婚活における「ピンとこない」という正体
私が結婚したのは35歳のとき。
20代後半から周りの友達の多くが結婚していき、だんだんと取り残されていく中で始めた婚活でした。
何人かの男性と会って感じたことのあった
「ピンとこない…」という感覚。
婚活なんてもう随分前のことではありますが、昔感じていたこの感覚が、この本を読むことで腑に落ち、その正体が明らかになっていきました。
久しぶりに心がえぐられた本。それが、辻村深月さんの『傲慢と善良』です。
この本は、一言でいうと、婚活を題材にミステリーと絡めた恋愛小説です。
物語は、真実という女性が震えながら電話をかけるシーンからはじまります。
電話の相手は、真実の恋人、架。
「架くん、架くん、架くん!助けて」
「あいつが家の中にいるみたい。どうしよう。帰れない」
お願い。怖い。架くん、お願い。助けて。私を助けてと泣きながら祈る真実。
このとき、一人暮らしの真実の家にいた人物とは、彼女に付きまとっているストーカーでした。
婚活アプリで出会った二人。
架はストーカーから彼女を守ることを決意し、そのまま一緒に住み始め、やがて二人は結婚することに。
しかしある夜、真実は突如としていなくなってしまったのです。
ストーカー被害の中で行方がわからなくなった婚約者を必死に探しながら、彼女の「過去」と向き合うことになるという、そんなお話です。
私が冒頭で書いた、婚活していたときに感じた「ピンとこない」という言葉
それが、この本の中で出てきます。
架がいなくなった婚約者を探す中で、以前真実が登録していた婚活相談所を運営する小野里夫人と話すシーンがあります。
「婚活につきまとう『ピンとこない』って、あれ、何なんでしょうね」
と聞くと、彼女はこう答えます。
「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」
「値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。その人が無意識に自分はいくら、何点とつけて点数に見合う相手が来なければ、人は、“ピンとこない”と言います。ー私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない」
そして、さらにこう続けます。
「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」
と。
この小説は、ただの恋愛小説、恋愛ミステリ―ではなくて、人が薄々気づいているけれど、見ないように、言わないようにして、蓋をしている部分をはっきり言語化しています。
もしくは気づいていないけれど、人間の黒い部分、それを恋愛を軸に、ストーリーにして書かれています。
ありきたりの展開ではなく、第一部から第二部まで流れを組んで書かれていて、ところどころに伏線があり、第二部で真相が語られている部分が面白かったです。
最後まで読むと、この「傲慢と善良」というタイトルが腑に落ちます。
「婚活をしている人」「恋をしている人」には特におすすめの小説ですが、誰が読んでも、何かしら心に刺さる部分があるのではないかと思う素晴らしい本です。
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