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60歳からパチスロ専業を目指した男の話⑥

第1話はこちらですhttps://note.com/pachislot_novel/n/ndeb099c26792
前回はこちら⇒【第⑤話】 次回⇒【最終話】



打ち子の”青年”が、軍団を率いていた”若者”の素性を語った。
どうやら軍団内では相当嫌われているらしい。
それでも、パチスロの実力は折り紙付きらしく、バイトのしない大学生や、働かないスロニートなど、
”若者”が判断する台を打つだけで日当を稼げる為、文句はあれど打ち子が途切れることはなかった。

”青年”は”若者”に一泡吹かせたい様子だったが、藤吉は”青年”が在籍していた”若者”の軍団に騙された身。
にわかに”青年”を信じることができなかった。

返答に困る藤吉を察してか、”青年”はおもむろに財布から現金を取り出した。

「ほら、生々しくて悪いんだけど、手付金の3万。」

藤吉は目を丸くした。
現在、”青年”の会員カードには1万枚弱の貯メダルがあるという。
前日に番長3で万枚を達成し、明日”若者”の集金があり、渡す予定のメダルだという。
今回の作戦が成功すれば、貯メダルは全て”青年”のものとなる為、成功報酬も払うとのことだ。

「どう?やってくれる?」

既に答えが決まっていた藤吉だったが、現金を見せられてすぐに返事をしてはと、
いささか、妙なプライドが脳裏を過ぎり、こう切り出す。

「話だけでも聞かせてもらおうか…」

”青年”は笑いを堪えた。
作戦は至って単純だった。

作戦開始。

藤吉は”青年”に命じられた北斗天昇を打ち始める。
400超えの断末魔ゾーンで激闘ボーナスを勝ち取ったが、AT突入は無かった。シマ端で待機している”青年”へ目線を送る。
藤吉はカニ歩きし、隣の台へと移った。
すかさず、藤吉が打っていた台を”青年”が確保し、有利区間継続中の天昇を高速消化する。
一方藤吉はのらりくらりと隣で0Gからの天昇を打ち始める。
間、トイレへ行ったり、電話をかける振りをしたりと、ゆっくりゆっくり消化していく。
そうこうしている内に”青年”が激闘ボーナスを引き当てた。藤吉と同じく、AT突入は無かったが、下皿50枚程度のメダルが残った。
会員カードを差したまま”青年”は離席する。

少しの時間を置いて、隣の台から会員カードとメダルを回収しにきたのは、”若者”だった。藤吉とは目を合わせず、開き直った表情だ。
その”若者”の顔を、藤吉はマジマジと見つめている。

”若者”が去った数分後、”青年”が台へと戻ってくる。
ひどく困惑した様子を見せ、スタッフ呼び出しボタンを押した。


「ここに置いてあった下皿のメダルと、会員カードが無いんですけど。」


「にいちゃん、あいつだよ。あの”若者”がメダルとカードをもっていったぞ。」と、藤吉が情報提供。
「監視カメラを確認してまいりますので。」と店員。

店員から事情を聞いた”若者”は”青年”の元へ飛んでくる。

「おい…!お前、どういうことだよ!!」

”若者”は”青年”の胸ぐらを掴んだ。
店内は騒然としており、ただならぬ状況に店長まで介入する始末。
”若者”は『出玉共有』だったと仕切りに説明しているが、”青年”は否定しつづけた。
LINEのやりとりを証拠とする”若者”だったが、”青年”の端末にトーク履歴は残っておらず、IDも変更済だ。
そもそも端末が変わっており、LINEの新規登録を行っている”青年”。
青年は、旧端末で急用が出来たと若者にLINE送信し、出玉と会員カードの回収を依頼していたのだ。

それでも”若者”の強い主張は、ふたりに関係性があるという事実を、店長に疑わせた。実際に監視カメラを確認すれば、繋がりを確認するのは容易なことだろう。店長が”若者”に下した決断。


「お客様…他のお客様への暴力行為と、出玉、会員カードの盗難により、今後一切、当店への出入りを禁止とさせて頂きます。」


”青年”は警察沙汰になることも覚悟していたが、決着はすんなりと着いた。
店長は”若者”が軍団のリーダー格であることに当然気づいており、常連客からの苦情もしばしば耳にしていた。
厳重注意のタイミングを虎視眈々とうかがっていたが、今回、それを飛び越えるチャンスが到来した為、出入り禁止へ踏み切った。
軍団リーダー格の出禁ともなれば、他軍団来店の抑止ともなるし、常連客の苦情も減少するだろう。なによりも、期待値のある台を乱獲されなくなる為、常連客への還元に繋がると言うわけだ。

そもそも”若者”と”青年”の間には、雇用契約書が交わされている訳ではない。”若者”はパチスロの腕は一流だったが、雇い主としては、あまりにずさんで、いつトラブルが起きてもおかしくない状況だった。



「あの…この作戦、別にわしはいらんかったじゃろ…?」



藤吉が手を貸した部分は、”若者”を陥れる後押しだけ。
事実、監視カメラの映像で”若者”の行動は明らかだったし、
LINEの証拠隠滅で”青年”と”若者”の関係を証明するものは無くなった。
店側が”若者”を軍団の長であり、プロと認識していたのであれば、
出入り禁止まで追い込むことは、ひとりでも容易だろう。

「あいつさ、俺もそうなんだけど、やり方が汚くてね。社会的弱者を食い物にするようなところがある。俺が今回、貯玉を奪うのは以前からの計画通りだったけど、じいさんも一矢報いたいかと思ってさ。作戦の可能性は少しでも上げておきたかったし、別に深い意味はないよ。あんたが金に困ってることも、あいつから聞いてるよ。パチスロで稼げるようになったら、ちゃんと返してくれよな。」

”青年”は藤吉に初めて笑顔を見せた。
藤吉は救われた気がした。
そして思った。


(金はわしにくれたんじゃなかったのか…)


ふと脳裏に雑念が過ぎったが、藤吉は”青年”に感謝する。
本当は手付金の段階で抱擁レベルで感激していたが…。
成功報酬の3万円を受け取った藤吉は安堵からか、金ではなく”青年”に興味が移る。

「あんたはこれからどうするんじゃ。」

「俺はひとりでやってくよ。だからこの店からあいつを追い出した。皮肉なもんだけど、あいつから色々教わったしな。俺も負け組の養分であいつに拾われたんだけど、勝ち組になるってことは本当に単純なことだった。誰でも稼げるよ。」

「わ…わしもでも?」

「ああ、勝てるよ。いや…勝てるじゃなくて、稼ぐが近いかな。」

「教えてくれんか…。」

「まあ…金も返してもらいたいしな。」

藤吉は『稼ぐ』という確固たる意志と共に『返さんぞ』という強い気持ちを胸に、翌朝8時、現在の店で”青年”と待ち合わせすることに。



次回最終話!⇒https://note.com/pachislot_novel/n/n1ca59b966d9b

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