見出し画像

いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第17話「中華そばの命」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった… 

*前回またクソ長文章になってしまったので反省。端的にいくぜ。


■ あらすじ

 高校の同窓会で、久しぶりに友人たちと旧交を温める栗田。話に花が咲く輪の中で、浮かない顔をした双子の姉妹がいた。聞けば双子の姉妹の結婚相手も同じく兄弟で、また稼業も同じくラーメン屋をやっているのだという。なんだか漫画みたいな話だ。
 栗田は話題性十分とみて取材させてほしいと伝えるも、双子の姉妹は浮かない顔…この時代、東西新聞社のような大手マスメディアい取材を申し込まれて困惑の色を隠せないのは、とても深い事情がありそうだと察する。

取材させて!と申し出る栗田も肩透かしを食ったような感じ

 何故ならこの双子の姉妹が嫁いだ兄弟というのは、昔こそ仲良く一つの店を切り盛りしていたが、どちらの腕が上かで揉めて、店を割り、今では真っ昼間から抗争を繰り広げているからなのであった。

ウチこそが美味い、正統だといって譲らない兄弟。白昼堂々天下の往来で兄弟喧嘩。
おれが!おれが!の兄弟喧嘩に妻姉妹を巻き込むあたりとことんアホである

兄弟が一丸となって店を切り盛りしていた頃は名店と称され商売も繁盛していた。しかし、その名声が兄弟どちらの力によるものなのかという議論が始まり、エスカレートしきって今に至る(別々の店を構えて白昼堂々喧嘩を始める)そして、両者とも評判を落とし経営は危機に瀕している…
 兄弟の不和のもとはラーメンの味のこと、味のことといえば山岡士郎。栗田は早速山岡に協力を請う。(「これから山岡さんが遅刻したときにはあたしが代わりにタイムカードを押しますから! という犯罪まがいのことをやると約束までする)この件は本当に山岡に全く関係のないことで、ダルそうな素振りを見せつつ最終的には協力してしまう山岡は、やはり栗田のことを認めているし、情が湧いている。だって「遅刻したときにはあたしが代わりにタイムカードを押してあげる」シーンなどこの後一切出てこないのに、山岡はそのことを恨む風でもなく流しているのだから。

 栗田の熱意に絆された山岡は一計を案じる。それは兄弟不和の原因となったラーメン評論雑誌にあらためて兄弟それぞれの店のレビューをしてほしいと依頼することだった。火に油だろそれ。爆発鎮火を狙っているのか?
 ともあれ、レビュー当日を迎えまずは兄の店から試食に入る。兄の麺打ちの腕は見事なもので評論家たちも「あれだけ見事な麺を見せられると、期待でノドが鳴るね」と期待感ストップ高…なのだが、実際に出来上がったラーメンを食べてみた一同の表情は冴えない。栗田も内心「美味しくない(意訳)」と思っている。

兄は麺打ちの達人。評論家たちも激賞の腕の冴え…だったのだが…

 続いて、弟の店に試食に入る評論家たち。弟の麺打ちの技術は兄と比べて明らかに見劣りし、やはりラーメンとしての評価も厳しいものとなった。

 さて、いよいよ講評となったが…

やっぱりね。

 彼らもラーメンのレビューに心血を注いだその道のプロ、一度下した裁定を覆すにはそれなりのものが必要であったが、兄弟は揃ってそのハードルを超えることは出来なかった。どっちもダメってこと。どっちが元祖だ本家だと骨肉の争いを繰り広げていたのがバカみたいである。
 講評によると兄は麺打ちはいいが茹でとスープがダメ弟は麺打ちはダメだが「出来上がった物はけっこう食べられるものに仕上がっているのが不思議」という上げ下げ謎の評価だった。
 いずれにせよ、評論家たちを納得させられるような出来ではなく「もはや我々の研究対象とはなり得ませんでした」と最後通牒を言い渡されるが、そこに颯爽と山岡が現れ、兄の打った麺で弟が調理してみろと提案する。
 言われた通り、弟が調理したものを供すると、評論家たちは「これなら堂々の三ツ星です!!」「三ツ星以上ですよ!!」と揃って激賞。そうなれば、栗田の言う通り、店(暖簾)として取るべき選択肢はひとつだろう。

「つまらない意地を張らないで!」いやほんとそう。

 そうして、冷静な第三者の意見、提案、結果を突きつけられた兄弟は元通り二人三脚、いや妻も含め四人五脚で店を切り盛りすることを決めたのであった。おしまい。

◆ 策士・山岡という一面

 兄弟不和の原因となったラーメン評論雑誌に厳しい現実をナマで突きつけさせ、山岡が解決策を示唆・提案すること、そしてさらにラーメン評論家にそれを認められること。どの立ち位置や役割がズレていても、兄弟不和は収まらなかっただろう。白昼堂々つかみ合いの喧嘩をおっぱじめるアホに冷水を浴びせ、うまいラーメンを作る道筋をつくり、それを褒めさせる。詐欺みたいな構造の展開だが、結果オーライ。山岡は策士だなあ。

◆ 報酬が減ることより、賞賛を独占するよりも大事なこと

 別々の店であったものを統合し、一つにするということは畢竟ひとりアタマの実入りは少なくなるわけで、ラーメン屋で職人2人と手伝い2人(妻)を養うのは、これも茨の道かなと思う。
 しかし、くだらないことに端を発した兄弟喧嘩が収束し、元通りうまいラーメンを提供し続けることができれば、2号店3号店も夢ではないし、奥さん姉妹を置いてけぼりで自分たちだけ些細なことでいがみ合っているのもくだらんでしょう。プライドというのは人に誇示するため、争いの道具とするためのものではなく、己の内で自らを奮い立たせる火口なのだ。火鉢の炭は灰を被せて火を落としたとしても、灰を払い息を吹きかければたちまち火が甦る。プライドとは、そういうものなのではないだろうか。己の真のプライドが何か理解した兄弟は、この後すこし惑ったりぶつかったりしながらも、再び同じことを繰り返さないだろうと思う。

◆  あなたは「喧嘩ラーメン」を知っているか?!

 ほとんど似た展開のストーリーが、土山しげる先生の『喧嘩ラーメン』にもある。『喧嘩ラーメンをご存知か?』(ナートゥナートゥナートゥ♪)
 こちらは『美味しんぼ』が麺と、麺の調理・スープの二項対立であったものが、「具(チャーシュー)」という第三軸を交えて展開されている。美味しいラーメンを作るために、最後には三兄弟一致団結するというところも同じだ。もしかしたら土山しげる先生も『美味しんぼ』リスペクターだったのかもしれない。

『喧嘩ラーメン』第10巻 「あたりや三兄弟」より

 土山しげる先生はすでに鬼籍に入られたが、素晴らしい料理漫画をいくつも世に出している大作家である。機会があればまた紹介したいものだ。


◆ 今さら読む『美味しんぼ』

これまでの各話も感想をマガジンにアップしています。他の話もよろしければ是非!


◆ 私の本業は…

・実は、本業は…
 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。
≠鉄道オタク の視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、もしよろしければ是非以下を…
=============================================

ローカル線の存廃問題についての記事をまとめているマガジンです。
よろしければほかの記事もぜひ!

地方のローカル鉄道はどうなるのか、またはどうあってほしいか|パスタライオン ~鉄道と交通政策のまとめ~|note


この記事が参加している募集

#マンガ感想文

20,255件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?