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恩恵

男は、今日も公園のベンチで鳩に餌をやりながら、空を見上げていた。彼の名は、恵。恵まれた人生を送ってきた男だ。

「私は恩恵を受けてばかりだ。感謝の気持ちを表したいのだが……」
恵は、過去に受けた恩恵を数え上げた。健康な体のおかげで、幼い頃から活発に運動ができ、友人たちと楽しい時間を過ごせた。理解ある妻、美佐子は、いつも彼の夢を応援し、心の支えとなっていた。恵まれた教育のおかげで、難関大学に合格し、一流企業に就職できた。どれも彼の人生を豊かにする、かけがえのないものだった。

「困っている人を助けるのは、一時的な救済にしかならない。真の恩恵は、相手の人生を豊かにするものだ」

恵は、道端に倒れているホームレスを横目に呟いた。恵自身も、学生時代にアルバイト先で倒れた際、見知らぬ人に助けられた経験がある。しかし、それはあくまでも一時的な救済であり、彼の人生に大きな影響を与えたわけではない。

「お金を貸すのも違う。それはただの貸借だ」
恵は、財布から一枚の紙幣を取り出し、それを鳩に向かって投げた。鳩は、ひらひらと舞う紙幣を無視して、男の足元からパンくずを啄ばんだ。恵は、以前、友人に大金を貸したことがある。しかし、その友人は、お金を返すどころか、恵との関係を絶ってしまった。お金は、時に人間関係を壊すこともある。

「私が与えられる恩恵とは、一体何なのだろうか……」
恵は、深いため息をついた。鳩たちは、餌を食べ尽くすと、一斉に飛び立った。恵は、その白い羽根を見送りながら、再び空を見上げた。恵は、自分が受けた恩恵を、そのままの形で他人に与えることはできないと悟った。しかし、自分が受けた恩恵から学んだこと、経験したことは、他人に伝えることができるかもしれない。

「いつか、私も誰かに真の恩恵を与えたい」

恵は、そう願いながら、ゆっくりと立ち上がった。彼にはまだ、自分がどんな恩恵を与えられるのか分からなかった。しかし、いつかその答えを見つけ出すと信じて、恵は歩き始めた。恵は、これから出会う人々との交流を通して、自分が与えられる恩恵を見つけていくのだろう。

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