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精神障害者の私が「オキナワヘいこう」を観て思ったこと

#うちドキュ 特集記事、第11弾は「精神障害当事者から観た『オキナワへいこう』」と題してお送りします。

Palabraの新人社員の私は持病があり、手帳の区分的には精神障害者です。
精神障害者の私が、精神障害者の人たちを映した「オキナワヘいこう」を観て思ったことを、大きく2つに分けてご紹介します。

①どうしてオキナワに行けないんだろう
②別の村人としての精神障害者

※あくまでも私個人の感想です。
※ネタバレを大いに含みます!

▼▽「オキナワへいこう」の紹介▽▼

「オキナワヘいこう」2019年/大西暢夫監督/81分

オキナワへいこう

©大西暢夫/NPO法人kokoima

精神科の長期入院の患者を抱える大阪の浅香山病院が舞台だ。
何十年と入院し続け、退院の見込みはほとんどない慢性期病棟。そんな中、一人の患者が「沖縄に行きたい」という夢を語ったことがきっかけで、有志の看護師たちが動き始めた。 沖縄旅行は、5人中2人しか実現しなかったが、その些細なきっかけが、精神科病棟に風を吹かせ、患者の生きかたを変えた。

▼▽感想▽▼

①どうしてオキナワに行けないんだろう

作中、「オキナワへ行きたい」と言った5人のうち3人の患者さんは沖縄へ行けませんでした。
この時の葛藤や不安、というのが私は身近にいつも感じているので、もう胸にビシビシくるんです。
わかるう~!!と共感しまくりでした。
遠くへ行くというのはもちろん、ちょっとした友人との遊びでさえ同じような不安があります。
何かをしたいと思ってから実行するまでに、心にどんな嵐が吹き荒れているか、ちょっぴりご紹介します。この「心の嵐」がもしかすると「オキナワへいこう」の益田さんや3人の患者さんにも吹いていたのかも?

【心の嵐、第1段階】
①うまくいかないじゃないかという不安
「体調を崩すんじゃないか、家に帰れなくなるんじゃないか、楽しみきれずおかしな態度をして、友人をがっかりさせてしまうかも…」こんなことが頭をループします。
★「オキナワへいこう」では、体調を崩すんじゃないかと患者さんが不安に思うシーンがありました。

②うまくいっちゃった時の不安
精神障害というのは、なかなか人に伝わりづらい障害です。
というのも、見た目では分かりづらいし、困りごとを説明するのが難しいからです。「気持ちの持ちようでしょ?」と努力次第で治せるものと誤解されたりもします。
だから、「上手くいっちゃったら『やっぱり気持ちの問題だね!頑張ろう!』と思われるかも、何のサポートもない状態に放り出されてしまうんじゃないか、じゃあいっそトライしないほうがいい…」と思ってしまいます。
★「オキナワへいこう」の場合は、退院させられてしまうのではないかと患者さんが不安になっていました。
【心の嵐、第2段階】
第1段階でもう自分の心は荒れ荒れです。
「挑戦する」と「やめる」のシーソーを行ったり来たりします。
周りからすると、気が進まず立ち止まっているように見えるので、善意で「じゃあ今回はやめとこうか」と提案されます。
そうすると「やめる」ほうに背中を押されてしまうんですよね。
「不安もあるし、周りにも迷惑がかかるし、しょうがないか」と納得しちゃうんです。

★「オキナワへいこう」では、NPO法人kokoimaの小川さん(浅香山病院の元看護師長)が、「(沖縄旅行を)やめとこうか」と言った病院スタッフの方たちを批判されていました。
このシーンは葛藤を分かってもらえた気がして涙が出ました。挑戦したくないわけじゃないんです。

こうして日々諦めていくことが増えるわけですが、挑戦できると色々な出会いがあります。
益田さんが沖縄で見せる表情は、絶対に病棟では生まれなかった表情だと思います。

美ら海水族館で、口をあんぐり開けて魚たちを見つめたり、
写真展で看護学生に思いを馳せたり、
ビュッフェで昆布の煮物を取るのに失敗したり…

こういう「新しい自分」や「新しい世界」との出会いは、いつも諦めている人にとっては尊いものです。この出会いによって、「このままの自分でも、大丈夫!挑戦できる!」という自信を持つことができます。
私は以前一人旅に挑戦したときに使った青春18きっぷが宝物で、今も何かに挑戦するときの支えになっています。
だから、益田さんが沖縄旅行の写真を見ている表情は胸にこみ上げるものがあります。

②別の村人としての精神障害者

「一番引っかかった言葉が“長期入院”」。
自撮りトークでの大西監督の言葉です。
私も長期入院は引っかかる部分があって、しんどい人が1つの場所に集まって生活するよりも、しんどい人も一緒に生きていけるように人々が寄り合って暮らせる社会がいいのではないかなと思います。

私は精神病棟での長期入院は経験していませんが、1か月半くらい心や体の不調を治療するために入院したことがあります。それぐらいの短い期間でも、やっぱりだんだん入院生活が「暮らし」になっていくんですね。
(「オキナワへいこう」で患者さんのコップが何度も出てきましたが、確かにコップはめちゃくちゃ重要アイテムでした。)

同じような病気の人ばかりだから障害について説明する必要もないし、困りごとも取り除いてもらえる安心のある暮らし…。
でもそれは「病院村」という村の特殊な暮らしです。外とは暮らしもルールも違う。
そこにどっぷりと浸かっていると、村人の意識が強くなりすぎて、外に帰るのが怖くなります。そして、村の外の人たちは病院村のことはよく分からないから、関わることもなく、どんどん距離が離れていきます。
私も「ただの私(精神障害者という部分もある)」から「精神障害者の私」になってしまう瞬間がありました。

その病院村に行ってみて、山中さんを村の外に連れ出したのがはるみちゃん!
村の外で色んな人と居合わせる場を作っているのがkokoimaの小川さん。
何といっても、「オキナワへいく」という大イベントは、一度村から飛び出してみるという大挑戦だったのだなと思います。

***
最後にバリアフリー制作中に大西監督から伺った「オキナワへいこう」公開時のトークショーのお話をご紹介します。
ある日のトークショーで、浅香山病院の院長さんが「病院をもっと地域にひらいていく」とおっしゃったそうです。
映画が病院のあり方を考えるきっかけになった、というこのエピソードには「映画の力」を感じます。
映画を通して社会のことや自分のことを考える、そして変わる…こんな特別な体験ができるのはドキュメンタリーならでは!
ぜひ皆さんも体験してみてください!

#うちドキュ の配信は本日5/10まで
23時59分まで購入可能で、購入後は24時間視聴できます。
観たい作品はもうご覧いただけたでしょうか?
今回ご紹介した『オキナワへいこう』のほかに、『東京干潟/蟹の惑星』『もうろうをいきる』『まひるのほし』をあわせた全5作品を配信しています。
鑑賞後はぜひ「#うちドキュ」を付けて感想をお寄せください!

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