傾向がありますね。

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▲シルバー文化のあるヨーロッパの中でも、マット系シルバー(右)は売筋。派手さや主張を抑えた“品”がお国柄とマッチするのかも!?

シャ:落ちつきのあるシルバーがお好み…と。ちなみにヨーロッパで売れているシャープペンってどれですか?

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鮎瀬:イギリスとスイスではP205。なかでもスイスの筆記具といえば誰もがP205を思い浮かべるでしょうね。

シャ:アジアでもP205と言っていましたが、そこは同じなんですね。

鮎瀬:でもね、実は残念なことに、そもそもヨーロッパは万年筆文化なんですよ。小学生の頃から万年筆を使って授業を受けたりとシャープペンにはあまり馴染みがない。

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鮎瀬:フランスには日本の書道に似た、万年筆で書く“カリグラフィー”というのがありまして、日本語に訳すと「書写」ですね。日本の習字のようなものと言いましょうか。ヨーロッパは万年筆文化圏であるため、シャープペンがなかなか根付きにくい環境なんだと思います。

シャ:でも、スイスもヨーロッパですよね?スイスではP205が使われていると。

鮎瀬:スイスってEUに入っていなかったり永世中立国だったりと、ヨーロッパの中にあって陸の孤島というか…。市場が他のヨーロッパ諸国とはちょっと違うんですよね。あと当時のスイスぺんてるの営業部長が、P205の発売当初から熱心に力を入れて販売してくださったという理由もあり、スイスではシャープペンの認知度がヨーロッパではズバ抜けて高いです。

シャ:なるほど、先人たちの努力の結果が文化を作っているんですね。鮎瀬さんはシャープペンを通してお国柄を感じることはありましたか?

鮎瀬:スイスって時計などの精密機器が強い工業立国なんですよね。だからメカニカルペンシルであるシャープペンが好まれるのかなぁと。繊細なつくりや、小さな機構の中にいくつもの部品が入っているところなんかも、時計と通じるところがありますよね。

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スイスでの赴任でとても印象に残っているのは、現地の鞄メーカーFREITAG(フライターグ)」の手帳に白のP205が採用されたことですね。フライターグはトラックの幌(ほろ)をアップサイクル※したメッセンジャーバッグを作ったパイオニア的ブランドです。当然、アップサイクルですから同じものはひとつとしてなく、柄やカラーも1点ものというのが人気で世界的にヒットしました。そんなブランドが、わざわざ声をかけてくれたんです。

※アップサイクル…Upcycle/もともとの形状や特徴などを活かしつつ、古くなったものに新しいアイディアを加えることで別のモノに生まれ変わらせること。

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FREITAG(フライターグ)の特徴であるアップサイクルされた独特の素材に、真っ白なP205が映える!

シャ:日本でも認知度が高いブランドですね。なんでP205なんですか?一番売れていたからですか?

鮎瀬:おそらく、彼らの中にもスイス市場でシャープペンといえばP205一択なんでしょうね。

渡辺:なんでボールペンじゃなかったんだろう?

鮎瀬:手帳はシャープペンで書くものっていう意識があったみたいですね。元々はボールペンを採用していたみたいですが、「手帳ならシャープペンがいいね」という流れで。ぺんてるがノック式シャープペンの先駆者として確固たる地位を築けていたからお声がけしてもらえたんでしょうね。

シャ:白が採用されたのは、手帳のどのカラーバリエーションにも合うからですか?

鮎瀬:そうですね。フライターグのロゴの黒が映えるというのもあって。

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渡辺:白は世界共通の鉄板色じゃない?絶対売れる色ですよね。

シャ:白は世界共通なんですね。ちなみに鮎瀬さんはメキシコにも赴任されていましたが、こちらはガラッと変わりそうな…。

鮎瀬:メキシコはサイドノックシャープペンが愛されてますね。

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シャ:サイドノックって、他の国でも受け入れられたんですか?

渡辺:海外の人はサイドノック大好きですよ。サイドノックで海外への出荷数が多かったのがPD345ですもんね

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鮎瀬:PD345とP205、この2製品がアメリカ大陸の屋台骨をずっと支え続けているといっても過言じゃありません。アメリカでは後端ノックはどちらかというとプロフェッショナル向きで、一般的にはサイドノックが使われています

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▲メキシコ現地の文具売り場。よく見てみると、確かにサイドノック率高め!

シャ:それは興味深いですね。日本でサイドノック式が廃番されたことにふれて、熱い想いを綴ったシャー研の山田さんにぜひとも聞かせてあげたい!!

鮎瀬:メキシコは緑色が売れないって聞いたことがあります(笑)。なんででしょうね。ただ経済的な事情もあり、一般的には子どもが使う筆記用具は安い鉛筆。中高生になるとシャープペンを使い始めるという感じですね。

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▲厳重なガラスケース内で陳列されている「PG1000(グラフ1000)」。これをみる限り、シャープペンは、手頃に購入できるものではないのかも。

渡辺:緑が売れるのはサウジアラビアなどの中近東かと。国旗の色にも緑が使われていることが多いですし。



世界におけるThe mechanical pencil「P205」


シャ:お二人のお話を聞いて思ったのは、とにかくP205が登場するな…と。

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鮎瀬:P205は今や世界のスタンダードですね。私自身はPG1000(グラフ1000)を愛してやまないんですが、でも世界一のシャープペンはP205ですよ。悔しいけれど、王者の座は譲ってます(笑)

シャ:“世界のスタンダード”…はっきり明言されましたね。

鮎瀬:海外はこだわりのある分、間口が狭いんですよ。それでもP205は限定品を出しても受け入れられるオールラウンダーというか。P205なしでは、世界のぺんてるは語れませんね。

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シャ:人気が故にコピー商品も多いと…

鮎瀬:完全なる偽物として売られている商品もあれば、瓜ふたつのコピー商品など、P205っぽいフォルムのシャープペンはたくさんあります。ブラジルではホンモノと区別がつかないようなものまで出ていますからね。でも別の視点からみると、それくらいP205の存在感は海外ではすごいんですよ。その証拠にといってはなんですが、ちょっとこちらを見てください。

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シャ:P205の“箱”でしょうか…?

鮎瀬:はい。海外流通している製品の箱なんですが、よく見てみると芯径が「mm(ミリメートル)」表記なんですよね。アメリカは一般的に「inch(インチ)」表記ですが、シャープペンの芯だけはなぜかどこも「mm(ミリメートル)」表記なんです。

シャ:ええ!?表記までジャパン基準に!

鮎瀬:これはちょっとしたトリビアですが、その国の生活圏の中では普及していない表記がスタンダードになっているって、これもぺんてるのシャープペンが世界基準として受け入れられて、生み出された功績なんじゃないかと思います。それだけP205が早々にアメリカで認知されて、影響を与えてきたというのもうかがえますよね。世界のシャープペン史に名を刻んでいるP205が、日本では大々的に販売されていないのは、もったいないと思います。もっと国内でもそういう面を伝えていきたいですよね。

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シャ:世界ではそんなことになっていたとは…!これまでのインタビューや研究では見えてこなかった、海外におけるぺんてる「P205」の存在感、恐るべしですね。新たな発見ができました。ありがとうございます!

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安価なコピー商品が出まわるなかでも売れ続けている理由。それはひとえに、10年経っても壊れず使える「JAPAN MADEの丁寧なものづくり」なのではないでしょうか。鮎瀬さん曰く「海外でのP205のイメージは、堅牢・堅実・オールラウンダー」らしく、海外から見た日本のイメージとどこか重なるところも。

ちなみにP205の出荷本数は、発売以来50年で累計約2億本(推計)!!!!!

50年も、2億も、とんでもない数字!…ですがそれにも増して、文化も言葉も異なる世界の国々において、まさに“シャープペンのアイコン”ともいえる形を築いたのがこのP205だったという事実はシャープペン史の中でも大きな出来事。

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スニーカーといえばコンバース、ケチャップといえばハインツが浮かぶ…そんな風に世界で流通するシャープペンの原型イメージを確立させた存在なのです。それゆえ世界中にコピー商品があふれているのも、ここまで紐解けば納得がいくはず。日本メーカーが生み出した製品が世界で認められていることは、とっても誇らしいです。みなさんも、この先海外に出かけた際は、ぜひ「P205」や海外限定製品を手にとってみてください。

それでは、また!