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60歳からパチスロ専業を目指した男の話⑤

第1話はこちらです⇒https://note.com/pachislot_novel/n/ndeb099c26792
前回はこちら⇒【第④話】 次回⇒【第⑥話】


「は?」

聞き慣れない威圧的な言葉に藤吉は尻ごんだ。

「あ…あの…。実はわたし、お金に困ってまして…その、いつも出しているようなので…コツなどありましたら教えて頂きたいな…と…」

ひとしきり動揺を見せた藤吉はヘラヘラと笑った。
若者は、藤吉の様子をゲラゲラと笑い散らかしたが、親身な表情を見せる。

「ああ、少しならいいよ」

若者は意外な反応を見せた。
藤吉は安堵した表情で、かぶっていたセ・リーグの帽子を取り、深々と頭を下げた。

「あのさ、あれ見て。あの北斗あんじゃん。みんな出たらすぐやめちゃうんだよね。だけど、250くらいまでは様子みた方がいいんだよ。まあ、当たらない時もあるから、”断末魔ゾーン”ってやつ抜けたら辞めて、次の台打つといいよ。」

「団地妻…ですか…?」

「ちげーよ。断末魔。だ、ん、ま、つ、ま!…まあ、打てばわかるよ。」

「はい!ありがとうございます!」

教えられた機種は『北斗の拳天昇』

若者はスマホよりLINEアプリを開き、慣れた手付きでグループLINEを送信。グループLINE名は『打ち子』

「お前ら良いカモ見つけた。天昇打ってるじじいに張り付いといて。」

北斗の拳天昇は、有利区間移行後の200G以内が最も辛いとされる機種。逆を言えば、そこを避ければ、期待値はぐんと跳ね上がる。

藤吉は騙された。

妻のみならず、藤吉まで騙された。
3台ほど打ち終えた藤吉は、”若者”の元へ戻る。

「あの…全然あたらないんですが…」
「そっかー。今日は設定入ってないのかもね。店側の電圧でも変わるしさ。でも、俺の言った通り断末魔はいったろ?アレ来たらチャンスだから。また、懲りずに明日打つといいよ。」
「そうですか…今日はありがとうございました。」

藤吉は珍しくその日、”若者”の言うとおり帰宅した。
藤吉は尚もプロとされる”若者”を信じていた。
もう、パチスロを楽しむという余裕はない。藁にもすがるという思いが、藤吉の自制心を強固なものとした。

しかし、騙されている。

彼は数日間、若者の言うとおり200G台の断末魔ゾーンを消化し続けたが、さすがに異変に気づくことになる。
まずは、やめた直後、他の客が競うように藤吉が打っていた台に座ること。
その面子が大抵同じ人間であること。
そして、なによりも収支が付いてこない。

教えを乞うため、再三若者の元へ話を聞きにいく中、藤吉は目撃してしまった。
いつも藤吉の台をハイエナする面子のひとりが、若者と話している姿を。
パチンコ店の騒音に掻き消され、会話の内容は聞き取れなかったが、大体察しはついた。
藤吉はこれ以上、天昇を打ち続けることは無かった。
若者を問い詰めることもしなかった。

休憩所に入った藤吉はまた泣きそうになった。
悲しさよりも悔しさ。
人が心を入れ替え、真剣に取り組む姿を食い物にして、何故、何故笑っていられるのかと。
その日、しばらく休憩所から動けなかった。

藤吉の落胆する様子を気にかけたのは、”若者”の指示で動いていた打ち子のひとりだった。


「じいさん、騙されたんだろ。少し力を貸してくれないか?俺もあいつが気に入らなくてさ。」


つづきはこちら⇒https://note.com/pachislot_novel/n/n902ae098db93

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