アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」①(¶1~¶14)

「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) は、アイルランド神話の「神話サイクル」の中でも最も重要な話です。特に英雄神ルグが中心的な活躍をし、他にもダグザ、銀の腕のヌァザ、モーリーガン、またバロル、ブレス、といった主要な神格が登場します。

「マグ・トゥレドの戦い」は「マグ・トゥレドの第二の戦い」とも呼ばれることがあります。「第一の戦い」は、同テクスト内で語られる、先住者のフィル・ボルグ族と、神々トゥアサ・デー・ダナン族との、マグ・トゥレド(塔の平原)での戦いです。そしてメインは同じマグ・トゥレドにおける、悪魔フォモーレ族とトゥアサ・デー・ダナンとの戦いと、そこに至るまでの過程です。

今回は、トゥアサ・デー・ダナンの来寇、彼らの四つの宝物、マグ・トゥレドの第一の戦い、そして第二の戦いの直接的原因である、ブレス・マク・エラサンを王に戴くまでです。


トゥアサ・デー・ダナンの来寇


¶1
トゥアサ・デー・ダナンは世界の北の島々におり、
知識と呪術とドルイドのわざと魔法と
鋭い感覚を学んでおり、異教のわざの賢者たちをもしのぐほどであった。

¶2
四つの都市、そこで彼らは知識と智慧と
悪魔のわざを学んでいた。ファリアス、ゴリアス、ムリアス、フィンニアスという街である。

¶3
ファリアスからは、タラにあるリア・ファール(ファールの石)が持って来られた。それは、エーリゥを支配するあらゆる王の下で叫ぶものだった。

¶4
ゴリアスからはルグの持つ投槍が持ってこられた。いかなる戦いも、その槍に対しても、その槍を手にした者に対しても、勝たれたことはなかった。

¶5
フィンニアスからは、ヌァザの剣が持ってこられた。その死の鞘からそれが抜かれた後でそれから逃れ得た者はなく、またそれに勝つ者もなかった。

¶6
ムリアスからはダグザの大釜が持ってこられた。客が満足しないままその釜から離れたことはなかった。

¶7
この四つの街に四人のドルイド(がいた)。ファリアスにいたモルフェッサ、ゴリアスにいたエスラス、フィンニアスにいたウシュキャス、ムリアスにいたシェミアスである。トゥアサ・デー・ダナンが知恵と知識を学んだのはこの四人の詩人*1からである。


マグ・トゥレドの第一の戦い


¶8
それからトゥアサ・デー・ダナンはフォモーレ族と同盟を結び、(フォモーレ族の)ニェードの孫バラルは自らの娘エスニェを(トゥアサ・デー・ダナンの)ディアン・ケーフトの息子キアンに嫁として与えた。この娘が勝利(の子)ルグを産んだのは、このためである。

¶9
トゥアサ・デー・ダナンは、フィル・ボルグ族から力づくでエーリゥを手にするために、大船団でやって来た。彼らはコルク・ベルガダン(今日のコマクネ・マラ)に着くと、逃げるということを考えないように、すぐに船を焼いてしまった。そのため、それらから立ち上った煙と霧が、あたりの地上と大気とを覆った。彼らが霧の雲に乗って来た(と言われる)のは、このためである。

¶10
マグ・トゥレドの戦いが、彼らとフィル・ボルグの間で戦われた。そしてフィル・ボルグは敗れ、彼らのうち、エフダッハ・マク・エルク王を含めて、千の百倍が死んだ。

¶11
その戦いではまた、ヌァザの腕が切り落とされた。スレッグ・マク・シェンガンが、彼からそれを切り落としたのだ。医師ディアン・ケーフトが、金銀細工師のクレードネの助けを得て、他の腕と同じように動く銀の腕を、彼に与えたのだ。

¶12
一方、トゥアサ・デー・ダナンはその戦で多く(の戦士を)失った。エドゥレオ・マク・ナリとエルンマス、フィアハッハとトゥリル・ビクレオを含めて。

¶13
さて、この戦から逃げたフィル・ボルグの者たちだが、彼らはフォモーレ族のところへ逃げて行き、アラン諸島とアイラ島、マン島とラスリン島に住み着いた。

¶14
トゥアサ・デー・ダナンと妻たちの間に、エーリゥの人びとの支配権の争いがあった。というのも、腕を切り落とされてから、ヌァザは王にふさわしくなくなったためである。彼らは言った、自分たち自身の養子である、ブレス・マク・エラサン(エラサの息子ブレス)に王権を預けることが適当だろうと。彼に王権を与えることは、フォモーレ族との友情を結ぶであろうためである。なぜならば、彼の父はフォモーレ族の王、すなわちエラサ・マク・デルバイスだからだ。


*1 : 初期アイルランドでは、詩は基礎的教養であり、知識人はすなわち詩人であり、またしばしば詩人は預言者や魔術師であった。


【続く】

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