禅寺で書いたエアメール
去年のこと。ハワイにエアメールを出したら、見知らぬ奈良のおばあちゃんに電話をする事になった。きっかけは関西に住む友人宅に泊まりに行った事。Go to トラベル事業の真っ只中だった。久しぶりの再会に心ときめかせながら、京都の町を散策した。
観光中、せっかくだからとハワイに住むシャロンさん(仮名:たぶん70歳後半くらい)に手紙を書いた。シャロンさんはホテルスタッフ時代のお客様で、小柄だがパワルフなご婦人だ。よく賑やかな装飾の手作りカードを送ってくれる。最近はスパムおにぎりのキャラクターが描かれたハガキを送ってくれた。
京都の禅寺の縁側の隅で、雨音の中急いで手紙をしたためた。ハガキの絵は神坂雪佳の狗児にした。10月の午後の雨はひんやり冷たく、青々としたこけの香りを一層際立たせていた。
神坂雪佳『百々世草 狗児』
京都の町からハガキを出して数週間後、シャロンさんからメールが届いた。また日本に行きたいということ、そして10年以上前に京都を旅した時の思い出が書かれていた。
シャロンさんが京都で一人旅をしていた時、寺院で出会った一人の女性ハツエさん(仮名)と意気投合し、お茶会に招待してもらったようだ。そこから親交ができ、ハツエさんがハワイに来た時にガイドをして回ったとのこと。それが10年以上前で、もう長い間連絡をとっていないという。
住所と電話番号も控えているが、10年以上も前なので何となく連絡できずにいたようだ。「彼女が元気にしているか分からない。出来ることならまた会いたいわ…」というシャロンさん。
という運びで、私がハツエさんに連絡をとってみることになった。今のご時世いきなり知らない人から電話が来たら不審に思うはずだし、話を聞いてもらえるかも分からない。当時の上司に相談し、会社(ホテル)の固定電話からかけることにした。
ドキドキしながら電話をかける。横では上司が不安そうにみている。
着信音が数回なった時「はい〇〇です。」という快活そうなおばあちゃんの声がした。シャロンさんから聞いた苗字と合っている。少しほっとした。
「私〇〇にあります〇〇ホテルのXXXと申します。突然お電話していまい申し訳ございません。」
「え?ホテル?いきなり何のようですか?」と当然のごとくけげんそうな声が聞こえた。
そしてシャロンさんから依頼を受けて連絡をしていること、シャロンさんがこのホテルに滞在され、スタッフである私と親交を持つようになり、ハツエさんと連絡を取りたいと言っているので仲介をしたと伝えた。
すると、ハツエさんは「あらまぁー!」ととても驚いた様子で少し黙った後、色々な話をしてくれた。なんと80代後半とのこと。チャキチャキとした関西弁で、京都でのシャロンさんとの出会いやハワイでの思い出を話してくれた。
いきなり連絡して驚かせてしまったお詫びとお礼、そして住所に変わりがないと分かったので「シャロンさんからお手紙が届くと思います。」と伝えて電話を切った。上司と二人で安堵のため息をつき、シャロンさんに報告のメールを送った。
後日、ハツエさんと手紙のやりとりが出来たとシャロンさんからメールが来た。メールの最後はYou are a jem.(直訳:あなたは宝石のようです。)で締めくくられ、何だか照れくさかった。
人生では時々、いろんな偶然が重なって思いもしないことを運んできたりする。友人が関西に引っ越し、そこに訪ねて行ったこと、京都からハガキを出したことで、おばあちゃん同士のペンパルが再び始まるなんて。
とても印象的で嬉しかった思い出。せっかくなので、ここに記しておくことにする。
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