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金沢小風景

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金沢ハ美シイダケニ非ズ。不思議ナ街デアル。
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2016年6月の記事一覧

金沢小風景

 この世に美しき街は数あれど雨の似合う街は少ないのではないか。恐らくこの街の住人ですら気付いていない。そう、この街は雨が似合う。

 あなたがもし、この街の本当の美しさを知りたければ手元のガイドブックなぞはさっさと破り捨てて雨の日にふらりと街を訪れてみるといい。そうだな梅雨時は最高だ。毎日、美しい街を観ることが出来る。

 街は坂が多いから雨の中、傘を差しながら雨の坂を登る。登り切ると雨に濡れた美

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犀川堂のこと-金沢小風景②-

 金沢には2本の川が流れています。浅野川と犀川です。「女川」という愛称の浅野川に対して犀川は「男川」と呼ばれ市民に親しまれています。市街地である片町付近に流れる犀川には犀川大橋という橋が架かっていて、そのすぐ近くに「古書 犀川堂」があります。

 今にもペシャリと潰れそうな外観、店内に入るとどこからともなく漂う黴臭さ。どれも私の知的好奇心を刺激して仕方ありません。大学に入学してすぐにこの店を見つけ

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かりんとう-金沢小風景③-

これは私が金沢にいた頃の話である。

金沢のとある大学を卒業してから数か月、私は就職もせずというかできずかといって学問の志が高いわけでもなく金銭的にも不可能だったので進学や留年といった道は選ばず友人たちが社会の一員となり忙しく動き回る様を漫然と見送っていた。そんなある日、悪友の杉山が臨時収入があったから安酒を奢ってくれるというので片町の飲み屋街へノコノコとついていった。この杉山という男は大学に入学

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雨宿り-金沢小風景④-

金沢の雨は音もなく降る。地元のトタン屋根のやかましさとは大違いだ。

それにしてもよく降る。この街は雨と共に存在するのだな。急な雨降りに雨具を持参していなかったので民家の軒先で雨宿りさせてもらいながらそんなことを考えた。私はリュックから観光用の地図を広げる。この辺は「主計(かずえ)町」というらしい。随分と暗くて風情のある古い家を縫うように細い道がうねうねと続いている。

 雨は止む気配がなく私も特

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闇に泳ぐ金魚-金沢小風景⑤-

大学の掲示板に「加賀友禅灯ろう流し」のポスターが貼られてあった。普段は興味がなく見過ごす私が今年は行ってみようと決意したのは掲示板で水島さんと友人の真瀬さんが行こうとしているのを偶然聞いてしまったからである。しかも2人は浴衣を着ていくという。灯ろうが浅野川を流れていく幻想的な光景とそれを見つめる浴衣姿の水島さん…行かない理由を見つけるのが難しいではないか!私は2人に気付かれぬようゆっくり後ずさりし

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