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MRI は死のトンネル?

MRI 検査と安全性

小児科の診療の中で、MRI検査は大変重要な位置を占めており、日常診療で汎用される検査のひとつです。一方で、少なくとも30分程度の安静を必要とし、乳幼児には大変困難な検査でもあります。

このため、鎮静薬による深い鎮静による不働化が不可欠で、小児科医はある意味この「鎮静」に慣れている、といえます。

しかし、「MRI 検査を行う小児患者の鎮静管理に関する実態調査( 小児医療委員会報告 日本小児科学会雑誌 2013; 117: 1167-1171)」では、

– 子どもの鎮静で何らかの合併症を経験した施設が 35%
– 合併症の内訳は、416施設中
  呼吸抑制 75 施設
  呼吸停止 73 施設
  徐脈   21 施設
       心停止     3 施設

と報告されており、合併症の頻度から見て、決して安全な検査とはいえないように思われます。

これを受けて、2013 年(2015年に一部修正)に日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会から、「MRI 検査時の鎮静に関する共同宣言」が出され、大きな話題となりました。

MRI 検査時の鎮静に関する共同宣言

共同宣言では、以下の推奨が、推奨度別に提示されています。

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本宣言をうけて、院内の鎮静に関するガイドラインを急いで整えた病院も多くあると伺っています。

鎮静薬使用に関する誤解

麻酔・救急・集中治療などのトレーニングの経験がない小児科の先生(初期研修では経験された先生を含め)や、研修医の先生方から受ける質問で、

「安全な鎮静薬はなんですか?」
「使いやすい薬はなんですか?」
「●●なときはどんな薬を使うとよいですか?」

というものがあります。非常に回答に困る質問で、「ぜひ当院にトレーニングに来てください」としか答えられないというのが正直なところです。

本ガイドラインでは、これらを背景として、

1. 鎮静薬は自然睡眠と全く異なる
2. 鎮静の深さは「一連のもの」である
3. どの鎮静薬も危険である
4. パルスオキシメーターは酸素化のモニターであって、
     換気のモニターではない

ことが強調されています。具体的な遵守事項は現実的にはなかなか実現が難しい実情もあると思いますが、子どもに鎮静薬を投与する以上、少なくとも上記4点に関しては明確に説明できる必要があると、私自身の経験を通しても考えます。

今日からしばらくは、上記 4 点を中心として、「鎮静」に関わる話題をご提供しようと思います。

【参考文献】
MRI検査時の鎮静に関する共同宣言
https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=33

小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン