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魔法使い

「やあ、君。人間関係に悩んでいるのかね?」

夕暮れの公園。ベンチに腰掛け、物憂げな表情で遠くを見つめる若者に、老紳士が穏やかに声をかけた。老紳士は、まるで若者の心の内を全て見透かしているかのような優しい眼差しで、語り始めた。

「人間関係さえ良好なら、この世の難題など、たやすいものさ。失敗したって、誰かが手を差し伸べてくれる。例えば、仕事で大きなミスをしてしまった時、信頼できる同僚が励ましてくれたり、上司がフォローしてくれたり。孤独な死の恐怖だって、愛する家族や友人に見守られながら最期を迎えれば、安らぎに満ちたものになるだろう」

老紳士は、若者が抱える不安や孤独を理解しているかのように、具体的な例を挙げながら語り続けた。

「病気や貧困だって、助けの手は現れる。入院中に見舞いに来てくれる友人や、経済的に困窮した時に手を差し伸べてくれる家族がいるだけで、どれほどの心の支えになることか。まるで魔法のようだよ」

若者は、老紳士の言葉に真剣に耳を傾け、少しずつ表情が和らいでいく。老紳士は、懐から小さな鏡を取り出し、若者に手渡した。

「では、どうすればそんな人間関係を築けるのか。それはね、君自身が、誰かの失敗を許し、安らぎを与え、信頼される存在になることだよ。まるで鏡のようにね。例えば、落ち込んでいる友人を励ましたり、困っている同僚を助けたり。小さなことでも、誰かのために何かをすることで、少しずつ信頼関係は築かれていくものさ」

若者は、鏡に映る自分の顔を見つめ、何かを決意したような表情を浮かべた。

「ありがとう。あなたの言葉、忘れません」

若者は、老紳士に深く頭を下げ、希望に満ちた足取りで公園を後にした。老紳士は、そんな若者の後ろ姿を見送りながら、静かに呟いた。

「さあ、君も魔法使いになるんだ。そして、今度は君が誰かのために魔法をかけてあげる番だよ」

#ショートショート #パンダ大好きポッさん #名も無き小さな幸せに名を付ける

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