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時空を超える
「もしもだな、あの頃に戻れるとしたら、お前は何歳がいい?」 老人は暖炉の火を見つめながら、いつものように尋ねた。部屋には静寂が満ち、パチパチと薪が爆ぜる音が心地よく響く。
「そうねぇ、高校生の頃かしら。もっと色んなことをしてみたかったわ」 妻は編み物をしながら答える。窓の外では、夕日が茜色に空を染め、二人のシルエットを長く伸ばしていた。
「例えばどんなことだ?」 老人は身を乗り出し、興味津々に尋ねた。 「うーん、例えば、もっと勉強して、大学に行ってみたかった。それから、色んな国を旅して、違う文化に触れてみたかったわ」 妻は目を輝かせながら、まるで少女のように夢を語る。
「そうか、それは面白そうだ」 老人は頷きながら、妻の言葉に耳を傾ける。 「でもね、もしあの頃に戻って何かが変わっていたら、今こうしてあなたと一緒にいることも、可愛い孫たちに囲まれることもなかったかもしれない。そう思うと、今のままで十分幸せだわ」 妻は微笑みながら、老人の手を握る。
「もし生まれ変わることがあるなら、何度でもあなたと出会いたい。そして、また一緒に笑い、一緒に泣きたい。そして、またあの桜の木の下で、あなたとの未来を誓いたいわ」 妻の言葉に、老人は静かに涙を流した。それは、長い年月を経てなお、色褪せることのない愛の証だった。
窓の外では、星々が輝き始め、二人の未来を祝福しているかのようだった。