見出し画像

ドラッグストア昔話 1

昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。

おじいさんは、杖をついて川へ洗濯に。
おばあさんは、東京都墨田区押上駅近くのドラッグストアへ行きました。


普通、こういう時って、おじいさんは山へ柴刈りに。おばあさんは川へ洗濯に、行くものですよね。わたくしもそう思います。

けれど、普通と違うこの物語の始まりには、
深い深い、長いながあいわけが、あるのです。もしご興味があれば、続きを聴いていってくださいね。


さて。

3年前のある日、おじいさんは山へ柴刈りに。そして、おばあさんは川へ洗濯に行きました。


洗濯が終わりおばあさんは家に帰ってきましたが、お昼時になっても、夕時になっても、
おじいさんは帰ってきません。

そしてあたりが暗くなり、フクロウが鳴き始めると、外で足音がしました。やっとおじいさんが帰ってきたのです。
おばあさんは慌てて外に出て、おじいさんに駆け寄りました。
すると、おじいさんは、片足を引きずり、木の枝で杖をついています。

「おじいさん!どうしたがね!」

おばあさんが慌てて尋ねると、おじいさんは痛そうに額の汗を拭いながら、

「沢に落ちてしまっての、足を挫いた。痛くて夜まで動けなんだ。まだ足首が痛くてたまらん。布団を敷いてくれろ、もう寝るど。」

おじいさんはそう言って、おばさんが敷いた寝床に入りました。けれども、眠れるわけもなく、足をさすりながらウンウンと唸っています。

おばあさんは、おじいさんの怪我を冷やさねばと思い、水瓶からタライに水を張り、おじいさんの足を、水手拭いで冷やしながら、一晩を過ごしました。

明日の朝、お山の稲荷さまのところへ行って、おじいさんの怪我が治るようにお百度参りしよう、おばあさんは怪我を冷やしながら、そう思いました。


翌朝、おばあさんは畑でとれた野菜を、稲荷さまに供える為に、背中の籠にたくさん詰めました。

そして、小さな体で大きな籠を背負い、お山の竹林のなかにある、稲荷さまへ向かいました。

山を登り、森を抜け、静かな竹林を進むと、稲荷さまの祠があります。


「稲荷さま、うちのおじいさんがの、足を痛めて苦しんどるけ、どうにか助けてくれろ。どうにか、稲荷さまの力で助けてくれろ」

そう言いながら、おばあさんは何度も何度も竹林を出て、また稲荷さまへお参りをする、お百度参りをしました。何度も何度も、竹林の入り口と稲荷さまの祠を往復しています。

いつも、ここの稲荷さまにはおじいさんと一緒にお参りに来ていたので、助けてくれるのではないかと、おばあさんはそう思いました。

汗を拭い、必死に竹林を歩き続けるおばあさんのそのお参りが、101回目になったとき、あたりが突然、眩しい光に包まれました。おばあさんは、目を瞑り、顔をしかめ、眩しい光を両手で遮ります。大きな音が聞こえて遠ざかって、嵐のようになって静かになって、そして、突然騒がしいところに、立っていました。

さっきまでは風の音もしない静かな竹林だったのに、今では人の話し声や風の音や、聞いたこともない騒がしい音がたくさんしています。

おばあさんは、眩しそうに辺りを見回しました。石でできた沢山の高いお城のようなものが数え切れないほどあります。牛馬のいない荷車が、たくさん動いています。里では今まで見たこともないようなたくさんの人々が、見たこともない着物を着て歩いています。

おばあさんは、不安になって空を見上げました。すると、白い色の火の見櫓のようなものが見えました。でも、里の村にある、火の見櫓とは比べ物にならないほど、もっともっと高くて、とても大きいものでした。おばあさんは怖くなって、

「こ、ここ、ここここ、ここが、稲荷さまのお国かね?」

そうひとりで、呟きました。
すると、近くを通りがかった女が怪訝そうに立ち止まり、おばあさんに話しかけます。

「おばあちゃん、どうしたの?道に迷ったの?大丈夫?」

おばあちゃんは、震えながら、ものすごく不安そうな顔をして女に訊きました。

「あああんたは、い稲荷さまのお使いのか方かね?」










つづく







シモーヌさんが朗読してくれてます!


もしサポートして頂けた暁には、 幸せな酒を買ってあなたの幸せを願って幸せに酒を飲みます。