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溺水③〜対処法と病院での治療〜

昨日のtwitterのアクセス数が1000件を越え、さらにビックリしております。皆様ありがとうございます。皆さんの関心が高いということでしょうか。。
とはいえ、実際に溺れているところに出会うことはそれほど多くないとは思いますが、出会ったときには緊急事態ですね。

私はダイビング中に一緒に潜っていた人(当然初対面、、)が水中で溺れ、そのまま引き上げ、岸に曳航し、その場で挿管、病院へ搬送、、、、という今思い出しても身の毛がよだつ経験があり、溺水、というといつもその感覚が蘇り、ぞーーーーっとします。

ということで、溺水の病態と対応をまとめていきます。本日は少し趣向を変えて、ストーリー的に、、、

助ける? 助けない?

とっさに飛び込んでしまいそうですが、ちょっと待って下さい。災害時の安全の考え方に 3S(self > scene > survivor)というものがあります。非常に汎用性が高い考え方だと思っていて、ここでもまずこれを考えます。溺れている人は藁にもすがるおもいで暴れますので、自分の安全が確保できない状況では決して近づいてはいけません。また、波が非常に高い状況など、周囲の安全も確認した上で、救助者に向かいますが、ライフセイバーなどではない非専門職の場合(我々医療者も水中では無力ですし、、、)水の中に入ることは推奨されていません。

ライフガードがいる環境であれば、94%は事なきを得ている、というのはすごいですよね。ライフガード、神です。。

陸に引き上げたら?

蘇生の必要性を判断しましょう。呼吸・体動がない、普段通りの呼吸をしていないのであれば、すぐに胸骨圧迫を開始します。マンガなどでよく水を吹きだしているシーンを見かけますが、誤嚥や窒息のリスクがあり、NGです。

現在の心肺蘇生のガイドラインでは、人工呼吸に躊躇するぐらいなら、とにかく胸骨圧迫をということで、従来のABCからCABへということになっています。しかし、これは決して人工呼吸を軽んじているわけではありません。特に小児では人工呼吸用のデバイスが容易でき次第、速やかに人工呼吸を開始すべきです。なかでも窒息、溺水、気道閉塞、目撃がない心停止、遷延する心停止状態では、早期に人工呼吸を開始することが重要であることが、ガイドラインにも明記されています。

救急外来にて

溺水の病態生理を考えます。

病態の本質は、低酸素血症による心停止、低酸素脳症をはじめとする全身の低酸素による影響、心停止に引きつづいて肺に水が浸入することによる呼吸障害です。

肺は障害の程度により軽度な呼吸障害(酸素投与のみで軽快)するものから、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に類似した肺水腫、あるいは肺炎を合併するものなど重症度は様々です。

肺、心臓、脳をはじめとする全身の臓器への影響を評価し、入院適応を考えます。また、溺水のきっかけとなった原因がないかの検索も同様に重要です。

※LQTS: long QT syndrome(QT延長症候群)の一部(LQT1)は潜水により  TdT(torsades de pointes)とよばれる特殊な不整脈を起こします。

ICUではどうする?

前述したとおり呼吸障害の程度に応じた人工呼吸管理と、心停止による全身の低酸素の影響を考慮した集中治療管理が必要になります。低体温症を合併している場合には、蘇生後脳症の管理とあわせ、何度ぐらいまでどれくらいのペースで復温するのか検討が必要です。

予後は?

病院搬送後の治療とその後の経過をまとめます。

低血圧・ショックと循環に影響を来した症例、意識障害を来した症例は急速に生存率が低下します。集中治療室への入室を迷うことは少ないと思いますが、呼吸障害が急速に進行する可能性、循環に影響がないかなどは常に考慮しながら対処する必要があります。

【参考文献】
1) N Engl J Med 2012;366:2102-10
2) 一般社団法人 日本蘇生協議会
 JRC 蘇生ガイドライン 2015 オンライン版より「小児の蘇生」

https://www.japanresuscitationcouncil.org/jrc%E8%98%87%E7%94%9F%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B32015%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%89%88%E3%82%92%E5%85%AC%E8%A1%A8%E8%87%B4%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99/


小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン