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機械に寄り添う

Parole編集員 寺内輝治


最近のAIの進化は目覚ましい。

大学時代、翻訳学校に通っていた時期があり、選択制のカリキュラムのなかに「MT(Machine Translation = 機械翻訳)」というコースがあった。もう20年以上前のことだ。

小学生の頃、パソコンに興味をもち、中・高と簡単なゲームを作って遊んでいた私は、そのコースで学んでみたいと思っていた。
しかし、当時は機械翻訳の将来性が未知数、というよりも、実用性が一定レベルに達していなかったようで、しばらくするとMTコース自体が廃止になっていた。

事実、ほんの数年前までは、機械翻訳に頼ろうと思っても、まったく使えない訳文の羅列に悩まされるばかりだった。

しかし、いま業務で使っている機械翻訳サービスは、産業翻訳でほぼ9割、正確な翻訳ができるという。営業トークとはいえ、すごい数字だ。

実際に機械工学系の技術文書を翻訳させてみると、A4サイズ2枚程度の難解な文章が数秒で翻訳されて返ってくる。全体的にみて8割ぐらいの正確さで、まったく修正が必要ない段落もある。

学生時代、産業翻訳で身を立てたいと思ったこともあったが、当時の自分にいま声を掛けられるとしたら、絶対に止めているだろう。

ただ、精度が上がったといっても、やはり機械は機械。
もとの日本語をある程度、彼ら(?)が理解しやすいように編集する必要がある。

主語と述語の関係を明確にしたり、接続詞を加えたり、いわゆる「直訳調」にあえて変換する作業といえる。

そうして自分が意図したとおりの英訳が返ってくると、なんとなく、AIとコミュニケーションできたような気分になる。
すると、もっと精度の高いコミュニケーションを求めて、機械に寄り添った日本語を心がけるようになる。

そんなとき、ふと思う。

相手が人間でも、果たしてこんなふうに寄り添っているだろうか。


と、ここまで書いて、妻に読んでもらったところ、この文章自体が読み手に寄り添っていないとの衝撃的なコメントをもらった。

コミュニケーションとは、一筋縄ではいかないものだ・・・。

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【寺内輝治のプロフィール】
Parole編集員。
中学2年生まで友だちとラケットベースボールやパソコンゲームに熱中する元気な子どもだったが、ある日、教室で奇妙な白昼夢を見て以来、「何のために生きているのか」を自分に問うようになる。
大学時代、周囲と同じように就職活動をすることに強い抵抗を感じ、翻訳で生計を立てるべく専門学校で学ぶ。
しかし、一度社会で揉まれる必要性を感じ、セールスプロモーションの会社に就職。イベントや展示会の企画運営、印刷物やWEBサイトの制作などに10年間携わる。
ホメオパシーに出会い、その魅力に取り憑かれてホメオパシー関連の会社に就職。タマネギの皮がむけていくような内面の変化を体験する(周囲から変わったと指摘される)。
その後、フリーランスとしてデザインや翻訳などをこなすなかで、「何のために生きているのか」という問いが爆発しそうになっていたとき、七沢研究所と出会い、その答えを見いだす。
2018年に京都から甲府に引っ越し、心身ともに健やかな毎日を過ごしている。


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