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革屋と本屋のヨシナシゴト往復書簡014


なぜ草加で鹿なのか/林家つる子さんの寄席に行きました/河合産業までは自転車で8分くらい

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新井さん

落語の余韻を愉しんでいたところ、ビジュアルでも新井さんデザインのつる子師匠グッズ、とお江戸八百八町の緞帳。
お腹いっぱいどころか、ますます落語が聞きたくなりますね。
今、変換の際に「落語が利きたくなります」とでてきて、あららと思いましたが、実はこんな世界に本当に落語が「利く」「効く」かもしれないなと。
前回の書簡でも世界が平和になるかもと書き込みましたが、今の時代に「効く落語」です。

時に落語には鹿政談なんてのもありますが、草加では駆除されたシカの皮もなめしています。
というのは、新井さんが手がけられた「Vermin」がエゾシカを使ったコンセプチュアルな商品でありますし、よくご存じであるとは思います。
シカについては、8年前に秩父方面の二ホンシカを肉は味噌漬けやカレーで利用して、さて皮をどうしようと草加に相談がきて、鞣し(なめし)を始めたことが発端です。
自然のシボ(皺、というか革のでこぼこのマチエル)が面白く、手触りも優しく丈夫でもあるので、そのまま廃棄するのはもったいない素材です。
(ただ現在駆除されているシカの数について、皮革として利用されているのはなんと2%ぐらいだそうです)
タンナーさんが複数いるので、今まで手掛けてこられなかったところにもテストをお願いしました。Verminで使われたのと同じタンニン鞣しです。
ただし同じタンニンでも処方も、使用するタンニン剤も異なりますし、仕上げにとても手を掛けていただき、なんとモミモミすると「きゅきゅ」っというか「ぎゅぎゅ」と鳴くのです。
鳴かせるのが目的でなく独特のタッチとツヤ、シボが特長でなんとも色気のある仕上がり。
これでサコッシュなど作って草加の街をお散歩したいと思いました。
新井さん今後いらしたときにぜひモミモミして下さいね。

「ぎゅぎゅ」と鳴く鞣しの鹿革

色っぽい都々逸で「~~博多の帯が泣く」というのがありますが、草加のシカ革も鳴くのです。
なんだか、、、物語が生まれそうな予感。
ではまた。

河合 泉
LEATHER TOWN SOKA Project team
河合 泉 2024 07/07
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河合さんへ

8日にご一緒した林家つる子師匠がトリをとる上野鈴本の寄席、最高でしたね!

大人の庶民の最高の娯楽が落語だよね!!!!


林家正蔵師匠の演じた『四段目』からリレーして、つる子さんの『五段目中村仲蔵』、素晴らしすぎた。
1場面だけ鳴物とリンクしての仲蔵の定九郎、、、凄すぎた、迫力に飲み込まれました。
凄いとか素晴らしいとか、語彙が追いついていないくらい見たものを消化できていないというか、圧倒されています。
前座さんから一花さんに始まる、煌びやかな芸人がひしめいた寄席でしたね、贅沢すぎました。
追い出し太鼓ではけた後の湯島呑みも、最高でした!

湯島の庶民的な焼きとん屋さん

落語の『鹿政談』は、豆腐屋が神聖なものとして殺してはいけないとされていた鹿を、店の前で誤って殺してしまう噺ですね。
江戸の街で鹿の生活圏と人間の生活圏が重なっていたことが浮かび上がってきます。
鹿だけでなく落語では狐もタヌキも登場して、今よりずっと人間と野生が共存していたんですよね。

今は人間が他の生き物が生きる範囲を圧迫しているせいで、野生が域を超えてきたときには抑圧されたものの爆発のような凶暴なものとして、直ちに人間に甚大な害を及ぼしてしまう。
鹿の食害に苦しむ農家さんも熊に襲われるひとの事故も、人の痛みにも動物の死にもヒリヒリと胸が痛みます。
バランスをとるとして人間側の責務として駆除がされますが、それでも動物の命に祈りをする意識を持つことは、無意味ではないと思います。

『祈り』って叶えてくれるのは神様ですけど祈りの意識を、現実の仕事にしているのが U_taaan leather ですよね。
駆除された鹿の皮を革にして人間の生活に戻しているのが草加の U_Taaan Leather で、その革をいただいている、わたしの作っているブックカバーVerminにも祈りの継承があり、今までにVerminを買ってくださっているお客さんたちは、ひとりひとりが、そのコンセプトに共感しているということを伝えてくれます。

販売では今はどの分野でも製品が横並びにひしめいて、それぞれが価格や機能で光ろうと頑張っていますが、U_Taaan Leather・Verminの持つ『祈り』というコンセプトは特別な静かな光で、届くひとには届くものだと信じています。
今日はこれからVerminを持って、会いたかったひとに会いに行ってきますよ。

Vermin second Season
今回の鹿革も、うっとりするほど美しい『シボ』です

近々「ぎゅぎゅ」と鳴く鹿革をモミモミしに行きますね!
わたしの仕事場から河合産業までは自転車で8分くらい。
同じ町で河合さんと考え事を交差させるのが面白く嬉しく、これもまたとても意味のあることって思っています。

pelekasbook
新井由木子 2024 07/10
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河合泉
埼玉県草加にある皮革工場『河合産業株式会社』。
家族が営む同社を手伝う傍ら、草加の皮革「SOKA LEATHER」のPRを努めている。落語が好き。
新井由木子
埼玉県草加市の小さな書店ペレカスブックを営みながら、町の工場と力を合わせて『読書のおとも』を作る。酒が好き。落語も好き!

河合さんと行った寄席の番組表
夜の部を堪能しました。
やっぱり遊びは寄席が一番いいな!!

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