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オープンマインド・ヒューマンネットワーク論 その2

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

2.<文字>コミュニケーション 
コミュニケーションに、善意の悪意という魔物が棲むようになった。

目に見えないカタチで飛び交う<ことば>を、耳に聞こえるカタチに可視化・可値化した方法は、絵は別にして、ひとつは意味を具現化した記号(表意文字)であり、もうひとつは音を具現化した記号(表音文字)であった。やがて、それらの記号は、さまざまな人間社会で、異なる変化と進化を遂げ、文字としてのエレガントさと<ことば>としてのエレガントさがそれぞれの人間社会で個別に熟成され、今日に至ったことはいうまでもない。

可値化するということは、記述することである。自然界や人間社会のさまざまな現象を、<ことば>という耳に聞こえるカタチに置き換え、そしてさらに、文字という第二の記号として置き換えたことにより、人間社会は<ことば>コミュニケーションの限界をブレークスルーして、<ことば>と文字を併用したコミュニケーション手段を獲得した。

しかしこのとき、文字コミュニケーションは、人間社会に対していったいどのような深刻な問題を潜在化させたのであろうか? それは一つの現象である事実にパラメーターを2回かけると、人間はその事実の認識が希薄になるという問題である。この問題を理解するための格好の判断材料が、すでに現代社会に存在している。クレジットカードである。

たとえば高級ブティックの店先に10万円のドレスが飾られていたとする。ドレスが飾られていることは、一つの現象であり事実である。その事実に、10万円という現金のパラメーターをかけたとする。この時点では、誰もがこのドレスは、10日間も汗して働いて手にした10万円と同等の価値があるものと認識できる。問題は10万円という現金に、さらにクレジットカードというパラメーターをかけた瞬間に発生する現実である。現金の10万円と、カーボン用紙に書かれた10万円とは、カタチは違っても、同じものであるという認識が希薄になってしまう。“10万円の買い物をした事実があっても、10万円の現金を使った認識がない”という現実である。

ここに一つの“善意の悪意”が顕在化する。「お金がなくてもそのドレスが買えますよ」という魔物の囁きである。文字コミュニケーションにおいても、まったく同じ現象が同時に発生するようになった。<ことば>に置き換えられた事実は、文字に置き換えられることにより、虚実として存在するようになったのだ

たとえば、ある川があり、その川の上流で宝石(タマ)の原石が発見されたとする。その事実を発見した人は、家に帰って家族と<ことば>コミュニケーションをするとき、宝石(タマ)が採れた川を発見したと言い、地図を書いて川の名前を記入した。このとき、家族の誰かが、玉川と書くとみんながそこに行って宝石を採り尽くしてしまうから、魔物が多く棲む恐い川、多摩川と書いたらどうかしらと提案した。もちろん、これはたとえ話である。しかし、<ことば>コミュニケーションではありえなかった、無意識のうちに隠された意図が、文字コミュニケーションになった瞬間に、“善意の悪意 ”として顕在化する事例としてのたとえ話である。

宝石(タマ)が出た川を発見しても喋らない、教えないコミュニケーションは、<ことば>コミュニケーションの時代でも多々あったはずである。しかし、宝石(タマ)を発見した川を玉川と記述せずに、多摩川と記述できる文字コミュニケーションの時代のほうが、人間関係をはるかに複雑に、いびつなものにする可能性を秘めていることはあきらかである。

そして、この文字コミュニケーションが高度に発達した、西暦2020年の私たちの社会は、文字という記号でしか機能させることができないコンピュータをネットワークで網羅し、最大限に活用させて、次の世代の新しい社会を築きあげようとしているのである。果たして、その新しい社会の至るところに“善意の悪意”という魔物が棲んでいるとしたら、新しい社会は、少なくとも「あかるく、たのしく、ゆたかな、ゆとりある」社会でないことだけは、確かである。(つづく)

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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等

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