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患者の意向を大義名分にしていないか?

昨日はラグビー残念でしたね。にわかファンではありましたが、最後心が折れそうになりつつも、代表の皆さんが全く諦める様子なく攻め続けるようすをみて、心の強さに本当に感動しました。両チームとも最後の笑顔が素晴らしいなと感じました。

一方で、台風19号の爪痕はありつつも、急性期の支援は終了し、慢性期の支援へうつってきているようです。生活再建へ向けて週末はボランティアに向かわれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな中、重い話を続けており恐縮ですが、大事な話だと思うので、先に進めていきます。

昨日は「医学的適応」についてお話ししました。医学的適応とは要するに、患者(または指定された代諾者)に適切な治療方針を提案することにつながるような医師の臨床判断に関わることといえます。

今日は「患者の意向」について考えてみます。

患者の意向とは?

十分に説明を受けた「判断能力のある患者」が、医学的に適応とされる治療を受け入れるという意向、または拒否するという意向は、臨床的、倫理的、法的、そして心理的にも重要です。患者は医師の援助を必要としていますが、医師ー患者関係を確立するための法的道徳的権限を持つのは医師ではなく患者であるということは理解しておく必要があります。
簡単にいうと、医師の判断、提案が如何に妥当なものであろうと、医師が「●●すべき」と無理矢理患者を服従させることはできない、ということです。

このことは臨床倫理の四原則の中の、自律性の尊重、という側面からも大変重要なことです。

病院に行くと、これでもかと「同意書」という名の書類にサインを要求されますが、これは自律性の尊重に端を発して定義される、「個別の治療の前には明確な同意が法的に必須で有り、それによって患者が自らの身体に何がなされるのかを決定する法的権利が守られる」という自己決定権に由来します。

自己決定権は自分の状態に対する何らかの「コントロール感を持つ」という点で、心理的にも重要な事と考えられています。(既に病気というどうしようもなく、自分ではコントロールできない状態にさらされています)

自己決定権、、、本当に「自己決定」できますか?

自己決定権を背景とし、インフォームド・コンセント(説明と同意)という概念が広がりました。患者は自分の価値に基づいて自己決定するのだから、医師は患者の価値判断に介入すべきでないとされます。したがって、医師の役割は主に「技術的な相談役」であり、専門職としての知識と技術を患者に提供するのが職業上の義務であり、患者は自分の権利を行使して選択肢を決定すべきであるというわけです。

権利と義務は表裏一体です。自己決定をしたからには、その結果について「引き受けていく義務」が生じます。日常生活の中で、このことを意識して自己決定している方ってどれくらいいらっしゃるのでしょうか?

また、何か一つを選択する、という決定は、他の選択肢をとらない、という決定の裏返しです。そこまで自分の「価値観」を明確に意識して生活されている方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?

よく研修医の先生とお話しすることですが、車を購入する際に、車のエンジンがとても好きな人は別として、細かいエンジンの違いを説明されてどちらのエンジンが良いか「自己決定」する事は多くの方にとって非常難しいことではないかと思います。自分の身体のこととはいえ、医師でさえ何年もかけて理解する治療法や病気の概念について、そんなに簡単に理解して「自己決定」できるとは私は思えないのです。

そんな中、「共同決定」という概念が定義されてきています。

つまり、患者は自分自身の価値観や考え方を医療者に伝え、その価値に基づく治療法の選択肢の検討を医療者と共同で行い、医療行為の目的設定も共同で行うことが推奨されています。話し合いの過程で生まれる、対話のダイナミズムにより、医師・患者双方の考え方も変化し相互に影響し合うことになります。

「患者の意向」を考えるにあたってのその他の論点

「患者の意向」については、さまざまな論点がありますが、すべてをカバーすることができないので、小児特有の論点にも触れておきます。

一般的には、保護者 = 親 が親権に基づき、子どもの医療を代理決定していきます。医療者はそれを暗黙の前提として、両親とその話し合いを進めることとなります。

その前提を疑ってみます。すると、以下のような論点が浮かび上がってきます。

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長くなってきましたので、このあたり、明日考えてみたいと思います。皆さんも少し考えてみてください。

【参考文献】
Jonsen AR et al. 著 赤林朗他監訳 『臨床倫理学』第5版 進行医学出版社
清水哲郎/会田薫子編 『医療・介護のための死生学入門』 東京大学出版

小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン