賢王?邪王?アルスター王コンホヴァル誕生の物語
アイルランド伝承「コンホヴァルの誕生(バージョンA)」の素人訳。ウラド(アルスター)の王様、もといクー・フリンの上司コンホヴァル・マク・ネサが生まれるお話です。
主な登場人物はネス、カスバズ、フェルグス。コナル・ケルナッハやクー・フリン、ブリクリウの紹介もあります。異教の王にもかかわらずキリストとの繋がりが明確に示されており、コンホヴァルがとりわけ人気の伝説的人物であったことが窺えます。
誤訳指摘していただけると土下座して喜びます。
元文はこちら
Scéla Conchobair maic Nessa
The Tidings of Conchobar son of Ness
コンホヴァルの誕生(バージョンA)
12世紀の写本レンスターの書より
1
驚くほど威厳のある男、ネスの息子コンホヴァルは、アルスターの隅々まで統治した王としてここに記録されています。
彼の名は母に名付けられました。すなわちネス、アルスター王「黄色の踵」のエオフの娘、彼女こそがコンホヴァルの母でした。
彼女がネスと名付けられた理由、それはエオフの望みに従って、12人の里親がこの女の子を育てたことにあります。
彼らが最初に彼女に与えた名は「アッサ(easyの意)」でした。彼女を育てるのは、とても「簡単」だったからです。
当時アイルランドには、ロスの息子カスバズという名の獰猛な戦士がいました。
戦士であることに加え、彼は魔法使いでもありました。
そういうわけで、彼はマンスター地区の覇者を決める試合にやってきたのです。
すると偶然、彼は自らの戦士団と共に、エオフの娘の里親たちがいる館に辿り着いてしまいました。
12人の里親たちは一晩のうちに彼に皆殺しにされ、そこで笑っていたのは誰なのか、知る者は誰一人いなくなりました。
2
その後、女の子は戦士になりました。彼女は武器を取り、アイルランド中の27人と共に旅立ちました。そうすれば、誰が彼女の里親たちを殺したのか、分かるかもしれないと思ったからです。
彼女は部族を荒廃させ、全てを満遍なく荒らしました。なぜなら、彼女は自らの仇について何も知らなかったからです。
「これからは彼女をNi-hassa(not easyの意)と呼ぼう」
みな口々にそう言いました。
こうして、彼女はNi-hassaと呼ばれるようになったのです。
3
それから、彼女はアルスター地方の戦士になりました。
ある日のこと、彼女はたった一人で沐浴に訪れました。しかしその時、戦士カスバズと出くわします。
カスバズは彼女の間に割り入り、両耳を掴んで彼女を捕まえました。こうして彼らはひとつになり、彼女はカスバズの最愛の妻となり、一人息子を産み落としました。
それこそが、その子供こそが、カスバズの息子コンホヴァルなのです。
4
産まれた子供、すなわちコンホヴァルは、誠に光り輝き、威厳に満ち溢れていました。
それも当然でしょう。何故なら彼は、キリストと同じ時に産まれたのですから。
彼が生まれる7年前、7人の預言者が彼のことを予言していました。
「偉大なる誕生、キリストの聖誕日、彼方の石の上にコンホヴァルは産まれ、その名はアイルランド全土に轟くであろう」と。
5
コンホヴァルの誕生から7年、彼の威厳は大変素晴らしいものとなっていました。
それから、彼はアルスターの王権を得ました。
その原因はこうです。
彼の母、エオフの娘ネスは未婚でした。
アルスターの王権を握っていたロスの息子フェルグスは、その女を、すなわちネスを妻に欲しました。
「お待ちになって」
彼女は言いました。
「ご褒美をくださるまでは駄目。つまり、私の息子に1年王権を下さるまでは。彼の子が王と呼ばれるのを実現してくださるまでは」
「許そう」
みな言いました。
「王権はなんじのものとなる。されど名ばかりの王権となろう」
その後、女はフェルグスと寝ました。こうして、アルスターの王権は建前上コンホヴァルのものとなったのです。
6
それから女は、息子と、息子の世話役と、馴染みの者に指示を出し始めました。全ての次男坊から身ぐるみを剥ぎ、奪った財産を他の者に与えるようにと。また彼女は、自身の金と銀をアルスターの戦士たちに与えました。これらが、息子にとって良い結果になると考えたからです。
7
そして、1年の終わりがやってきました。
さっそくフェルグスは誓約を求めました。
「そのことについてお話が!」
アルスターの人々は言いました。
彼らは集会を開き、協議を行いました。
彼らはこう考えました。フェルグスが結婚持参金のように、ネスへそれら(民衆のことか?)を与えたことは、非常に不名誉であると。
一方、自分たちのために贈り物をしてくれたコンホヴァルには、非常に感謝していました。
彼らの投票によって、これらのことが決まりました。
「フェルグスが手放したものは何であれ、彼から引き離すこと。コンホヴァルが手に入れたものは何であれ、彼のものであること」
8
こうして、フェルグスはアルスター王の座を離れ、コンホヴァルがアイルランド第五の王と呼ばれるようになったのです。
9
誠に素晴らしきは、アルスターの人々がコンホヴァルに向ける畏怖の念でした。
これは心からの尊敬でした。すなわち、どんなウラドの男であれ、成人した女と結婚すれば、女は初夜をコンホヴァルと共に過ごしました。コンホヴァルが最初の夫となるように。
10
彼の盛りはちっとも過ぎず、賢さを失いませんでした。
彼は許しのない時、一度に審判を下すことは決してありませんでした。誤った判断が下されることのないように、作物の実りが悪くならぬように。
11
この時、彼はこの世で最も強い戦士ではなかったものの、危険に晒されることは決してありませんでした。王の息子を、国にもたらすためです。
戦士たち、百戦錬磨の兵たち、勇気ある英雄たちが、争いや戦争で彼の前に立ちましたので、危険が及ぶこともなかったのでしょう。
12
どんなアルスターの男であれ、夜の宴会でコンホヴァルをもてなせば、男の妻は彼と共に眠りました。
13
300人、60人、5人もの人々がコンホヴァルの家に住んでいました。1年の日数は、コンホヴァルの家に住んでいた男たちの数でもあります。
彼らはおのおの協力していました。ある男にやる食料を毎晩備蓄するためです。その夜、まっさきに食べ物にありつく者は、1年の終わりに再びやってくるのです。
普通の人間であれば、1匹の豚、1匹の鹿、エールの大桶があれば食事量は十分でしょう。
しかし申し上げたとおり、それでは十分でない男がいるのです。例えば、フェルグス・マク・ロイヒのように。
それが本当であれば、彼の体格は非常に立派なもの。そう、「7つのフェルグス」のような男に出会うことは滅多にないのです。すなわち、彼の耳と唇の間は7フィート、目の間は拳7つ分(42インチ)、鼻は拳7つ分、唇も拳7つ分という大きさだったのですから。
また、彼の頭を洗うにはブッシェルカップいっぱいの水が必要でした。
彼の陰茎は拳7つ分の長さがありましたし、陰嚢はブッシェルバッグほどの大きさでした*1。
フリディッシュが来なければ、彼を抑えるのに7人の女性が必要となりました*2。
7匹の牛、エールの大桶7つ、7匹の鹿をたいらげれば、彼は700人力にもなれました。
そういうわけで、1週間の間、ほかの誰よりも王室で彼のために食事を提供する必要があったのです。
14
さて、コンホヴァルは偉大な主らのための集会、万聖節の饗宴を自ら催しました。
大勢の群衆のため準備が必要でした。なぜなら、諸聖人の日の前の夕方にエウィンに来なかったアルスター人は、みな正気を失ってしまうからです。次の日になると、土塚と、墓石と、墓碑が置かれたものでした。
15
ですから、コンホヴァルはそれはそれは大変な準備をしなければならなかったのです。
祝祭の前の三日間、祝祭の後の三日間にコンホヴァルの館で催される祝宴は、本当に格別なものでした。
誠に美しいのはその館です。
コンホヴァルは3つの館を有していました。すなわち、赤枝の館、綺羅光る贅沢の館、そして鮮赤枝の館です。
鮮赤枝の館には、戦利品と生首が飾られていました。
赤枝の館には王たちがいました。そこは強き王のための場所だったのです。
綺羅光る贅沢の館には、槍と盾と剣が飾られていました。柄に金がまだらに散りばめられた剣、ぎらぎらとした青い槍、金と銀が渦巻き状に刺繍された服、金と銀の秤、まん丸の盾、儀式用の杯と、角と、ゴブレットなどです。
16
戦士たちが館にいるとき、彼らの武器を取り上げたのには理由があります。
彼らが何らかの侮辱を耳にすれば、直ちに復讐せずにはいられぬと、すべての男たちが一斉に立ち上がるでしょう。皆が互いの盾や頭、家の至る所を打ち付けるものですから、すべての武器を綺羅光る贅沢の館から持ち出すようにしたのです。
17
そこには、コンホヴァルのオハン、4つの金の縁が施された盾がありました。
ほかにも、クー・フーリンのフヴァン、コナル・ケルナッハのラムサファド、フィレデスのオハネ、フルベディのオールデリ、クースクリドのコースクラハ、アウァルギャンのエフタハ、コードレのイル、ヌアザのカンディル、フェルグスのロヘイン、ドゥブタハのウアサハ、エルゲのレッタハ、メンドのブラタハ、ノイシュのルシフ、ロイガレのニーハ、コルマクのクローダ、シェンナヘズのシュキヤルグラン、ケルトハルのコムラ・ハヘがありました。他にも、数えきれないほどたくさんの盾があったのです。
18
コンホヴァルの王室は、威厳に満ち、歓喜に満ち、名声聞こえ高く、大変著名でありました。
そこには覇者も英雄もいませんでしたが、第一に、フェルグス・マク・ロイヒは十分に勇敢な男でした。彼はクアルンゲの牛捕りでのGárechの戦いで、コンホヴァルへの怒りから大地を三振りし、ミーズの3つの丘の頂を吹き飛ばしてしまったのですから。ちなみに、3つの丘は未だそこにあり、未来永劫残ることでしょう。
19
アウァルギャンの息子、暗い髪のコナル・ケルナッハほど勇敢な男もいませんでした。つまり、彼が槍をその手に取った時から、コナハト人をひとりも殺さぬ日はありませんでしたし、コナハト人の家を燃やさぬ夜もなかったのですから。
それに、膝の下にコナハト人の首を置かずに眠ることも決してありませんでした。
アイルランドに、コナル・ケルナッハが虐殺を行わなかった牛主の土地はひとつもありませんでした。
アイルランドの戦士らの前で、勇気の証としてマク・ダトーの豚を切り分けたのも、このコナル・ケルナッハです。
殺されたアルスター人がいればアイルランドの男たちに復讐し、死の運命をもたらす男。槍を手に取れば、コナハト人の首なしに集会へ出かけることはなかった男、それがコナル・ケルナッハなのです。
20
そのうえ、アイルランドの男たちを追い立てる有名な若者もおりました。すなわち、妖精塚からやってきたUmendruadの息子、Móraltachの息子、Beccaltachの息子、スアルダウの息子であるクー・フリンのことです。彼の兄弟Beccaltachの息子Dolb、妖精塚からやってきたElcmaireの妻Ethne Ingubai、その姉妹、カスバズの娘デヒティネが、クー・フリンの母でした。
とても痛烈で強烈なのは、若者の数々の行いにあります。
彼が怒りに燃えるとき、対抗しようとするのは実に哀れなものです。
彼の足とくるぶしはよく走り回り、それらは…のように素早いものでした。
髪の毛はサンザシの棘のように鋭く、全ての毛に一滴の血がこびりついていました。
二つの目のうち、ひとつは頭蓋骨にめり込み、もうひとつは拳の長さにまで外へ飛び出ていました。
戦いにもなれば、友も愛する人も認識しなくなりました。
彼の前にいようと後ろにいようと、彼は等しく殺すことでしょう。
アイルランドの男たち全てを超える戦功績を彼は持っていました。それは、Lethaに住むアードガムの娘、Scdthach Buanannからもたらされたものです。すなわち、CattとCuarの妙技、リンゴの妙技、刃の妙技、仰向けの妙技、小さな投げ矢の妙技、縄の妙技、肉体の妙技、戦士の跳躍、棒投げ、néim越えの跳躍、高貴な戦士のたたみ込み、槍裂き、敏速のbai、車輪の妙技、鋭利の妙技、呼吸の妙技、…の…、戦士の咆哮、脇腹への力強い一撃、槍に向かって走り、槍の先端で体を真っすぐにする英雄縛り付けの妙技などを授かりました。
21
言い伝えより素晴らしいことといえば、コンホヴァルの家族と邸宅の多さでしょう。すなわち、部屋数は50の3倍もあり、それぞれの部屋には3組もの夫婦がいたのですから。
邸宅と部屋の周りには、赤のイチイ材が板張りにされていました。
館の中にはコンホヴァルの座がありました。
周りの最前部には青銅が敷き詰められ、さらに先端には黄金の鳥たちと銀のリングが描かれていました。鳥たちの目には、とても貴重な宝石が埋め込まれていました。
コンホヴァルの頭上には、指示を与えるための銀の棒があり、さらにその上には、3つの黄金の林檎がありました。これらが揺れる時、また王自身の声が発せられる時には、多くの人々が沈黙しました。たとえ針が落ちてきたとしても、彼らはコンホヴァルへの敬意から沈黙を貫くことでしょう。
22
コンホヴァルの部屋では、30人の戦士が飲み騒ぎました。Ólnguala、すなわち家の床には、常にいっぱいに満たされたグレッグの大桶が備えられていました。これはグレッグがコンホヴァルに殺された際、グレン・ゲオルグから持ち出されたものです。
23
その中には、偉大な手腕を持った男がいました。すなわち、Carbaidの息子ブリクリウのことです。
偉大なるCarbaidの9人の息子たち、すなわちGlaineとGormainech、Mane、Minscoth、アリル、Duress、レット、そしてブリクリウがそこにいたのです*3。
ブリクリウは、実に毒のある、不快な舌を持つ男でした。
彼は悪意をたっぷり心に抱いていました。
彼が秘密を心の中に留めようものなら、紫色のおできが彼の額に現れ、男の拳ほどにも膨れ上がることでしょう。
そのため、彼はコンホヴァルにこう言ったものでした。
「今夜はおできが爆発しそうだ、コンホヴァルよ」と。
24
このように、賢明なコンホヴァルの館には、実にたくさんの素晴らしい人々がいたのです。
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*1 : ブッシェル=約36リットルらしい。それだけの水が入る袋と同じくらいデカいタ〇キンということ。
*2 : 当然ながら、性的な意味。
*3 : 言及されたのは8人のみ。
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