ケモノと呼ばれて・・・。

ケモノに食べられたくなければ、あの森には絶対に行ってはいけないよ!
この村の大人たちは子供たちに何度も何度も言い聞かせていた。

僕はケモノを見たことがない。いや、僕だけではない。この村の子供たちは誰一人としてケモノを見たことがないのだ。
「ケモノ」・・・想像の中の存在。きっと大きくて毛むくじゃらで、牙があって爪があって、獰猛な奴なんだろう。出会ったら一瞬で食べられてしまうに違いない。

しかし、それも全て想像の中の「ケモノ」

ケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノ。

気になる。一度でいいから姿を見てみたい!

ケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノケモノ。

あれっ、・・・ノケモノ!?・・のけもの!除け者!

大人達はケモノを除け者にしているだけなんじゃないのか?ケモノはかわいそうな奴なんじゃないのか?あぁ駄目だ。気になってしょうがない。

見に行くしかない!

少年は心に決めた。

今夜、森に行く!そして「ケモノ」をこの目で見るんだ!

少年は村人たちが寝静まった深夜、村を抜け出すのであった。

辺りは真っ暗。月明かりのみが木々を照らしていた。虫の鳴き声、風が木の葉を揺らす音が不気味に響いている。

一歩一歩、森の奥へと進んでいくと、いつケモノと出会すかわからない恐怖で頭がおかしくなりそうだった。

すると、12メートル先の木の陰でガサガサっと何かが動く音がした。

一瞬にして緊張感が増す。

様々なことが脳裏を過る。
こちらのことは気づかれているのだろうか?
対峙したらどうしようか?
食べられてしまうのだろうか?
僕に勝ち目はあるのか?
「ケモノ」とはどんな姿なのか?
村の皆、森に近づくなって約束を破ってごめんなさい。
お父さんお母さんごめんなさい。

すると、僕が想像もしていない、呆気にとられるような出来事が起きた・・・。

何と目の前に現れたのは可愛らしい少女だったのだ。
年齢は僕と同い年くらいの女の子。屈託のない笑顔を浮かべながら、こちらを見ている。

僕の緊張感は一気に吹き飛んだ。

なんで、こんな場所に女の子が?しかもこんな真夜中に一人で・・・。

どうしたんだい?僕は駆け寄った。

・・・・・。

女の子は何もしゃべらない。満面の笑みを浮かべたまま、目をパチパチさせている。

「ケモノ」が出ると言われているこの森で、深夜にたった一人で笑顔でこちらを見つめてくる女の子。
この普通ではあり得ない状況に、僕の頭は混乱してきた。

この女の子は何かおかしい。
「ケモノ」と何か関係があるのか?

すると女の子はやっと口を開いた。小さな声で何かをつぶやき始めた。

何を言っているんだ?聞き取りにくい。

女の子の口元に耳を近づけると、この子が言っている言葉がはっきりとわかった。

・・・わたしがケモノ。

(続く)




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