雨宿り-金沢小風景④-

金沢の雨は音もなく降る。地元のトタン屋根のやかましさとは大違いだ。

それにしてもよく降る。この街は雨と共に存在するのだな。急な雨降りに雨具を持参していなかったので民家の軒先で雨宿りさせてもらいながらそんなことを考えた。私はリュックから観光用の地図を広げる。この辺は「主計(かずえ)町」というらしい。随分と暗くて風情のある古い家を縫うように細い道がうねうねと続いている。

 雨は止む気配がなく私も特に急いでいなかったので雨の金沢を雨宿りしながら楽しんでいると私の足元をサッと何かが横切った。あまりにも速いので見失ったが、何かは次々と私の足元を横切っていく。なんだろうと思い目を凝らしてみるが速さについていけないうえに雨煙で姿がよく見えない。大きさからして猫かもしれない。

 すると今度は何かが私の足元で止まった。狐だ。狐はクイクイと誰かに向かって手招きしている。その方向を見ると小さな人力車が引かれてきた。人力車には年老いた老狐が乗っている。人力車が私の目の前を通過すると老狐は私にゆっくり会釈した。私も頭を下げる。

狐たちが去った後、雨が上がり金沢は何事もなかったように普段の観光地となった。私は狐たちが向かった先に行ってみた。するとそこには小さなお稲荷さんがひっそりとあった。6月の終わり頃の出来事だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?