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【特集】世界の今。新型コロナウイルスが変えた私たちの生活(13)——「アメリカ・ニューヨーク」の今

アメリカ全土で猛威を振るう新型コロナウイルス。その中で最も多くの犠牲者が出ているのが、私が暮らしているニューヨークです。

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Photo:定期購読している「The New Yorker」の表紙。空っぽのグランドセントラル駅のイラストに胸が締めつけられました

「ニューヨークは新型コロナウイルス感染者が2名になりました。こんなコスモポリタンな大都市でコロナを免れるわけがないのは、わかっていたことです。パニックにならずに、冷静に対処していきましょう」というニューヨーク州知事の会見を聞いたのが、3月3日。

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Photo:ステイホーム(自宅待機)中のブルックリンの街の様子

それから2週間でアメリカ最大の感染都市になり、あっという間に世界最多の感染都市へ。今も、そのことを考えると頭がクラクラします。

この6週間で感染者は激増し、4月15日現在も一日に700人を超す犠牲者が出るニューヨーク。しかしながら「New York Pause(街全体を一時停止する)作戦」と、個々によるソーシャルディスタンス(ステイホーム)の効果が現れて、感染率の曲線がなだらかになってきたという嬉しいニュースが聞こえるようになりました。ようやく先の方に小さな光が見えてきたニューヨークです。

ニューヨークの今の暮らしの様子をご紹介します。

頼れるリーダーの存在

日本でもアンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)ニューヨーク州知事のリーダーシップぶりが聞こえているようですが、ニューヨーカー(州民、そして市民)にとって彼の存在はとても大きいです。

「私には皆さんに正確な数字を伝える義務がある。何故なら、恐ろしい現実でも、事実を知らされず「政府は何か隠している」と疑心暗鬼でいることは、皆さんの不利益になるからです。ここで公表することは私が知る最新の事実です」。

私たちが知りたいと思うこと、嬉しいニュースも悪いニュースも、データとともに毎日アップデートして自分の言葉で話してくれます。彼の言葉には力があります。私たちの気力を奮い立たせる力。慰める力。何よりメイクセンス、ピンとくるのです。

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Photo:アンドリュー・クオモ ニューヨーク州知事(CNBC Make it より)

以下、多くのニューヨーカーが覚悟を決め、気持ちをひとつにしたきっかけになったクオモ州知事からのメッセージです。移民の街ニューヨークにとって、気持ちをひとつにして協力し合うことが、今の困難に立ち向かう鍵となります。911の時もそうでした。「New York Tough(タフ)」は、今ニューヨーカーの合言葉になっています。

“We are New York tough. We are tough. you have to be tough. this place makes you tough. (But in good way ) we are going to make it, because I love New York. And I love New York. Because New York loves you. New York loves all of you, black, white, brown, Asian, short, tall, gay, straight. New York loves everyone. That’s why I love new york. It always has and it always will. and end of the day, my friend, even it is a long day, and this is a long day, love wins. Always. And it will be again through this virus. “
(略訳)
ニューヨークはタフ。ニューヨーカーはタフ。この街はわたしたちを強くする。我々は、この困難を乗り越える。なぜなら、我々はニューヨークを愛しているから。なぜなら、ニューヨークが我々を愛してくれるから。

どんな肌の色でも、人種でも、背が高くても低くても、ゲイでもストレイトでも、どんな時であろうと、ニューヨークは、すべてのニューヨーカーを愛している。どんなに長い日も、今はとても長い日を送っていても、愛は勝つ。このウイルスとの戦いにも勝つ。

“Do Your Part” それぞれの役割

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Photo:子どもたちが歩道にチョークで描く虹の絵をあちこちで見かけます

最前線でウイルスと戦う医療関係者はヒーローです。行政はそれをサポートし、感染していない州・市民はソーシャルディスタンスを守ること(自宅待機)が役割。「Do Your Part(あなたの役目)」という言葉も、今の生活のキーワードになっています。

自宅待機のルールは、日用品や食材の買い物、運動を兼ねた散歩やランニングはOK。しばらく罰金制度はありませんでしたが、守らない人や地区の報告を受けて、市は反則者に対して最高$500の罰金を設けました。ルールは常に変わります。臨機応変な対応が行政にも市民にも必要なのです。

交通機関

ニューヨークの足である地下鉄とバスは、ステイホームになってからも動いていますが、利用者は医療関係者やエッセンシャルワーカーなどのどうしても必要とする人だけです。

マスクやフェイスカバーの着用

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Photo:私の知り合いたちのマスク姿です。インスタグラム投稿から

米国疾病予防管理センター(CDC)は、従来、周りの人に感染させる危険がある病気の人にマスク着用を奨励していましたが、今では全ての人に外出時の着用を、もしなければ鼻と口を覆う物(バンダナなど)の着用を強く呼びかけています。

私の夫はニューヨーク生まれ・育ち。「ニューヨーカーは強制されるのをとても嫌がる」と言って、マスクをなかなか着けたがりませんでしたが、さすがにに今は文句を言わずに着用しています。

マスクはほとんど売っていないのが現状で、医療用マスクは医療関係者へという気運もあり、今は手作りの布製マスクが普及しています。自分で作る人もあれば、製品として制作するブランドも出てきましたが、バンダナを利用する人も多いです。

マスクをしなきゃいけないのなら前向きに考えよう!?と、個性やセンスを意識する人が多いのは見ていて楽しいです。ただ、バンダナの三角づかいはどうしても銀行強盗に見えてしまいます。

食材や日用品の買い物

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Photo:スーパーマーケットに入店するために外に並ぶ様子

食材は、生鮮食品、加工食品ともに以前と変わらず豊かにあります。日用品の中で、消毒液やマスクは品切れが続いていますが、トイレットペーパーは今では安定して供給されています。

市内のほとんどのスーパーマーケット、ホールフーズ、トレーダージョーズ、以前パケトラで取材したブルックリン発のユニオンマーケットも、在店人数を減らすために、外に約2メートル間隔で並んで入店を待ちます。列の長さは行ってみないとわからないので、買い物には余裕を持って出かけます。高齢者に対して、朝オープンしてから1時間特別枠を設けている店も多いです。

私が会員のブルックリンの生協では、入店したらまず入り口にある消毒液で手を消毒し、アルコール付きワイパーを一枚取って、自分が使うカートのハンドルを自分で拭きます(自分で拭くと安心)。手袋をする人も増えています。1セクションに4名までと人数制限も呼びかけています。

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Photo:店内の床にはソーシャルディスタンスの線が引かれています

通販の利用者も増えています。配達は玄関のドアの前まで、というのが新しい習慣です。ちょっと寂しいけれど、仕方がありません。

子どもたちは自宅学習

ニューヨーク市の学校は、夏休みまで休校が決まりました。6月は卒業シーズンですが、どの学校も卒業式はありません。

授業はzoomを使った自宅学習なのですが、1日のカリキュラムが多く、両親の負担が想像以上にあると聞きます。貧困層の地区の学校には、市や企業がIPADを提供したりしていますが、インターネットがない家庭はどうしているのでしょうか...私は詳細を知りません。無料の給食を必要とする公立学校の生徒には、現在も給食の配布(ピックアップ)を行っています。

生活保護など

50万人の失業者が出ているニューヨーク。失業手当、緊急時の救済手当などが迅速に決まっていく様子は嬉しいのですが、失業中のニューヨーカーにとって一番のネックは毎月の家賃の支払いです。今のところ、臨時のニューヨーク州令が出て3ヶ月間家賃の支払いは猶予されていますが、ニューヨーク市長はさらに3ヶ月(合計6ヶ月)という修正案を州に出しています。

毎晩7時に2分間の感謝の拍手

我が家の窓から見聞きできる感謝の拍手 #clapbecausewecare の様子です。毎日インスタグラムのストーリーに投稿しています。

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Photo:私が暮らすブルックリンのパークスロープ地区

毎晩7時からの2分間、医療関係者や、エッセンシャルワーカー(交通機関、食品、日用品店の従業員など生活を支えてくれる人たち)への感謝を示す、市内一斉拍手イベントが続いています。人との接触がないステイホームで、唯一、隣人と気持ちが一つにつながる気持ちの良い時間でもあります。

ニューノーマル

行政からのデイリーな報告によれば、ニューヨークは間もなく新型コロナウイルスによるパンデミックのピークを迎えます。州知事も「今」の話に加えて「これから」の話をするようになりました。その中でよく使われるのが「ニューノーマル」という言葉です。

自宅待機が解かれても、今までの生活がすぐに戻るとは考えずに「ニューノーマル(新しい常識)」を受け入れる。抗体ができるであろう12〜18ヶ月後までは、公共の場所(電車の車内など)でのマスクの着用を義務化する行政命令が出るなど、ルールの多い生活が続きそうです。経済社会の立て直しにも時間がかかるでしょう。多くの人々が命を落としているという事実を受け入れるのも、とてもしんどいことです。

光が見えてきた分、未来ともそろそろ向き合う心の準備をしなければ。ニューヨークは今、そんなところにいます。

by パケトラライター 上野朝子(アメリカ・ニューヨーク在住)

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