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協力し合えるのに、寄り添えない夫婦


 最近、声を出して笑うようになった 丸山さん(仮名)は、83歳の男性。老人性うつ病と、軽度の認知症を患っている。

2023年6月に退院し、病院の指示で訪問看護がスタートするが、当時の丸山さんの表情は、ずいぶん険しかった。

目を細め、遠くを見つめ、私たちと視線を合わせないようにしていた。

出身を問うたときは、「それが何か、今の自分と関係あるんですか?!」と高圧的に返された。余計なことは、聞かないで下さいというスタンスだった。

丸山さんとは、薄味の対応、薄味のコミュニケーションを心がけた。

訪問時間は、10時~10時40分。奥様が、外出をする時間帯に、看護師に来てほしいという。

妻が不在のときに、夫(丸山さん)が、とんでもない事をしでかすのではないかという、切羽詰まった事情があった。

妻は、9時50分頃、家を出発する。外出の目的は、カーブスと買い出しで、正午には戻られる。

退院したばかりの、夫(丸山さん)の行動に心配があるなら、しばらく運動なんて、休めばいいじゃないかと思うかもしれない。

しかし、それでも妻が、逃げるように出かけるのには理由があった。

訪問看護がスタートする3ヶ月前の、ある出来事が影響していた。



2023年2月、丸山さんは自室の鴨居を利用し、用意したロープに首をかけ、自殺を図った。

幸い大事には至らなかった。搬送先の病院で3ヶ月ほど入院、うつ病の治療を受け、現在に至っている。

夫が再び、同じような行動を起こすのではないかという不安と恐怖がつきまとう。訪問とは別枠で、ナーバスな妻との面談に対応していた。

妻は、私がいろいろ強く言い過ぎたのだと、振り返り泣いていた。


丸山さんは、本当に、命を絶とうとしたのだろうか。

準備ロープは、ゴム製だった。自殺を図った日は、長男夫婦が帰省することになっていた。

助けて欲しかったのではないだろうか。

家族に、妻に、振り向いて欲しかったのではないだろうか。

寂しかったのではないだろうか。


早いもので、訪問がスタートしてから、8ヶ月が経過した。

あれから、丸山さんの緊張は和らぎ、会話は良好。食事や睡眠は十分とれ、薬も飲めている。

生活リズムは整い、通院や諸々の手続きも、問題なく行かれているようだ。

気になるのは、やはり妻との関係だ。安定した状態を長続きさせるためには、家族関係の調整が、薬や通院より大切と思える。

今回の出来事を、夫個人だけの問題で、終わらせてはいけない。家族全体の問題として、捉える必要があるのだ。

夫婦はもともと赤の他人だが、一緒になったことで、相互関係が生まれる。人は、一人ひとり、個人として存在しているが、対人関係を通し、循環が発生している。

だからこそ、何か出来事が起きて、心がモヤモヤする時は、互いが原因で、互いが結果であることを、思い出して欲しい。

相手を敬う気持ちと、ありがとうという感謝の気持ちが、二人には不足していた。もちろん、協力し合うことはできているので、夫婦としての事務的な循環はあった。

しかし、それだけでは、心身ともに寄り添うことはできないだろう。夫婦間の、めぐり(循環)を良くするためには、温かい内面的な要素が必要と思える。

最近、訪問において、妻が同席する機会が増えている。三人で一緒にたわいもない話をし、頷いたり、微笑んだりする。これが、良い薬だと思える。

波風が立ちそうになる時もある。妻は、自分の思う正しさを語り、夫(丸山さん)は妻の意見を聞かず、自分の価値観で行動してしまう。

波風という処方薬の、取り扱いを間違えなければ、絆は深まると思うのだか、難しいだろう。二人は高齢だ、エネルギーを使うことになる。

頑固にならず、ぼちぼちやっていってほしいと思う。互いに素直になれるとよいのだが…。訪問を継続し見守っていく。


それではこのへんで、
ありがとうござきました(^-^)





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