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自然の中の静けさで、私は泳ぐ

本当によく考えてみれば、私は小さい時から〈静けさ〉を好んだ。

「明るくて社交的」と周りから言われていたから、実はそのことに自分でも気づいていなかった。

本当につい最近まで。

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自分が自然を愛する人であったことは、子どもを出産してから思い出した。

私は息子と虫採りを楽しみ、虫を飼い観察し、ザリガニを一緒に釣り、木に共に登り、彼をボーイスカウトに誘って一緒に楽しんでいる。私は娘と、木の実や野花を摘むのが好きだ。里芋の大きな葉っぱに雨水が溜まっていると、それで遊ばずにはいられない。秘密基地になりそうな場所を探しては、そこに自宅から色々なものを持ち込み、自分の部屋かのように改造していくのが最も好きな遊びだ。

私は子どもと遊びながら、2回目の子ども時代を過ごしている。

そして、この春休みに娘と毎日通った公園の〈秘密基地〉の中で、大事なことに気がついたのだ。

そう、私。

〈自然の中の静けさ〉に、

心から安心するんだった。


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小学生の時、共働きの両親が帰ってくるまで、近所の雑木林で遊んでいた。そこに私だけの秘密基地があって、そこで私は自分の世界観を作りあげていっていた。

いつもそこには、色んな虫がやってきて『入れて』と言って入ってくる。
『いいよ』と私は言って少しドキドキしながら一緒に過ごしたりした。飼っていた猫のミーコも、私が居ない時にはそこで勝手に昼寝をしていた。

母になり、偶然見つけた絵本『はっぱのおうち』を読んだ時、まるで自分のことが描かれているかのようで、涙が止まらなかった。この絵本のサチと同じように、私も小さい時から、生き物や植物に話しかける人物だった。

最近読んで感動した動物行動学者である日高敏隆さんの『世界を、こんなふうに見てごらん』を書店で手に取ったのも、著者が小さい頃から「おまえ、どこにいくの?」と芋虫にいつも声をかけていた、というエピソードに強烈に惹かれたからだった。



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周りからは「明るくて社交的」な私が評価されていたから、私はその〈自然の中の静けさ〉を心から愛する人であることを軽視して生きてきたのかもしれない。

「笑顔が良いから接客業がむいてる」
「話を聞くのが上手だから相談業務がむいてる」
「人と直接的に関わる仕事が似合っている」
という他人の評価を、自分で採用して信じてきた。

だけど、そうしてこれだと見つけた仕事は、どれも私には、はまらなかった。
なんか違う。楽しいはずなのに、何かがはまっていない、どうしてこんなに疲れるんだろう、どうしてこんなに空回るのだろう、といつも感じていた。

その答えは〈静けさ〉だった。

私は、都会の喧騒の中では、人がたくさんいるオフィスの中では、
常に電話が鳴っている場所では、広い空や自然・生き物の居ない空間では
そもそも本来の自分になれないのだ。

自然の静けさの中に身を置いた時に、神経が研ぎ澄まされる感覚がある。
自分が着ているよろいがスーッと取れて、本来の自分に生まれ変わるような気分になる。自分の中に、静かな強さが湧いてくる。

私は〈自然の中の静けさ〉の中で初めて、水を得た魚のように泳ぎ回れる人間だったのだ。

私はそんな人間として、生まれてきたのだ。

そんなことを、木の根やツタの生い茂る秘密基地の中で思い出した。

水を得た私は、これから思い切り、この世界を泳ぎ回っていくんだ。



おわり

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