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有機農家がクラフトビールを作り始めたワケ 〜種まきからのビールつくり〜

僕は長野県の里山にて動物性堆肥(牛糞とか鶏糞など)を使わずに有機野菜(ミニトマト、ズッキーニ)を作っています。そして2018年よりPECCARY BEER(ペッカリービール)としてクラフトビールの製造を始めました。

僕の実家は仙台市のごく普通の住宅街にあり、親は会社員でしたので、22歳になるまで畑や田んぼ仕事をしたことがない自分が、なぜか有機農業を始めてもう十数年になりました。

初めは、自分で食べるものを自分で作りたいなと、無農薬での野菜作りを学び始めました。その時に、自分で育てた有機野菜の味が今まで食べたことのないおいしさで感動してしまいました。その野菜たちがかわいくもあり、自然の中で働き、そして暮らすことが気持ちが良く、それ以来どっぷりハマってしまい、様々な偶然も重なりいつしか、有機野菜を作ることが職業となりました。

以下の記事にも書きましたが、だんだんと農園の規模が大きくなるにつれて疑問がふつふつと沸いてくる様になりました。そんな時に自分を見つめ直し、自分がやりたいことは、どんなことなんだろうか?どんな働き方がしたいのか?と考えました。
つまるところ行き着くのは、自分はどんな生き方がしたいのか?
ということでした。

ニュージーランドの人たちとの時間の中で
〜クラフトビールとの出会い〜

2015年に、家族4人で3ヶ月間ニュージーランドを旅行しました。
当時、長男は5歳、次男3歳でした。

楽しい思い出がたくさんありますが、スゴく良い時間を家族で過ごせました。何より、息子達が一番楽しかったらしく、また行きたいと言っている程です。(嫌なこともたくさんありましたが、その経験から学びにもなりました。)
僕が感じたのは「そんなあくせく働かなくてもいいのかな」ということです。帰ってきてから、農業ボランティアさん(ほとんどが欧米人)のお手伝いしてもらっている時間もそれまでの6時間→ニュージーランドと同じ半日に減らすことで自分の余裕も生まれ、そしてボランティアさんたちも僕たち家族と過ごす時間を楽しんで欲しいなと思うようになりました。

さて、あちらは夏でしたので、スーパーにビールを買いに行きました。たいして大きな町ではなく、むしろ田舎の町でしたが、スーパーには棚一面に様々なビールが並んでおり、そのスケールに圧倒されました。
その時はクラフトビールというのも全く知らず、ビールの表記は英語だし、なにがなんだかわからないまま適当にビールを買い求め、妻と一緒に飲んでみたのですが、それまで日本で飲んでいたビールと全然違っていました。

まず味が違っていました。濃厚だったり、香り豊かだったり。
その上、フレーバーも様々なものがあり、小ビンのままラッパ飲みで飲むという体験も、いいものでした。
その時はキャンピングカーで寝泊まりしていたので、自然の中で飲むおいしいビールはより最高な思い出となりました。

そして日本に帰ってきて、夏はやはりビールが恋しくなるのですが、スーパーに買いに行くと、ビールコーナーにはナショナルブランドのビールが所狭しと並んでいます。しかし、どれを購入しようか、だいぶ悩むことになりました。そこに並んでいる、どの会社のビールも同じような味だからです。

「ビール」とはなんだろうか?

そんなことからビールについて興味がわき、原料はなんだろうか、どうやって作られているんだろうか、と色々リサーチして行く中で世界には様々な種類のビールがあるということを知りました。

現在日本で作られているビールの原料であるムギもホップも、ほとんどが輸入されている事実も知りました。

ヨーロッパの気候に似ている冷涼な長野県では、ムギは今でもたくさん作られていますが、ホップも長野県でも昔はたくさん栽培されていたようです。今は東北の方に産地が移ってしまいました。

農業をする人が激減している日本で、今後の農地の管理というのが課題になっていますが、僕が暮らす集落も例外ではなく、これから農地はどんどん空いてきます。

そんななかで、わざわざホップやムギを外国から買わなくていいのではないか。長野県でホップやムギを作り、それを原料としたビールを飲みたい!
そして、そんなビールがあれば、地域課題も解決するのではないか。

というのが、ビールを作り始めた、そもそものきっかけとなります。

トマト農家として、ビールを作った後に大量に廃棄される、モルト粕を堆肥として使いたい!というのが、一番の動悸だったりします。

農園でムギやホップを作り、それを使ってビールに醸造し、その残りかすを発酵させ堆肥にすることで、農園に還し、またおいしい野菜を作る。
というサイクルを里山でぐるぐる回していけたら、どんなに面白いだろうか。

有機野菜とクラフトビールによる、地域循環が小さな集落に生まれます。

そして、たくさんの方々との出会いと手助けのおかげで、2年をかけて製造免許を取得することができました。

PECCARY BEERの目指す、ビールづくり

PECCARY(ペッカリー)とは中米に住む野生の豚のことです。
現地の言葉で森に道をつくるものという意味があります。

醸造とは、茂みに覆われた森の中を彷徨っているようなものです。先人たちから真摯に学び、その上で誰も歩いていない、道なき道をかき分け進んでいき新しい道を開拓していきたい。
そしてその先に何が待ち受けているのかわかりませんが、常に美しいものを追い求めてクリエイティブであることを目指しています。

長野県は標高が高く、3000m級の高い山々に囲まれた日本でも特異な自然環境を持っている、農業の盛んなところです。
この自然環境のおかげで、おいしい野菜や果物、畜産物が豊富にそろっています。

日本酒の原料はお米だけ。ワインはブドウだけ。と制約があります。
しかし、ビールにはフルーツやハーブ、スパイスを使っても良いことになっています。(原料比に制限があります。)

さらに長野県は発酵食品を作っているところもたくさんあり、全国的にも有名なメーカーもあります。
日本酒はもちろん味噌や醤油、漬け物など昔から続いてきた、伝統発酵食こそ日本人が誇るべきものだと思います。それを使った、例えば麹であったり、漬け物であったり、それをビールに活かすことも、テロワールという地域性を表現する上では自然なことだと思います。

そんな、日本・長野を体験できるビールを作っていきたい!

そして、そんなクラフトビールをきっかけに長野県の素敵な自然、風景、食、歴史、文化、工芸・・・ にもっと注目してもらいたい!

未来への”タネ”まき

PECCARY BEERで実現したいことは、

・人との繋がり  → 人が集まってくる場をつくる。
・森との繋がり  → 水源、空気、薪燃料、木樽、散策・・・
・農との繋がり  → ムギ、ホップ、野菜、果物、ハーブ・・・

おいしいものには、人が集まってきます。
さらにお酒が絡んでくると、なおさらです。
僕も様々なイベントでPECCARY BEERを提供させてもらっていますが、そのときの印象で、お酒は「エンターテイメント」だなということです。
 
「おいしい」も重要だけど、「楽しい」ことが皆でお酒を飲む本質です。

そこに、地域の食材をつかった料理も一緒に楽しんでもらうことで、ローカルガストロノミーとして南信州・伊那谷に興味を持ってくれる人たちが増えてくれればと思っています。
これは地域の魅力を、ブランディングに使いたいという下心でもあります。

長野県は森林県でもあり、その森林の割合は80%にもなります。
森林は緑のダムと呼ばれる程、その地下に雨水を溜め込みます。
ビールづくりでは日本酒のようにたくさんの仕込み水が使われます。もちろん、その仕込み水の質がビールの出来や質に大きく影響します。

水がおいしい。

これが僕が高遠町藤沢地区という限界集落にブルワリーを設置した大きな理由の一つです。
このおいしい伏流水を使わせてもらっている以上、その水源である森林整備もブルワリーの役目だと思っています。その時にたくさん出るであろう、木材もバイオマスエネルギーとしてビールづくりの熱源に、そして室内の暖房に利用出来ます。
そんな薪の火でビールを作ってみたいです。うちのお風呂は薪風呂ですが、暖まり方が全然違っていて、身体が芯まで暖まります。

もっともっとやりたいことはありますが、とにかく自分たちが育てたホップや大麦を使ったビールを飲んでみたい!






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