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小豆餅80's - あの男の目

私は小学校低学年だったころ、浜松市の小豆餅という場所に住んでいた。昭和の後期、そのあたりは自衛隊基地の騒音の影響か、あまり人気もなかった
エリアだと思われ、今思えばおかしな家がたくさんあった記憶がある。

人と目があった記憶って普通は些細なことで、無数に発生する事象であり、記憶になど残らないものである。しかし、子供時代から40年たった今も強く記憶に残っている目線がある。昭和の小豆餅で、あの男と目が合った、その瞬間の記憶が、私にはあまりにも鮮明に残っている。

その日、あれは午後3時くらいだったと思う。小豆餅にあった大きな砂利の駐車場、車はいつも3割くらいしか停まっておらず、空き地みたいなもので、子供の良い遊び場になっていた。その駐車場に併設して大きな庭のある家があった。なぜか分からないが、その家はお化け屋敷と呼ばれていた。

お化け屋敷とは言え、日中にはそれほど怖い雰囲気もなく、特に気にもせず横を通りかかった。私は家に帰る途中だったと思う。後ろには友達か弟が付いてきていたような記憶がある。駐車場とお化け屋敷の庭の間には、焼却炉代わりのドラム缶があって、その周りには放置された家庭菜園の慣れの果てのような20m四方の空き地があった。

その男は空き地の真ん中にいた。いつもは誰もいないその場所に人がいたので、私は気になって凝視しながら通りかかった。特に私たちは声も発せず、ただ歩いていた。すると、ドラム缶の横で何かをしていた男がこちらを見た。ギョロっとした目で私の方を見る。目が合った。

立ち尽くしたその男、40歳くらいで無精髭の、ベージュの作業服っぽい服を着ていたが、何をするわけでもなく、こちらをギョロっと見ている。睨みつけるような眼力で、ただただ見ている。目は逸らさずに30秒以上は経っていたと思う。わたしは目が合ったまま駐車場をでるまで足早にある行って立ち去った。

その男の目がいまでも記憶に残っている。40年も鮮明に残っているのだから、死ぬまで記憶からは消えないのだろう。あの男はこの世のものだろうか?と今でも時々考えることがある。

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