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疲れた時は空を見ろ

忙しい。
本当に忙しい7月だ。
6月を上回る忙しさで、お客様とお話する間もない。
私の役割はそれではいけないと思いながらも、掃除、配膳、売店、受付、皿洗い皿拭き、調理などスタッフの皆とほぼ同じ動きをしている。

それが嫌とか、やりたくない訳じゃなくて、
それじゃいけないなと感じる毎日だ。

以前にも記事で書いたが、尾瀬小屋の仕事内容に序列や優劣はつかないし、誰が頑張っていて頑張っていないとか差はない。全員が同じベクトルに向いて団結しているからこそ今の尾瀬小屋がある。それは私も含めての話だ。だから私も仕事は選ばず何でもやる。一般的な会社では会社員が社長に指示を出したり、雑用をお願いする事は中々ないでしょう。でも、尾瀬小屋社はそれを良しとしているし当たり前にしている。それが私の経営方針だからだ。山小屋事業に限らず、私のビジネスは全てにおいて同じスタイルで『怒らない』『裁量を与える』『アイディアは率先して採用する』『待遇は常に良くする』これを経営の土台にしている。良いか悪いかは別として、そうした経営方針でいると、信頼出来る素晴らしい人材に育つか、新たに素晴らしい人材に巡り会うかしかない。

経営方針や戦略は別として、仕事の中で唯一替えがきかない場面というものがある。それがお客様との会話だ。尾瀬小屋への想いや、山小屋グルメのストーリー、山岳体験談、登山アドバイス、人生観・山小屋・尾瀬への考え方などは自分で語る以外の方法がない。この三年間で最も大切にしてきたものこそがその会話なのだが、その時間を中々作る事が出来ず反省の日々だ。僅かでも話す時間を得る為に、空き時間は常にテラス付近か売店付近で、訪れるであろうお客様との会話の瞬間を待ち構えている。

とにかく老若男女問わず話しかけまくる私

この週末、友人2人を呼んでアルバイトをしてもらいました。即戦力となり、2人の頑張りもあって忙しい週末を切り抜けた。半年間同じメンバーで四六時中生活を共にしている事もあって、普段いないメンバーが加わるだけで職場の風通しも変わる。応援に来てくれた人もそうだし、温かく迎え入れ丁寧に仕事を教えてくれたスタッフの両方に感謝。本当にありがとう。

スマホを空に向けて

たった20分。東電分岐のベンチまで散歩し、
空を見上げて言葉を捧げる。
『やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。』
私の好きな山本五十六さんの言葉だ。
考えが詰まったり行き場のない感情に遭遇した時に立ち返る言葉でもある。

その時見ていた空がなんとも美しい色をしていた。

視界にはただただ大きな空が

空には雲があるかないかくらいで、目に見える視界には複雑なものは一切ない。ただボーッとながれる雲を見ながら深呼吸を重ね雑念を払拭し、あっという間に待っているお客様の元へと戻った。

◾スタッフ翼の北アルプス縦走デビュー

2022年まで尾瀬歩荷をしていた東野君

話しは変わり、昨年まで尾瀬で歩荷をしていた東野君が現在は北アルプスの名峰『燕岳』にある燕山荘で働いている。私が仲介し、燕山荘の赤沼社長にお願いをして採用して頂いた形だ。無理なお願いを聞いて下さった赤沼社長には心から感謝している。

東野君はエベレスト登頂という、とてつもない夢を掲げている。夢に大小はないけども、言うは安しで命をかけた夢の割には、私と出会った去年の段階では、山登りも知らず至仏山や燧ヶ岳すら登った事がない状態だった。まずは登山の基礎を学ぶ事、高地でトレーニングを積む事。そうしたアドバイスと段階的な計画を経てこの燕山荘に辿り着いたのだ。

夏休みを利用し、当小屋スタッフの翼が表銀座を縦走するとの事で、東野君と赤沼社長に向けた手土産『水芭蕉』というお酒を翼に託した。赤沼社長とは会えなかったようだが、東野君とは無事に会う事が出来、元気な姿の写真を送ってくれた。夢に向かって一歩ずつ進む姿は相手が誰であっても無条件で応援したい。これからも彼の活躍を祈るばかりだ。

翼にとっても今回の山行を通して、山の厳しさ・美しさ・山小屋の在り方・尾瀬小屋で働くというものがどういう事か様々な感情が生まれた事でしょう。他の山小屋で寝泊まりし、食事をする事で見えてくる『山小屋グルメ』の必要性や私が目指して来た『新しい山小屋』の意味みたいなものを少しは感じたのではないだろうか。私のザックを背負い、メットやシェルを身に付け槍ヶ岳の山頂で撮影された翼の写真姿は10年前の自分そのものだった。見るもの全ての景色に唾を飲み、感動で言葉をなくし、『まだ見ぬ景色を見たい』そう思ったに違いない。彼はまだ若いし、体力もあるのでこれからも自分が山に登る理由というものと向き合いながら楽しんで欲しいと思う。とにもかくにも安全第一で。

梅雨明けした尾瀬

朝晩は涼しく15℃前後。日中は30℃近くにもなり、
本格的な夏山シーズンの到来だ。
7月24日、太陽が傾く夕暮れの頃、チェックインのお客様が全て到着した事を確認し、別仕事に向け鳩待峠へと向かった。19時に関係者ゲートを通過せねば、車で下山が出来なくなる為、久しぶりに鳩待峠まで走り続けた。小屋から鳩待峠まで1時間6分。道中は弥四郎小屋のスタッフさんとしか行き合わず、久しぶりに誰もいない尾瀬ヶ原を駆け抜けた。

今シーズンの営業も早いもので折り返しへと突入する。残りたった2ヶ月半でいくつもの挑戦や課題突破が託されている。止まっている場合ではないし、休んではいられない。物事を達成する為には簡単な道のりなんてないけども、果てしなく見えても歩けば必ず辿り着く尾瀬の木道のように、行程そのものを楽しみながら歩いていきたい。さぁ、尾瀬に帰ろう。

尾瀬小屋
工藤友弘





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