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時間って何だろう?歴博の「陰陽師」展で得た不思議感覚

時間は一定ではない、と、最近耳にする機会が増えました。

今回私が訪れたのは、千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館。開催中の特別展「陰陽師とは何者か-うらない、まじない、こよみをつくる-」が目的です。


私の中の「陰陽師」のイメージは占い師のような人かな?と何ともふわっとしたものでしたが、展示を見てびっくり。

陰陽道って、体系立てられた学問として存在していたのですね。

当時の教科書なども展示されていて、当時の人々には至極まっとうな知識として受け入れられていたことを感じました。陰陽道が日常として存在する世界線での生活。同じ日本とは言え、現代とは常識が違います。

歴史の中の人々というと、当時は判明されていない「謎現象」を怖がり、神という「大いなるもの」のせいにする、またはそれにすがる、という印象を抱く方も多いかもしれません。

しかし今回の展示を見て、彼らはただ漠然とした行動をとっていたわけではなく、当時なりに論理立てられた解釈のもと、体系立った知識で対応していたということを感じました。

そう考えると、歴史の中の世界というのは現代と比べて「未熟」なんてことはなく、「物事を異なる視点で解釈していた」だけのこと。

過去を「この時代はまだ〇〇だから」と一段下に置いたりせず、対等な目線で眺めるのは何だか不思議な感覚です。

病気の際に行われる「祈祷」の史料を見た時はさすがに「私なら現代医療で治療してもらいたい」と思ってしまいましたが、陰陽道の教科書がまるで現代の数学の教科書のように理路整然と書かれているのを見て「この時代は本当にこれで成り立っていたんだな」と、まるで外国文化に敬意を払うかのような気持ちになりました。

多数の時間軸が同時に存在……?

この企画展では、陰陽師の仕事についてもスポットライトが当てられています。

そのうちの一つが「暦の作成」

暦の章では、陰陽師の暦作成の話から令和の改元まで、陰陽道だけに留まらない通史的な展示がされていました。

中でも印象的だったのが、明治に入ってすぐ行われた太陽暦への変更

明治政府が、欧米列強への仲間入りを果たすためにとった政策として、これまでの太陰太陽暦から欧米のスタンダードである太陽暦へと改めた、というのは歴史の授業で習う話ですよね。

しかし、授業でなかなか掘り下げられないのが庶民の反応。いきなり「太陽暦に変更します!」と言われて「はいそうですか」と一日で切り替わるわけがありません。

実際、この展示では「お化け暦」という、秘密裏に発行された今まで(江戸時代)通りの暦がたくさん展示されていました。年中行事などが現代よりも重視されていた時代、暦の大幅な変更はとても受け入れられない人が多かったのでしょう。

そのため、地域によっては「新暦のみ、旧暦のみ、ひと月遅れ、また新旧併用など種々の時間に則って生活が営まれるように」なったそう。

いわゆる「日本標準時間」では同じ時を刻んでいるはずなのに、地域によって生きている時間が違う……!

江戸時代に使われていた太陰太陽暦では、1年は354日。新暦とは、1年間の長さに11日もの差があります。

また、もうひとつ展示にあったのが、「明治時代に入ってこれまでの不定時法が改められ、定時法に変わった」というもの。

江戸時代では昼と夜、また季節によって1時間の長さが違ったんです。
(不定時法について、詳しくはこちらのサイトをご覧ください。https://www.gakken.jp/kagakusouken/spread/oedo/03/kaisetsu1.html

これが季節などに左右されない、現代と同じ1日24時間に改められたということですね。

私たちは、時間は変えられないものだと思って生きています。

しかしこの展示を見て、時間でさえも人間の概念が生み出したものなのだと気づきました。1日24時間というのでさえも自然の法則ではなく、単なる区切る方法の1つ、なのですね。

だからといって、現代社会で生きる身では「今日から私の1日は28時間にする!」というわけにもいきませんが……。「常識」なんてものは存在しない、ということを肌で感じるには十分です。だから歴史って面白い。同じ国の同じ人間なのに、100年違うだけでまるで違う世界を生きているのですから。人生100年時代、私たちが亡くなる間際の世界は、今では想像もつかないものになっているかも。

ちなみに、今年2023年は太陽暦に変わってちょうど100年だそうです。我々の「常識」も、日本国内ではたった100年の歴史しかないということ……!当時の「声」としては、展示されていた史料の中に「五節句の祝いが廃されて、代わりに紀元節や天長節というわけのわからないものを祝わされることになった」という庶民のぼやきもありました。

カレンダーががらりと変わってしまうなんて、想像もつきませんよね。急に「今日から1週間は11日で、お盆の代わりに6月24日を祝日にするからヨロシク」と言われているようなものだと思います。めちゃくちゃです。

加えて暦だけでなく、文明開化の名のもとに訳の分からないもの(西洋の物や風習)が大量に入ってきた時代。人々が感じたのは今までの常識が崩れる快感だったか、それとも平穏な日々が脅かされる恐怖と戦いながら生を終えたのか……。たった1世紀前、歴史に名を残さない庶民もまさしく激動の時代を駆け抜けたのですね。

余談ですが、ある本で「40分を1時間と見なして生活すると使える時間が増え、「時間がない!」から解放される」と読みました。時間は幻想です。休みの日には誰かが決めた24時間から離れ、文字通りの「わたし時間」を刻んでみるのはいかが?


〇展覧会公式HP(会期は終了しています)
https://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/project/index.html

〇参考文献
・『陰陽師とは何者か-うらない、まじない、こよみをつくる-、国立歴史民俗博物館編、小さ子社、2023年、』262ページ
・国立天文台「「旧暦」は現在の暦より季節に合っているの?」
最終閲覧日:2023年12月5日

・Gakken「江戸の時間制度"不定時法"」
最終閲覧日:2023年12月5日

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