ケルト神話・アイルランドの伝承あらすじ集②:駆け落ち物語二編

こんにちは。アイルランドの伝承あらすじ集、二つ目です。

「ケルト神話」というと、大抵の場合アイルランドの神話的・異教的な伝承を指します。これらの中には書籍に全訳・抄訳されている物もありますが、一方で日本語では内容が一切わからないものもありますし、手軽に読める形にしてあったら役に立つのではないか、という考えもあって、これら一連の記事を書いています。


今回のお話はそれなりに有名なので、ご存じの方も多いかと思います。今回ご紹介するのは、どちらも老いた王に嫁ぐことになった若い美女が、若い戦士と駆け落ちする話です。しかし、結末は異なります。

一つ目は『ウシュリゥの息子たちの逃亡』。あるいはヒロインであるデアドラの名の方が知られているでしょう。これは、フェルグス・マク・ロイヒがアルスターを離れコナハトにつく原因となった出来事でもあります。

二つ目は『ディルムッドとグラーニャの追跡』。フィン・マックール率いる戦士団の戦士ディルムッドが、老いたフィンと結婚させられることになった美女と逃亡します。これは、フィンとディルムッドの決別の原因です。結末は……ご存知の方もいらっしゃるでしょう。ご存知でない方は、ぜひお読みください。



『ウシュリゥの息子たちの逃亡』(デアドラ)

アルスターの女フェズリャミャズに娘が生まれた。ドルイドのカスバズは、その娘が生きている限り、アルスターには悲劇が巻き起こり、多くの者が死ぬと予言した。人々は彼女を殺そうとしたが、コンホヴァルはその子を成長すれば美しくなるだろうと思い、妻にするべく育てるよう決めた。デアドラ(より正確にはデルズリャだが、日本語では音の響き故かデアドラ、ディアドラの表記が好まれる)と名付けられた赤子は、誰にも会うことのないよう秘して育てられ、乳母と女詩人レヴァルハムのみと一緒に暮らすこととなった。

デアドラは美しい女に育った。ある雪の日、真っ黒なカラスが、真っ白な雪に滴った真っ赤な血を飲んでいたのを、彼女は見た。その後、それらとそっくりな色の素晴らしい男を見たと彼女はレバルハムに語った。レバルハムいわく、それがウシュリゥの三人の息子の一人、ノイシュであった。彼女が見たのは、アルスターの素晴らしい戦士の、黒い髪、白い肌、赤い頬だったのだ。

デアドラは忍び出て、ノイシュに話しかけた。ノイシュはそれがあのデアドラとは知らなかった。ノイシュは彼女を牝牛に例えてその美しさを誉めたが、デアドラは老いた牡牛より若い牡牛にこそ添い遂げたいと彼を誘惑した。

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