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大規模地震時医療搬送訓練@千葉 ③

千葉県は相変わらず停電、断水が続いているようです。自家発電の通常備蓄は3日間程度の病院も多く、そろそろ自家発電での対応も限界に来る病院があるのではないでしょうか。いまのところ医療的ケア児(特に在宅人工呼吸のお子さん)などの情報は多く入ってはいませんが、関係者で心配しています。

記事の更新は迷いましたが、こういう訓練もしているんだよ、ということで安心感につながって頂ければと思いますので、定期更新は定期更新として続けることにします。

本日は、避難所からのニーズに対する対応訓練の様子をお伝えします。

避難所の設置主体と行政区分

先日からお話ししているDMATや災害時小児周産期リエゾンは、都道府県の依頼により活動をします。一方で、いわゆる「避難所」の設置主体は市町村で、それらを管理統括する保健所の設置主体は、都道県の場合と市町村(主に政令指定都市)の場合とがあります。

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※保健所の設置主体の例

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災害時小児周産期リエゾンはおもに県庁で活動しますが、避難所内で発生したニーズがなかなか把握できないという状況があります。災害時の情報は基本的に上の組織図上を系統的に伝達されるのが原則ですが、この際、行政区分を越えて連絡がなかなかうまくあがってこないというのが、原因のひとつです。

小児・周産期に関する医療を扱う担当窓口の名称が市町村によって異なるため、どこに何を伝達したら良いかが解らなくなる、ということが問題としてよく挙げられます。このため、今回の訓練では事前に連絡経路を確認し、実際に情報のやりとりをしてみる、という訓練設計をしました。

ニーズが消える

今回、船橋市と千葉市の皆さんのご協力を頂き、それぞれの地域の避難所で、各6件ずつ様々なニーズを発生させていただきました。特に千葉市では千葉大学内にあるDMATの活動拠点本部に隣接して千葉市の本部が設置されたということで、殆どのニーズを解決してくださったようで、連携のとれた素晴らしい訓練がされたようです。

一方で、「これは県庁で様々な機関と調整しないとなかなか解決しない」というニーズもこの連絡系統の中でどこかに消えてしまい、どうなったか解らないという事象も起きました。現在、事後調査にて原因と対策を検討中ですが、事前にこれだけ連絡系統を確認していても、やはり災害時に混乱しなたかだと情報が伝わりきらないのだと改めて実感している次第です。

避難所内で水痘が発生!?

今回の訓練でわりと印象的だった連絡に、「避難所内で水痘の子どもがいたが、どうしたらよいか?」というものがありました。皆さんだったらどうしますか?

そのこどもに治療が必要かどうか?近くで診療ができる医療機関の情報を伝えなくては!と議論が盛り上がりました。もちろん、当該診療ができる病院をきちんと紹介できるように情報を収集・整理しておくということも、大事なリエゾンの仕事ですが、今回の依頼は「避難所内で何か対策が必要か?」という趣旨の問い合わせでした。水痘は空気感染をする疾患ですので、避難所内での蔓延を心配しての相談でした。

水痘は、接触後から一定期間の間に内服を行えば、予防効果が得られることが解っている疾患です。この為、「予防が必要な人」つまり、避難所の中で「水痘に罹患しうる人」をピックアップする作業が必要です。

結局、小児医療の知識を活用し議論した結果、

成人・小児問わず
罹患歴のない人
予防接種を1回しか打っていない人

をピックアップしまずは対策すべき人がいるかどうかを洗い出すことをアドバイスしました。

災害の超急性期にはなかなか連動することはない(というかそこまで手が回らない)ですが、亜急性期〜慢性期にかけて十分な連携を取っていく必要があり、今後も避難所と連携した訓練は必要だと皆さんに感じて頂くことができたようです。

これらのことは、現在の千葉県で現在進行形で発生している問題で、現地の小児周産期の関係者の方々が、奮闘されていると聞いています。

まとめ

災害の超急性期だけみても、災害時小児周産期リエゾンはこのようにたくさんの機関と連携して活動をする必要があります。また、逆にリエゾンが居なければ、対応として宙にういてしまいそうな問題もたくさんあることがおわかり頂けたでしょうか。

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災害時小児周産期リエゾンが居たとしても、限られたリソースの中で、必ずしも小児・周産期の患者さんを優先して対応してもらうことができるわけではありません。しかし、リエゾン自体が問題意識を持ち、他機関と積極的に関わることで、すこしでも良い環境と医療を提供できる可能性があると信じています。

小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン