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友達が 1人もいない 労働者 ~面接を乗り切るために大事なこと~

 私には友達が1人もいない。そしてできるならば働きたくない。ただ比較的まともな人間ばかりが生まれれる立花家の血筋の中でその流れをいったん止める箸休めとして生まれたとしか思えない私ではあるけれど一応人として最低限の暮らしは送らなければいけないという社会人としての初期設定ともいえる尊厳は持ち合わせているためちゃんと立ち食いそば屋の従業員として馬車馬のように働いている。働くということは当然その第一段階として面接というものをしなければならない、というよりもくぐりぬけなければならない。 

 こんなこと言うのもなんだがこの仕事はやる気と根性と低賃金、重労働、悪辣な人間関係の全てに耐えうるダイヤモンドメンタルさえ持ち合わせていれば知能のある脊椎動物なら誰でもこなせるため大事なのはいかに面接の時点で人間性を隠し通せるかに尽きる。私は尻に火がついても焼け焦げるまで微動だにしないほどの堕落さと他に類を見ない風雲児的変態性をひた隠しにし合格を勝ち取った。

 だがなぜだか私の勤める店に度々面接を受けに来る労働希望者がことごとく不採用となっている。ただ会社を庇うわけではないが不採用となっているのは入店してから社員の待つ奥の事務室に入っていく僅か数秒しか見ていない私から見てもそらそうだろうなという人材ばかりだった。

 面接は11時からだと言われていたにも関わらずなぜかその次の日の18時に来たおじいさん。対人会話能力に一抹の不安を抱える私がエンターテイナーに見えるほど人と喋れないおばさん。自分のような優秀な人間に働きたいと思われていることに感謝せよと言わんばかりに上から目線の自称元パイロットのおじさん。そばの存在を昨日知ったばかりの日本語が話せないジャカルタ人などなんらかの個性が覚醒した人間の登竜門なのかと思うほどに私からすれば思わずナメんなよと言いたくなる人材が集まっては門前払いされている。

 ただ一人だけ受かった人材がいた。私よりも少し年下で色白でやせ細ってぼさぼさ頭のネットで大衆が持っている価値観に異を唱えることが正義と言わんばかりの発信を匿名で行っていそうな雰囲気さえ除けばいたって普通そうな青年であったのだれど、その青年は面接事態は私の勤める店で受けて合格したあと人員が不足していた他の店舗で働くことになったのだがすぐに辞めてしまった。

 だが私はその青年がおそらくダメなんだろうなというのを面接の際に店に訪れた瞬間から気づいていた。その理由は店に入ってきた際の荷物だった。彼はリュックを背負い、左手には先ほどコンビニで買ったお茶やおにぎりが入った袋をぶら下げていたのだけれどその袋の中にでかでかと少年ジャンプが入っていた・・・

 これは私の偏見だが面接前にジャンプを買う人間を私は雇おうとは思わない。せめてリュックに入れていれば別だがこんなにも堂々とジャンプを早く読みたいという欲を全面に出されれば私が面接官だとすれば青年のこの職場で働くために合格を勝ち取りたいという欲を呪術廻戦が上回っていることが透けて見えるからだ。

 すなわち面接とはいかに自分の持つマイナス面をひた隠しにし、なおかつ欲望を押し殺せるかにかかっている。それとその青年のコンビニ袋で思い出したのだが多分飯は食ってから来た方がいい。それが面接である。

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