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友達が 1人もいない 初会話 ~私がnoteを続けることの意味~

 私には友達が1人もいない。そんな私のような人間にとっての天職は霧の深い山奥の仙人一択であるはずなのだが、なんやかんやあり現在渋々ながら立ち食いそば屋の従業員という仕事を長い年月をかけた社交性のリハビリだと思い勤めあげている。

 立ち食いそばの仕事は大変だ。昼時の書き入れ時の大量に押し寄せるサラリーマンたちの餌場を求めたヌーの大移動にも似た壮大な迫力の来店ラッシュに元来カタツムリの軌跡ぐらいのんびりとした私はさぞ面食らったがどうにか食らいついている。それ以外にも朝は早くて給料も安いためこの仕事を心から楽しむにはマゾヒズムの覚醒が必要不可欠であるのだが残念ながら私のMな気質は極めてベーシックであるため残念ながら楽しいと思えるのはまだ先のことだと思われる。

 ただ基本忙しい仕事なのだがお客さんありきの商売のため人通りがあまりないような時間帯はもっぱら暇になる。そんなときにやるべき仕事がないときは職場という背徳感を利用した妄想による経費0円のエクスタシーを楽しみ知的生命体の末端のポテンシャルを遺憾なく発揮しているのだがそんな暇な時間にだけ現れる常連のお客さんがいる。

 それらのお客さんと出会ってからもう数年たつが私は喋ったことはない。それは私が食事中に話しかけて邪魔するような店員の親の教育に疑問を抱いてしまうほどに小さな肝を所有するカワハギを見習うべきタイプの人間であるがゆえなのだが相手を見ていてもスマホをいじって蕎麦をすすって数分で帰っていく人たちばかりのため私はただ面白みのない活人画となることを心掛け黙って立っている。

 そんな中先日ある常連のお客さんが来店した。その人とも当然喋ったことはないが良心を忘却した妬みと嫉みのハイブリットたる私ですらいい人なんだろうなと思うような朗らかな紳士な方であった。

 その紳士はいつも通り食事を数分ですませカウンターの食器返却口に食器を持ってきた。私がいつも通り「ありがとうございました」と言いながら食器を受け取ると今まで一言も会話をしたことがなかったその紳士が私に向かってこう言ってきた。

「さっきクマバチに刺されたんやけどどうしたらいい?」

 もう一度言うが私はこの紳士と今まで一度も喋ったことがない。だからそんな重大な悩みを私に打ち明けてきたことにとても驚いた。そして驚きの波が凪の状態となったころ改めて冷静にその質問の答えを考えてみた。



知らない

 

 そんなこと私が知るわけがなかった。これまでの様々な憂鬱な出来事に直面したゴッホの筆のタッチくらいうねりのある人生であったがクマバチに刺された経験なんてないし適当に答えて間違った対処法だと大変なことになるため「いやー分からないですねぇ」と答えさっき補充したばかりのネギをもう一度補充した。ちなみに困ったらネギを補充しろというのは事務室のカレンダーに自分の予定をかき込みすぎてクビになった先輩の教えである。

 その紳士は私の返答を受け「スマホで調べてみるわ」と絶対にそうしたほうがいい対処法を口にしながら店を去ったのだが、紳士のさっきまでの一連の行動がなにかに似ていると感じた。たださほど気に留めず今日の記事でその紳士の行動について書こうと思って日中過ごしていたのだがそこでピンときた。紳士は私だった。別に紳士が時をかけた私であったみたいな新海映画の如き案件では決してないのだが紳士のしていたことは私がnoteでやっていることと同じだった。

 私のnoteは常日頃社会に限りなく向いていない私が生きていく上で感じる哀しみや恨みや嫉妬といったパンドラに入れておくべき感情たちを従えて巻き起こるシェイクスピアですら描けない悲劇を文字として殴りつけただけの大衆憂鬱を毎日記事としてお届けしている。なぜそんなことをするのかというのは私に身に起きた悲劇を知ってもらうことにより精神的ダメージを軽減したいからだ。

 そしてそれと同じことを先日の紳士も行っていた。クマバチに刺されて痛いという単刀直入な悲劇を身近にいた私という存在に話すことで精神的ダメージを軽減しようとしていたのだろう。例え私と一度も喋ったことがなくても・・・その紳士には悪いことをした。今度もし話すことがあったらnoteを薦めてみよう。

 






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