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QOL の判断と 「つりあいの原則」

先日、ER の当直をしていて、救急車の受入要請が一晩中続いたことがありました(つまり一人患者さんの方針が決まって落ち着くとすぐ次の受入要請が、、、)。と思いながらトイレに行く余裕もなくすぎ、一緒に当直をしてくれている研修医の先生と看護師さんを鼓舞しながらも、息継ぎさせて、、、と。というのも、歳を経る毎に、当直中の「休めない感じ」がボディーブローのように効いてくる、、、というのと体感しております。。。

まとめてきてもらうのとどっちがいいんだろう、と話していましたが、本日ド緊急の重症患者さんが数人重なり、結論としては、「どっちもつらい」と。完全に救急車の台数とタイミングは完全に「みずもの」なので、どんな事態が突然起こるかコントロールがきかない、というのは ER でのマネジメントの一つの肝だなあ、、、平和な当直が一番です。

症例に戻って、今日は少し込み入った話をします。

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両親が、

この状態で生きていることは本人にとっては大変苦痛な状況である、すぐに人工呼吸器を止めてほしい

と申し出た場合、あなたはどのように考えますか?

「つりあいの原則」 とは?

「釣り合いの原則」とは、

治療を行う倫理的義務があるのは、負担を上回る利益を患者に与える見込みがある場合に限られる

という考え方です。治療によってもたらされる利益と、それがもたらす負担や不利益との関係、ないしつりあいをよく考える必要があるわけです。

患者は何を利益や負担として決める権利があります(= 患者の意向)し、医師は利益と負担の比率をよく考えた上で、患者またはその代諾者に適切な選択肢を提案しなくてはなりません(= 医学的適応)。

一方で、意思表示ができない患者に対し、代諾者が「つりあいの原則」を用いて、判断する場合には、非常に慎重になるべきだと考えています。

このような場合は、先に述べた「最善の利益」に基づいているかどうか?が一つの判断基準になりますが、なにを「利益」とするかは、個々人によっても、社会的な文脈によっても大きく左右されます。また、代諾者と医療者の判断が拮抗・衝突する場面も容易に想像できます。また、QOL を理由にして医学的介入をやめる決定をした結果、患者が死亡したときは、法的な問題が生じ得ます。(例 射水市民病院での呼吸器取り外し 等)

私自身も、日本の文化では、人工呼吸の停止までは望まれない方が多いだろう、と考えていましたが、実際に救急・集中治療の現場に携わってみると、患者が小児・成人問わず、少なからぬご家族から、「人工呼吸器の停止」の相談を受けます。

これらを受けて、話し合いのプロセスを定義したガイドラインが策定されています。

話し合いのためのガイドライン

現時点で公開されているガイドラインをお示しします。

日本集中治療医学会 日本救急医学会 日本循環器学会 による
救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン


日本小児科学会
重篤な疾患を持つ子どもの医療に関する話し合いのガイドライン


全日本病院協会
終末期医療に関するガイドライン

いずれも明確な結論が書かれているわけではありませんが、かなりきわどいところまで言及しています。

これらのガイドラインに基づいて、話し合いを進めていくことになりますが、「人工呼吸の停止」などの生命維持に関わる治療を取りやめることを一つのオプションとして、検討することにガイドラインが触れている、という意味で大変画期的なガイドラインになっています。

【参考文献】
Jonsen AR et al. 著 赤林朗他監訳 『臨床倫理学』第5版 進行医学出版社
清水哲郎/会田薫子編 『医療・介護のための死生学入門』 東京大学出版


小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン