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価値観の違いからマニュアル化-食べ物の恨みはおそろしい-

今回は、今泉本店の増床オープンの日と並び、わたしの社会人人生の中で最も思い出深く、最も驚いたお話です。
2009年、標準化店舗の新店 第1号、また、福井県初出店となる店舗の店作りの日に、その事件は起きました。

標準店の店作りは、商品部主導となり、それまでの営業部主導の店作りでは常識となっていた悪しき慣習を打ち破ろうと、わたしは新しい方針を打ち出しました。
「業務時間内で作業を終了し、3日間で売場を完成させる、会社から事前に経費としてお金をもらっておき、新店店長が準備作業をする社員全員分のお昼ごはんを用意する、昼休憩は1時間」という、ごく当たり前の方針です。
それまでの店作りは、店舗に泊まりこみが前提で、各自、寝袋を持参、店長総出で1週間かけて店作り、昼休憩で飲酒、よって3時間くらい昼休憩から戻ってこない、夜も酒盛り、そして飲食代金は、なぜか新店店長の自腹、など、今では考えられないルールがあったのです。

店作り初日。お昼休憩の30分前から、「ジョボー、ジョボー」と音がしてきました。陳列作業を中断して、電気ポットからひたすらお湯を注いでいるスタッフがいます。お茶にしては、長いなぁ。
12時、お昼休憩になりました。店長が用意したのは、お弁当ではなく、「カップラーメン」でした。「おにぎり」も1つ付いています。
ジョボーの正体は、カップ麺にお湯を注ぐ音だったのです。

商品部のベテラン社員たちは、
こんなんじゃ、午後から力が出ない
新店店長は、応援で来てくれた社員に感謝の気持ちを込めて、おもてなしするべきなのに、この仕打ちは何だ」と、ブーブー文句を言っています。新店店長に、ではなく、わたしにです。確かに、それまでは、昼も夜も外食で、ビール付きでしたから、えらい差です。

みんなを代表して、新店店長に聞いてみました。
すると店長は、「経費節減です!このカップ麺はドラックストアで98円!、おにぎりは48円でした!」と自慢げです。そして、大真面目です。
若手の有望株として、社運をかけた標準化店舗第1号、福井県初出店の新店店長に大抜擢されたので、「経費を節約して、会社に貢献したい」という気持ちが強かったようです。
わたし「今日は、せっかく用意してもらったから、カップラーメン食べましょう!」と、ベテラン社員たちをなだめました。

わたしがカップ麺を手に取ろうとしたその時、新店店長から衝撃的な言葉を浴びせられました。
「あ、純子さん(わたしです)の分は、ありません。向かいのコンビニで、自分で買ってきてください。」
びっくりたまげました。いじめ?嫌がらせ?
でも悪意はなさそうです。やはり、いたって真面目です。
店長の理論では、会社の役職者であるわたしには、経費でお昼を用意する必要がない、という考えのようです。わたしには、ちょっと理解できませんでしたが、文句を言うこともできず、みんながラーメンをすすっているのを尻目に、コンビニへお弁当を買いに行き、店舗に戻って、みんなと食べました。ベテラン社員がなぐさめてくれました。
「いや、そっち(コンビニ弁当)の方が(カップ麺より)全然いいじゃん」
そういう問題ではありません。わたしもみんなと一緒のもの、食べたいじゃないですか。たった150円、しかも会社の経費なのに、ケチられたんですよ。

商品部のみんなは、カップ麺とおにぎりでは足りませんでした。そして、わたしは、なぜか、ゆすりたかりに合い、向かいのコンビニでみんなのおやつをおごらされました。踏んだり蹴ったりです。

店作りは、まだあと2日間あります。ちゃんと言おう!と、店長に直訴しました。

わたし「明日のお昼は、普通のお弁当にしてください。わたしの分もお願いします。」

店長「あ、もう3日分、事前に買ってあるんで。変更できません。

わたし「え・・・? 3日間、同じメニュー(カップ麺とおにぎり)ですか?」

店長「はい。でもカップ麺は、味噌、塩、醤油から選べます! おにぎりも、鮭、おかか、から選べます! あ、純子さんの分はありません!

わたし「・・・・・。いや、味の問題じゃなくて、毎日カップ麺だと、みんなの士気が下がるしさぁ。(心の叫び:やっぱりわたしの分は、ないんか~い!!)」

店長「そうですか?僕は毎日カップ麺でも全然平気です!

最初から最後まで、全くかみ合いません。店長に悪気はなく、むしろ正義感でいっぱいです。会社のためにと、がんばってくれているようです。
経費を節約するのは良いことですが、やり過ぎて、みんなの士気が下がり、結果的に作業効率が悪くなってしまっては、元も子もありません。

こうして「新店店長マニュアル」が誕生しました(わたしが作りました)。
新店の店作り期間は、お弁当を用意することや、お弁当にかける金額、用意すべきおやつの種類などです。
あれから今まで、30店舗もの新店を作ってきましたが、新店店長には、毎回必ず、このマニュアルを送付しています。
食べ物の恨みが詰まったマニュアルです。

あの店長、今は商品部の仲間になっています。
ことあるごとに、この思い出話をしては、毎回、大笑いします。
わたしのお気に入りの「おもしろ鉄板ネタ」です。

来月、また、新店がオープン予定です。
もちろん、新店店長マニュアル、送付しましたよ(^^)。

「マニュアル=価値観を共有する道具」ですね。

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