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MELODY&NUTS #9 RUN&DIVE

取引から7日
返済期日まで3日
CRY販売数 200錠

ディーの協力によって
CRYの売れ行きは上々だ
この週末に売り切れば
リーへの返済は問題ない

今夜ディーは相棒のシャークと
VANTA BLACKで
出演があるらしい
何やら業界の大物が来るとかで
めずらしく気合が入っているようだった

チケットをもらっていたので
仕事ついでにナッツと行くことにした

VANTA BLACKに到着し
ビールで乾杯をした
フロアにディーの姿は見あたらない
まだ出番まで30分はあるし
準備でもしているんだろう

あらためて会場を見渡してみると
仲間同士でワイワイ会話を楽しむ人や
音に合わせて一心不乱に躍りを楽しんでる人
喧嘩をしているカップル
ファッションがド派手で目立っている人
人間模様は様々だが
そこにいる誰もが
今日を楽しんでいるように感じた

そしてやはり目が行くのは
ステージだった
クールに選曲するDJ
汗を流しフロアを煽るMC
それに応えて大声で返す観客の熱気
そのどれもがメロにはFRESHだった

メロにとってステージと言えば
父が演奏をしている姿と
その演奏に圧倒され制圧される観客
まるでピンと張った緊張の糸を綱渡りする
そんな空間だった

ビールを飲みながら
ステージを眺めていると
ディーが居ることに気がついた
ひどい剣幕で電話をしている

ナッツは知り合いと
話に花を咲かせていた

一人持て余した俺は
新鮮な空気を吸うために
少し外に出ることにした
タバコに火をつけると
電話が鳴った
ディーだ

『メロどこにいる?』
その声はいつも余裕のディーとは別人だ
『外でタバコを吸っていたところさ
 出番楽しみにしているよ』
と言い終える前に
ディーはこう言った
『頼みがある』
『何だよ頼みって?』
『とにかく今すぐそこに行くから
 待ってくれ』
一方的に通話は切れ

しばらくすると
ディーが走り寄ってきた

『相棒と連絡がつながらない
 一人ではとても無理だ
 ステージに上がれない
 メロ頼む俺の横でマイクを握ってくれ』
突然のことに頭がついていかない
『もう出番まで時間がない
 とにかく一緒に来てくれ』

言われるがまま
スタッフ用の裏口から
バックステージへと入る
スタッフから声が飛ぶ
『ディー何やってんだ時間だぞ
 今すぐステージに上がれ』

親指を立てるディー
そのまま振り返り
こう言った

『メロ好きにやってくれ
 上手くいけば今日で
 CRYは売り切れるぞ』

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