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雪降る夜の放浪記

掲示板に時刻が表示されていない。怪しすぎる空気を感じながらもエスカレーターに乗る。いつもなら人があふれかえるバス乗り場。さすがにこの時間だし、平日だし、人もいないのだろう。そう頑張って自分に言い聞かせながらとりあえず椅子に座ってみる。

私は非常事態ほどのんびり食べ物を食べる習性がある。昔家の鍵をなくしたときもまずしたことはドーナツを買うことだった。最終のバスを逃したらしい今も、かばんの中からあんぱんを取り出す。

私の時刻表には確かにある、23:43発のバス。23:13、30分前行動をしてバスを逃すなんて。確かにその日は風が強かった。でもこれは運休の気配ではない、あたかも最初からこんなバスはなかったかのように、当然の顔して人のいないバス乗り場がある。

20分ほど、何をするわけでもなく椅子に座り、あんぱんは食べ終え、それでも椅子に座っている。何でもない時間を過ごして、ようやく現状を確認する気になる。23:43のバスは、金曜のみ運行らしい。私の時刻表にはない情報。

バスセンターを出て、24時間営業の店を探す。都会でよかった、目の前にある。

私はコーヒーを飲めるらしいことに最近気づいた。飲めるようになったのは最近なのか、もう少し前のある点なのか、じわじわ飲めるようになったのか、どれが正解かはわからないけれど、コーヒーが飲める世界はちょっとだけ嬉しい。そんな私の嬉しさはおかまいなく、私がコーヒーだけを注文するとコーヒー1杯で居座ろうとしていると思われてしまうだろう。ポテトを注文する。しかしこれもコーヒー1杯と変わりそうにない。アップルパイも買う。そして、コーヒーを頼み忘れた。

見渡せば、なんとなくわかる。一夜を明かそうとしている人たち。2、3人といったところかな。なーーんだみんなコーヒーしか頼んでないじゃん。ていうかコーヒー頼み忘れたし。

携帯に依存する若者を非難するおじさんの声を聞きながら、5人と連絡を取る。心配されたり暇つぶしの方法を教えてくれたりする。おじさんはガラケーらしい。職場のライングループに入っていないことを誇らしげに語る。そして今も携帯は家にあるらしい。電話がかかってきてもつながらないことを誇らしげに語る。正直、一緒に働くと迷惑だな、と思いながらイヤホンをつける。ど〜せ音楽聴いたり動画みたりネットみたりするんでしょ、あほらしい、という声を聞きながら私は隣の隣で全てを実行する。おじさんと一緒にいるおじさんは、おじさんの話全てに、「でもかわいい女の子から連絡きたら嬉しいんでしょ?」と返す。本当に全ての段落ごとに、かわいい女の子で返す。当然おじさんは不満げだ。それでもかわいい女の子で返すおじさんと一緒にいるおじさん。

気づくと2、3人いたはずの戦友は、2人帰ってしまった。見渡してなんとなくわかるとか大きな口を叩いたことを反省する。

世の中はホームレスに甘くないらしい。24時間営業は、ハンバーガーを24時間買うことができるという意味で、2時から3時までの1時間、私は雪降る夜に放り出されてしまった。

カイロがわりにココアを買うも、その役目を果たしてくれたのはほんの数分。カイロを買えば良かったのかもしれない。冷たいココアを握りしめ、まるで行き先があるかのように歩く。当然行き先なんてない。まっすぐまっすぐ歩き続ける。

中学生のとき、学校帰りに店によってはいけないという決まりがあった。実際決まりがあったのか確かではないのだが、そのような決まりにおびえていた記憶があるからたぶんあったのだろう。そして、保護者と一緒であれば許されるということになっていた、のか、許されることにしていたのか。友達と私は作戦を考えた。商業施設内で見知らぬ人を保護者であるかのようにみせるのだ。まずは、近くを歩いてみよう。しかしそれでは親密さが足りないだろうか。思春期な中学生なら親と仲良く歩かなくても逆に自然かもしれない。それじゃあ、嫌々親に付いてきた中学生、ちょっとふてくされた感じで?実験は色々やってみたのだが、どう頑張っても見知らぬ他人と親子になることはできなかった。

深夜の街は怖いから、そうだ、知らない人に付いていこう。ちょうどいいところに若い女の人の2人組。私たち3人は知り合いで、でも前を歩く2人は仲良しで、なんとなく2人との距離が離れていく、そんな私。信号を3つ渡ったところで二人は別れてしまった。雪が降ってきた。私はフードをかぶる。信号が点滅する。5メートルほどは離れている私はお姉さんに離されそうになる。信号は1度引っかかると全てに引っかかるようにできているらしい。その後も3回引っかかり、3回とも離されそうになり、3回とも小走りで追いかける。さすがにお姉さんが警戒し始めてしまった。ちらちらとこちらを振り返る。やたらと道の端を歩くようになってしまった。ごめんねお姉さん、私に目的地なんてなくて、強いて言えばお姉さんこそが目的なんです。本当にごめんなさい。不審者に襲われないための一番の策は、自ら不審者になることなのだと実感した。

いろんな人にくっついたり離れたり、コンビニを出たり入ったりしながら歩く。雪降る夜の1時間、結局私は誰とも親子にはなれなかった。私と見知らぬ他人の間にはなく、親子にはあるもの。足りないものは、何なんだろう。

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