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2022年12月 - 今月のスナップとエッセイ

時候の挨拶

 すっかり冬である。
 この街に、雪は降らない。この街は、風が冷たい。びゅうびゅうと吹き抜ける風が、ただただ体温を奪っていく。

 セブンイレブンで、豚まんをふたつ買った。「袋いりますか?」「いいえ、いらないです」
 わたしの冷たい手に豚まんがふたつ。紙に包まれたアツアツの豚まんが、両手を癒す。そのひとつを夫に渡した。
 帰り道、それを頬張っていると、「幸せそうな顔だねえ」と言われた。そんな彼も、ニコニコしている。

 寒くたって、いいものだ。

 仕事納めを指折り数える。来年のカレンダーを飾る。何かをするたび「今年最後の○○か〜」と思う。
 道端に脱ぎ捨てられた背広。忘年会で盛り上がってしまったのだろうか。誰かも知らぬその姿を想像して、ぶるっと身震いした。
 家と職場の往復の日々。小さなことが、わたしを年末だと気がつかせてくれる。

わたしと写真 2022

 2022年も、たくさんの写真を撮ることができた。
 しかし、不安要素もあった。

 今年2月。突然、右手が不調に襲われたのだ。しばらくして、左手の調子も悪くなった。今でも、原因はわかっていない。
 一時は痛みがひどく、カメラを持つことも難しかった。ライフワークであるスナップができない。そのもどかしさと、今後の不安を抱えて、精神的に参る日々を過ごした。

 だが、少しずつ少しずつ、どん底から浮かびあがった。
 夫が誕生日に贈ってくれたinstax Evo。”今日の1枚”として、家族写真を撮り続けた。調子の良い日は、以前のように、街を撮り歩いた。数ヶ月経ち、旅行できるほどに、回復した。

 あれから1年近く経った今。まだまだ、全快したとは言い難い。指先は電気が走るように痛むし、元々少なかった握力も、旅に出たまま帰ってこない。……はよ帰ってこい!
 しかし、もう嘆かない。上手に付き合っていこうと思っている。

 カメラを持てなくなった日、とにかく怖かった。わたしは、このまま好きな写真から遠ざかってしまうのではないかと。
 再びカメラを持てた日、その幸せを嚙み締めた。好きなことが出来る幸せを。当たり前など、この世界にひとつもない。

 残りの人生で、あと何回シャッターが切れるだろうか。
 使い込んだカメラ。そのシャッター寿命を気にしていたとき、ふと考えた。

 わたしというシャッターだって、有限なのだ。

 光を感じてシャッターを切った。雨に打たれてシャッターを切った。心動いた瞬間を、残しておきたい一心で。
 シャッターを切る瞬間、静寂が訪れる。自分と被写体だけになる。その一瞬が、たまらなく愛しい。あと何回、この愛しさを感じられるだろうか。

 好きなことに向き合える時間にも、限りがある。
 その時間を大切にしたい。今も、これからも。

変わりゆくこころ

 それはまるで、嵐の海に浮かぶ小舟だった。
 海が感情なら、舟はわたしの思考であった。

 生きることに絶望した10代。そして、生きる意味を探した20代前半。内側から溢れる想いに振り回された。もがきながら、生きていた。
 それでも、考えることを、舟を漕ぐのを、やめてはならぬと信じていた。やめてしまえば、この小舟は、荒波に飲まれてしまうから。そうすれば、生きるのすら諦めてしまう気がした。

 しかし、20代半ばを過ぎた頃。その海に、穏やかな光が指すようになった。光は、荒れ狂う感情の海を鎮めた。

 そして、この2022年。
 わたしの海は、過去一番に穏やかであった。

 自分が強くなったとは、思わない。
 些細なことで落ち込むし、不安になる。気の重い仕事があれば、何週間も前から胸がキュウっと痛む。急激なストレスを感じれば、頭の芯がガンガンする。全然、強くない。

 それでも、この海は穏やかなのである。
 わたしが得たのは、しなやかさだ。

 強くなくてもいい。不安になってもいい。落ち込んでもいい。生きる意味が分からなくてもいい。わたしは、わたしでいい。そう思えるようになった。

 このしなやかさを、大切に育みたいと願う。
 人生という旅路が続くかぎり、わたしは変わり続けていく。

絵は描けない、歌も作れないけれど

 子どもの頃から、自分の想いを何かで表現したかった。
 絵を描こうと思った。しかし、うまく描けなかった。歌を作ろうと思った。しかし、メロディーは浮かばなかった。

 子どもの頃、思い返せば、写真は自然と撮っていた。子どもの頃、思い返せば、作文はすらすらと書けた。

 大人になった今。
 わたしは写真を撮って、エッセイを書いている。なるべくしてなったのかもしれない。

 noteをはじめて3年。さらに“今月のスナップとエッセイ”を書き始めて2年。その月に撮った写真をまとめ、思ったことをつらつらと書き綴ってきた。

 読んでくださった方から、写真にも文章にもわたしの感情が反映されていると、お言葉をいただいた。嬉しさがあり、気恥ずかしさがあり、でもやっぱり嬉しさのほうが大きい。

 写真とエッセイ。これが、わたしの表現する道。
 わたしは絵は描けないし、歌も作れない。だけど、写真を撮って文章が書ける。

 この道を大切にしていきたい。暗い世の中でも、己を燃やすように、生を刻んでいきたい。

 今年も、拙い文章をお読みいただき、ありがとうございました。来年も、どうぞよろしくお願いいたします。

 皆様、良いお年をお迎えください!


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