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光害関連ニュースまとめ 2024年7月

2024年7月の光害関連ニュースです。
遠出する機会が増える人もいる夏休みを前に、観光の観点から暗い夜空を取り上げたニュースが増えたように思います。オーストラリアABCニュースはは、光害がもたらす影響や暗い夜空の価値について問い直すしっかりした記事を出していました。世界中どこであっても、照明を工夫すれば安全を確保しつつ光害を抑えた照明は実現できるし、そうして守られる暗い夜空と美しい星空の価値は人類普遍のものである、と信じています。


地上の光害に関するニュース

天の川 広がる絶景 写真愛好家、関根英明さん撮影 「夜空の明るさ調査」佐野市北部 栃木県内1位

2024年7月4日に東京新聞に掲載された記事。環境省の夜空の星空調査で、栃木県内で一番暗いという結果が出た佐野市で撮影された街明かりと天の川の写真です。20等以上なら天の川がよく見えるとされる中で、ここは20.72等。佐野市は関東平野の北端ですので南を向くと街明かりは入ってしまいますが、それでもしっかり天の川が写し出されているのは良いですね。『金子裕市長は1日の記者会見で「『奥佐野』の美しい夜空という資源をしっかり守っていく」と七夕に向けてアピールした。』とのことで、町を挙げて光環境も含めた保全に力を上げていただけるとよいと思います。

なおこの結果は最新の調査ということなので、2024年1月のキャンペーンでの結果ですね。その結果は簡単に以下にまとめてありますので、ご関心のある方はこちらもどうぞ。

天の川で水浴びする「やんばるくいな座」 沖縄・国頭村が独自に制定 星空観光の促進に期待

2024年7月7日に沖縄タイムスに掲載された記事。沖縄本島の北端にある国頭村は、星空保護区への認定を目指しています。村の鳥でもあるヤンバルクイナを模した星座を村が独自に作ってアピールに使うのだそうです。面白い取り組みですね。国際天文学連合が定めた星座で言えばさそり座、いて座、へびつかい座あたり。さそり座の1等星アンタレスには星座線をつながず、鳥の目と見立てているんですかね。本州からだとさそり座は南の空低くに見えますが、沖縄なら本州から見るよりは高く昇ってくるので、ヤンバルクイナの足のあたりまで見えるということでしょう。

記事にもありますが、『国立天文台によると天文学で使われる世界共通の88星座とは別に、自治体が星の配置を何かに見立てて独自の星座を作ることに制限はない』とのこと。

不連続線:さまざまな自然現象が紙面をにぎわせている

2024年7月12日付で八重山毎日新聞に掲載されたコラム。石垣島天文台で撮影された南十字星を枕に、八重山の暗い夜空と宇宙の広がりについての話題が展開されます。私も制作に関わった「一家に1枚宇宙図」の話題もあります。宇宙図は2007年に初版、その後2013、2018年版と更新してきて最新は2024年版。コラムでは、私たちの体を作る元素と宇宙の星々とのつながりに触れていただいています。星空の向こうに広い広い宇宙が続いていて、私たちはその広い宇宙の一員である。光害を抑えた暗い夜空の元で、そんなことを考えながらぼーっと星空を眺めていたいものです。

星空きらめく神津島 街灯改修し、闇夜守る 飛び交う衛星、流れ星

2024年6月29日に朝日新聞に掲載された記事。6月の掲載ですが、先月見落としていたようなのでこちらで紹介します。星空保護区に認定されている東京都の神津島での取材で、光漏れが少なく色温度の低い街灯に取り替えられたことや素晴らしい天の川について紹介されています。星空保護区認定を契機に観光客も増えているようで、星空という資源をうまく活かしてほしいですね。一方で、時折見えるスターリンク衛星がポジティブに紹介されているのは少し残念です。

オーストラリアは天の川を失う危機にあるか

2024年7月31日、オーストラリアのABCニュースに掲載された記事。光害の少ない暗い夜空のもとで、天文学の学生たちから「天の川はどこか」と尋ねられたというオーストラリアの天文学者Brad Tucker氏のエピソードから記事が始まります。もちろん学生たちは天の川の存在やその正体は理解しているわけですが、実際の空では見たことが無かったとのこと。
ここから話はオーストラリアの光害の話へ。このnoteでも紹介した、2016年の夜空の明るさ世界地図のデータをもとに、オーストラリアでは天の川を見ることができない地域に住んでいる人の割合が高いことが述べられます。国土面積で言えば光害の影響を受けない場所が多いのですが、都市に人口が集中しているせいで、天の川が見えない人口比で言うと米露日英仏の各国よりオーストラリアのほうが高いのだそうです。

ABCの記事にも書かれていますが、二酸化炭素やマイクロプラスチックと違い、光害はその元を断てば影響が長続きすることはありません。記事では、光の強度を調整すること、色温度を下げること、照明の方向を絞ること、不要な照明は消すことなど、光害対策の基本が紹介されています。また、ある町で街路灯の明るさを7割にしても苦情は出なかったこと、キャンベラで深夜に街路灯を10%暗くしたところ、空の明るさが5%減少したことなども紹介されています。街には多種多様な照明がありますから、こうした実験を経て何が光害に効いているのか、何をすればどれくらい光害を抑えられるのかを理解することはとても重要です。

この記事では、暗い夜空の価値を以下のように記しています。
『夜空の最も重要な価値はおそらくその圧倒的な美しさ、宇宙における私たちの位置を確認できること、そして私たちが畏敬の念を抱かせる何かの一部であることを思い出させることである。』
他のさまざまな環境問題と比べると、光害は対策しやすい類に入ると思います。科学的な考察を進めて、効果の高いやり方で光害対策を進めていきたいものです。キャンベラでの実験のようなことが日本でもできるといいんですけどね。

天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

携帯直接通信するスターリンクは、従来機より明るい

https://www.pcmag.com/news/cellular-starlink-satellites-light-up-the-night-sky-a-bit-too-much

2024年7月8日にPCMagに掲載された記事。SpaceXは携帯電話と直接通信する機能を持つ新型のスターリンク衛星の打ち上げを始めています。その明るさを測ったところ、従来機より5倍くらい明るいものであったという測定結果が紹介されています。これについては、先日noteの記事にまとめましたので以下をご覧ください。

石垣島の夜空を舞うスターリンク衛星たち

NHK、TBS、沖縄タイムスに7月11日から12日にかけて同じテーマの記事が掲載されました。石垣島天文台から低空を写していたカメラに、とてもたくさんのスターリンク衛星が写っていたというものです。NHK、TBSともに早送りの映像がありますので是非リンク先からご覧ください。石垣島天文台のウェブサイトにも、「人工衛星の光跡」として画像と映像がまとめられています。

スターリンク衛星は太陽光を反射して光って見えるので、太陽と衛星と観察者が特定の位置関係になったときに反射光がより明るく届きます。スターリンク衛星はもう6000機以上が打ち上げられていますので、ある方角を見るとあとからあとから人工衛星が通り過ぎていくことになります。このため、今回の画像のようにたくさんの衛星が光って見えてしまうわけです。雑誌「星ナビ」では「スターリンクの舞」として紹介されていたりもします。

米連邦巡回控訴裁判所、スターリンク第2世代衛星システムのFCC認可を支持

2024年7月12日に掲載された記事。アメリカの連邦通信委員会(FCC)はSpaceX社が7500機のスターリンク衛星を打ち上げることを認可しましたが、これに対して競合企業である通信会社Dishとダークスカイ・インターナショナルが異議申し立てをしていました。これについて、異議申し立てを棄却する決定を控訴裁判所が出したことを伝えています。

SpaceXは29,988機のスターリンク衛星を打ち上げる申請を出していて、そのうちの7500機についてはFCCが条件付きで認可していました。ダークスカイ・インターナショナルは、この認可が環境アセスメントの観点から検討が不十分であると訴えていたようですが、裁判官はESAの研究等に基づいて、打ち上げと大気圏突入(廃棄)が環境に著しい影響を与えるものではないと結論付けたようです。またDishは、国際電気通信連合が定めた電力フラックス密度の制限値をスターリンク衛星が順守していないという訴えを起こしていましたが、これも決定的な証拠がないとして棄却されています。

環境影響評価については、先月のnoteでもご紹介した通り再、突入する衛星が増えるとオゾン層に影響があるかもしれない、という研究結果も出てきています。これほどたくさんの人工衛星が飛び、それが大気圏に落ちてくるというのはこれまで人類が経験したことのない事態ですので、しっかり研究を進める必要があります。この研究結果を受けて、また訴訟があるかもしれませんね。

ASTスペースモバイル、商用衛星5基を完成させる

2024年7月25日に、ASTスペースモバイルがプレスリリースした情報。ASTスペースモバイルは、スマートフォンとの直接通信が可能な通信衛星サービスの展開を目指して、日本では楽天モバイルとも提携している企業です。8m四方の大きなアンテナを持つ試験衛星BlueWalker 3をすでに打ち上げていて、通信試験も行っています。スターリンク衛星よりもずっと大きなBlueWalker 3は太陽光をたくさん反射するので1等星並みに明るく見える、と話題になりました。このnoteでもご紹介しています。

これはあくまで試験機でしたが、開発を進めて商用機(つまり本番機)5機が完成したとのこと。当初は本番機は試験機よりずっと大きくなる予定と言われていましたが、資金難も一部で報じられていて、結局この5機は試験機と同じサイズになったようです。それでも、8m四方の巨大なアンテナを巻く形で収納している写真はなかなかの迫力があります。

BlueWalker 3は打ち上げ当初より暗くなっている

2024年7月4日付で論文プレプリントサーバarXivに掲載された報告。1等星並みに見えていたBlueWalker 3が少し暗くなっているという観測結果です。といってもまだ2等級なので十分明るいのですが。暗くなった理由は、衛星の姿勢正業によるものかもしれないという考察がなされています。上でご紹介した本番機がどれくらいの明るさで見えるのかも含めて、今後も注目する必要があります。

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