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【紫陽花と太陽・上】第五話 報告会@遼介宅 中学二年生/六月

(お知らせ)
本記事は長編小説「紫陽花と太陽」上巻、5話目のお話です。
主人公 遼介と彼の親友 剛、2名のみ登場する「対話体小説」となっております。説明文がなく会話のみで進む形です。
前回のお話はこちらから。
【紫陽花と太陽・上】第三話 命日

以下、本文




(ピンポーン……)
「あれ、誰だろう」

「はい」
「よぅ」
「あれ、つよしだ。どうしたの急に」
「まぁ急だよな。お前んち、電話機壊れてんじゃねぇの? 全然通じないんだけど」
「うっそ、ちょっと今見るよ」
「勝手にあがるぞー」
「……」
「どうだった?」
「受話器が外れてた」
「あー、それでか。一応来る前に電話しようとしたんだけどな」
「そうなんだ。いいよ、勝手に来て。いなかったら帰ればいいじゃん」
「まぁな」
「そうだよ、家と家、徒歩二分なんだし」
「これ、親から遼介りょうすけにって」
「何? 僕に?」
「正確には、遼介のおうちに、って言ってた」
「何だろう? お菓子かな?」
「そうだと思う。……ほら、今月お袋さんの命日だろ? それでだと思う」
「毎年いつも何だかありがとうね」
「菓子だったか?」
「うん、高そうなやつだった。食べられないと思うけど……」
「なんで」
椿つばきに取られるんだよね。美味しいやつは特に。うまい棒の辛いやつは押し付けるくせに」
「取り返せよ。弱い兄だな」
「泣かれるよりはいいかなって思っちゃうんだよね。そしたらだんだん調子に乗ってきた」
「そうだろうな。いつもくれると思うだろうな」
「僕が悪いのかな」
「さぁな。……じゃあ、今食えば? こっそりと」
「……開けてみる。……わぁー、やっぱり高そう」
「デパートの地下とかで買いそうなやつだな。和菓子っぽいな」
「開いた。……えっ、すごい、何これ⁉」
「んん? ……おぉ、すげぇな」
「きれいだねー。何ていうお菓子だろう、すごいきれい」
「ゼリーっぽいな」
「一個、二個、……五個もある!」
「よく見ろよ、六個だぞ」
「あ、ホントだ」
「今食っても、まだ全員分あるじゃねぇか」
「父さんは単身赴任でいないし、帰ってくるのはまだ先だからね。今、剛と一緒に食べちゃう」
「俺も? いいのかよ」
「いいって、いいって。今、お茶を淹れてくるね」
「おぅ」

「はい、小皿とスプーン」
「あぁ。乗せればいいのか?」
「せっかくだからね。大事に食べたい」

「はい、お茶」
「さんきゅ」
「うへへへへへ、どんな味だろう。楽しみ」
「笑い方気持ち悪ぃよ」
「ぷるぷるしてるね。それに、色がキレイだね」
「そうだな。……うめぇ」
「もう食べたの? ……あ、ホントだ。美味しい」
「ブドウっぽい味だな」
「そうだね」
「……」
「……」
「……この色、どっかで見たなぁ」
「ん? 紫陽花だろ? 菓子名に『紫陽花』って書いてあるぞ」
「あー、だからゼリーの中に紫やピンクの色が見えるのか」
「うまい」
「あ! 分かった! この色、この前あずささんが着てた服の感じにそっくりだ!」
「急にどうした。……この前って?」
「うーんと、剛の試合見に行った日かな。外で会うの、それ以外ないし」
「おー、確かにな」
「大人っぽい服だなぁって、びっくりしたよ」
「そうなのか」
「うん」
「よく一緒に来たよな」
「あずささん? そうだね、誘ってみたらいいよって言ってくれた」
「でも体調悪くなっちまったんだろ?」
「そうなんだよね……」
「悲しそうな顔すんなよ。雨だったし、人混みのせいもあるんだろ」
「あまりお出かけしないって言ってた」
「まー、私生活、謎だよな」
「うん……」
「最近、よく一緒に飯食ってねぇか? あずさと」
「そうだよ」
「教室にはいねぇけど、どこで食ってんだ?」
「中庭だよ。茶室の裏に座れるところがあってさ、いつもそこで食べてる」
「はぁ、すげぇ場所で食ってんな」
「毎日一緒に食べてるよ。あずささんもね、お弁当、いっつも自分で作ってるって言ってたよ」
「へぇ」
「話してみると、いつの間にかすぐ時間が経っててさ。楽しいよ、いつも」
「あの女と何を話すのか、皆目見当もつかねぇな」
「何を……? うーん、今日は『出汁の取り方』を教えてもらったよ」
「あぁ、料理か。弁当作るくらいだから、遼介と話、合いそうだな」
「うん。あずささん、すごくいろいろ知ってる。朝、ささっと作るための下ごしらえのこととか、いつも食べるごはんのこととか。難しいメニューは作らないけど基本の料理をすごく丁寧に作ってるなぁって、話をしながらいつも思ってるよ」
「そんなに話すのか」
「僕がいろいろ聞いてるのがほとんどだけど、全部丁寧に教えてくれるよ」
「クラスのやつと、話、しなくなったよな。遼介」
「えー……。だって、何の話か分からないんだもん」
「そうか?」
「うん……カラオケの曲の話もテレビの話も、よく分からない。うちじゃテレビは椿か姉さんたちばっか見てるし……」
「プリンセスがどうの、って言ってたな」
「そうそう、フリフリのスカート履いた三色くらいの女の子が敵をやっつけるやつね。もー毎年内容が変わるから、名前覚えられなくて。椿に怒られるんだよ」
「学校のやつとそんな話はしないよな」
「プリンセスのこともよく分かってないしね。というか、母さんの代わりに家のことを始めてから、クラスの人との距離をすごい感じるようになったよ」
「……」
「昔はさぁ、みんなでワーって鬼ごっことかドッジボールとかして遊んだけど。今はね……。みんな部活もしてるし、それ以外は何してるんだろうね」
「そうだなぁ、テレビとか」
「とか」
「ゲームとか」
「とか」
「まだ言うのか。漫画読んだりアニメ観たり、音楽聞いたり、本読んだり?」
「そっかぁ」
「あ、本な」
「ん?」
「これ。お前、前に絵本を探してるとか言ってなかったっけ」
「言ってたよ。学校の図書室を見てみたりもしたよ」
「絵本、親の知り合いから譲ってもらったらしくて、何冊か持ってきた」
「本当⁉ ありがとう!」
「……はい、これな」
「何なに? ……ノンタンのたんじょうび、あ、聞いたことある。こんとあき。かくれんぼ。ぐりとぐら。北風と太陽」
「最後のは、ちょっと年齢高めかもって言ってた」
「北風と太陽……? あとで読んでみようかな。漢字ないよね?」
「お前が読むのかよ……。ふりがなくらい振ってんじゃね? 絵本なんだし」
「漢字は、極力見たくない」
「今からそんなんでこれから先どうすんだよ……」
「勉強、ヤダ……。あずささんと一緒に宿題をやって、どうにかなってるくらいだし……」
「勉強も一緒にやってんのかよ」
「うん。あまりに僕が宿題を忘れるから、心配された」
「分かる。心配になるよな」
「どうして忘れるのか、解決方法がないか、考えてくれた」
「真面目だな」
「あずささんは真面目だよ。それで、学校で終わらせちゃえばいいねってなった」
「確かにな。家に帰ったら忙しいもんな」
「忙しいし、疲れて寝ちゃうし、宿題があったことも忘れちゃうしね」
「牛乳臭くならなくて済むな」
「前に話したっけ。……記憶力いいね!」
「からかってんだよ。まぁ、最近宿題やれてたのは、そういうことだったんだな」
「うん!」
「……」
「どうしたの?」
「……いや、あずさのイメージ、だいぶ変わったからさ」
「イメージ?」
「前は、ちょっと、近寄りがたい雰囲気がすげぇあって、距離置いてた」
「そうかな。でもわりと話すようになったのは最近だね」
「遼介ばっかり話しかけてたよな、始め」
「そうだね。全然笑わないから緊張してるのかと思って、話しかけてた」
「……あぁ。どうした、急に吹き出して」
「え? いや、試合の日にさ。あずささんが剣道にすごく詳しくて。それが、事前にルールガイドを熟読してきたんだって」
「はぁ?」
「もう何年も剛の試合、見に行ってる僕はルールなんて全然よく分かってないのにさ。あずささん、真面目で勉強家で、ホントすごいなぁって思ったよ」
「お前、まだよく知らねぇのかよ」
「面! は分かるよ。あ、一本取った! 勝った! って分かる」
「お、おぅ……」
「でもお互いが棒を持ってさ、しばらく動かない時とかは、何してんだろうなって思う」
「棒って。竹刀しないだよ。あと、相手がどう出てくるのかを見極めてんだよ」
「ぼーっとしてるんじゃないんだ」
「するわけねぇだろ。試合中に」
「棒持って、ぼーっと。あははは」
「自分で言ってウケるなよ」
「そうかぁ、見極めてんだ。剛もいろいろ考えてるんだねぇ」
「少なくとも、お前よりは格段に考えてるな」
「あははははははは」
「おーい、爆笑するところか? 今」
「はははは」

「大丈夫か?」
「……ヒィヒィ、あぁ笑った。やっぱ剛と話すると、楽しい」
「そうかよ」
「相変わらず口が悪いのが気になるけど。もう慣れたし」
「俺の口は変わらねぇな」
「だよね。あずささんは『五十嵐いがらしくんは口調が厳しいな』って言ってたよ」
「そのままの感想だな」
「嫌い? って聞いたら、『そうではない』って言ってたから、大丈夫!」
「そうかよ」
「五十嵐くんって言ってたからさ、剛でいいよって言っといた。たぶん呼び捨てしてくれるよ。真面目だから」
「はいはい」
「あはは、返事が不真面目だ」
「今日は? 椿はどこか行ってるのか?」
「和室で寝てるよ。保育園でお昼に寝なかったんだって」
「げ、この菓子の証拠隠滅しとかねぇと、ヤバいじゃん」
「そうか。いいなーいいなーになるよね」
「うまかった。ごちそうさま。お茶も……んっ、と飲んだし。帰るわ」
「わかった。……はー、晩ごはんの準備かあぁ……」
「ダルそうだな。そりゃそうだよな。悪い、邪魔したな」
「んー? 全然だよ。椿が寝てなければ買い物に行きたかったんだけどね。寝ちゃったし、一人で置いておくわけにも行かないから、諦めてたんだ」
「家にいてくれて、俺は助かったけどな」
「久しぶりの一人の時間だったんだけど、テレビも漫画も興味がないから本でも読もうと思って。でも結局ぼーっとしてた」
「読んではいないんだな」
「うん……。ま、でもおかげで剛とおやつタイムできたから、いっかな」
「普段なかなか話せないからな」
「部活あるから仕方ないよ。試合は終わったけど、また練習頑張ってね」
「まぁな。もうすぐ試験も始まるから、しばらく活動休止になるけどな」
「……試験」
「ふっ……泣きそうだな。あずさと宿題してんだろ? 少しは効果あるんじゃね?」
「勉強が身に付いたという実感をさっぱり感じない」
「実感を感じない……日本語として、どーよ」
「間違ってる?」
「たぶん。てかどうでもいい、食事の支度があるんだろ。俺もう行くわ」
「はぁい。お菓子、ごちそうさま」
「試合、見に来てくれてさんきゅーな」
「うん」
「……何か、俺や親でできることあったら、言ってくれよ」
「うん」
「じゃ、また明日」
「明日は、土曜日でお休み! 来週だね」
「そうか。じゃな」
「おやすみー」
「おぅ」


(つづく)

(第一話はこちらから)

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