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【旅レポ】英国道中膝栗毛 ロンドン・ロンドン・ロンドン その①

 2019年12月。年末の連休を利用して、アイスランドにオーロラの写真を撮影しに行きました。(絶賛うつ病を発症していた頃でしたが、1年以上前から計画していたことだったので予定をズラすことができませんでした)。旅のお供は10年来の友人である松本潤似の男の子(以下、マツジュン)です。

 2015年のアメリカ以来の海外旅行に、うつ病を抱えていたとは言え、僕の胸は不安を抱えつつも、多少なりとも踊っていました。

 12月27日現地時間23時30分。関西国際空港発、ロンドンはヒースロー空港での乗り継ぎを経て、アイスランドのケプラヴィーク国際空港に到着。人生初のアイスランド入国です。いったい、この地で僕を待ち受けているのはどんな冒険なのでしょうか。

 ・・・・・・。

 翌12月28日午前11時。僕はアイスランド発ロンドン行きの、飛行機の中にいました。出国便です。

 おや? 11時間前にアイスランドに到着したばかりです。なぜ、僕はこんなところにいるのでしょう。

 そう、それは最高の旅になるはずでした。

 それが一体、なぜこんなことに…。

 時間は遡って12月27日現地時間午後18時頃。長いフライトを経て、ロンドンのヒースロー空港で十何時間ぶりの大地の感覚を噛み締めていました。

 詳しい経緯は省略するのですが、マイルを使ってファーストクラスを利用して移動したので、ファーストクラス特典で長蛇の列に並ぶことなく、プライオリティ・レーンから入国審査を受けることが出来ました。非常に快適でした。

 僕はTwitterが大好きなので、フライト中は確認できなかったタイムラインを楽しもうと、空港のWi-Fiに接続しました。すると、機内モードで溜まっていたメールの通知がポコポコと通知センターに現れました。どうせ何かの広告だろうと普段なら気にも留めていないところなのですが、その中にマツジュンからの「とても困ったことになりました」的なタイトルのメッセージが含まれているのに気が付きました。

 嫌な予感がします。

 僕は慌ててメーラーを確認します。そこには、目を疑う文章が並んでいました。

 その1通のメッセージが、今後訪れる災厄の全ての始まりだったのです…。

 さて、ここで状況を整理しておきましょう。

 僕は大阪発、北京経由のヒースロー着という便で、マツジュンは羽田発、上海経由のヒースロー着という便で、各々が別々の便でロンドンへ集合する手はずになっていました。

 そう、まず今回の旅はロンドン現地集合というイカれた開幕となっていたのです。

 そもそもこうなったのは、僕が「普段から貯めているANAのマイルを消費してロンドンに行きたい!」とわがままを言い、マツジュンとは別便を使用せざるを得なかったことが発端となっています。僕はマイルを使って個人でフライトの予約を取り、マツジュンは旅行会社を経由して格安のエコノミー便を使用することになっていました。

① 各々がロンドンで18時くらいに到着し、

② 18時半ごろに到着ロビーで合流して、

③ 20時30分発のアイスランド行きの飛行機に乗り継いでアイスランドに入国しようぜ! 

 というガバガバ計画だったのです。海外旅行素人がやりがちなウルトラギリギリクソスケジュールだと言わざるを得ません。

 僕はファーストクラスを使っていたのでスムーズに入国審査を受けることが出来ましたが、普通に列に並んでいれば平気で1時間くらい時間がかかるようでした。そこから荷物を回収して、ターミナルを移動して、ロンドンからの出国手続きをして、アイスランド行きの国際線に乗り換えないといけない…。こう考えると、乗り継ぎに2時間半しか時間をとっていないのは、正気の沙汰とは思えません。

 幸運にも僕は時間通りに到着することが出来ましたが、ここで問題が発生します。

 なんとマツジュンは時間通りにロンドンに来ることが出来なかったのです。

 ※

 届いていたメールは、何時間も前にマツジュンが上海から送ってきたものでした。

 要約すると

 「上海でロンドン行きの便に乗り継ぐことが出来なかった、というかそもそもロンドン行きの便が飛ばなくなったので、27日中にロンドンに到着することが出来ない」

 という内容のものでした。

 僕は回想します。27日の朝。日本の大阪の空港ラウンジにて、「これから飛行機に乗るで〜」という連絡をマツジュンに送りました。大阪発の便が30分遅れになっていたので、時間が余っていたのです。マツジュンは羽田でもう飛行機に乗り込んでいるところだったと思うので、このメッセージを開くのは上海でになるかな〜などと悠長なことを考えていました。するとすぐメッセージに返答がありました。

 「いや〜飛行機の出発が1時間以上遅れてて、飛行機の中でまだ待ってるんだよね」

 僕は嫌な予感を感じます(1回目)。大丈夫か? ヒースローに直行する便ならまだしも、上海で乗り換えてロンドンに向かう最初の段階でのその遅れは、果たして後から取り返すことができるものなのか?

 よくよく考えてみれば、ヒースローでの乗り継ぎ時間が2時間半しかないのに、出発便が1時間も遅れていたら、直行便であろうと後の行程に大きな影響が出ることは火を見るより明らかです。かなりピンチなはずなのですが、僕は世界のエアライン力を過信していました。「まあ、なんとかなるだろう」と。

 僕は僕で大阪を出発する時間になり、まず数時間かけて北京へ到達しました。北京行きの便にファーストクラスはなく、あろうことかエコノミークラスでの移動でしたが、ANAの機材だったのでそこまで不満なく時間を過ごすことができました。出発時刻が遅れていたので、北京での乗継時間がほとんど残されていませんでしたが、そこは流石スターアライアンス。僕専用のスタッフさんが北京で待ち構えてくれていて、裏口とかを使ってスムーズに乗継便に案内してくれました。普通なら何十分とかかるであろうトランジットをあっという間に済ませた僕は、すぐに次の便に乗ることが出来ました。

 しかし、空港のインターネットに接続してメールやメッセージを確認することが出来ませんでした。その時既にマツジュンから「すまん、遅れるわ」というメッセージが届いていたかどうか、いまとなっては確認できないのですが、もし確認できていたのだとしたら、北京からヒースローに到着するまでの間、なにか対策を練ることが出来たかも知れません。

 それも後の祭りですが。

 僕を乗せたヒースローへの便は問題なく出発し、ほぼ定刻通りに到着したと記憶しています。

 そして同日18時頃。ヒースローに到着すると、マツジュンからの例の遅延メッセージを受信することになります。嫌な予感(2回目)は的中しました。

 「自分の選んだ航空会社は遅延がとても多いらしい」

 「それで到着が遅れたのみならず、そもそも乗り継ぎ云々の前にヒースロー行きの便が消滅した」

 「なのでロンドンに到着するのは28日になる」

 「よって、アイスランドに到着するのは早くても28日の深夜になる」

 「と,いうわけでどう動くか意見求む」

 という具合でした。

 当時はうつの症状もあって移動するだけで精一杯だったので、頭が回らず、瞬時にその場で判断はできませんでした。しかし、20時半発アイスランド行きの飛行機の出発は刻一刻と迫っています。

 どうしたものか。

 僕はたいへん混乱しました。

 さりとて、彼の到着を待ってアイスランドへ行くという選択肢は、その時の僕の中では考えにくいものでした。

 ロンドンで宿をとっていなかったですし、年末の観光客のごったがえすロンドンで宿をいきなり取れるかどうかの確証がありませんでした。旅の計画をする段階で、宿の予約を取ることも一苦労だったからです。見知らぬ冬の土地で野宿ということはあまり考えたくありません。

 それに、彼をロンドンで待って、当日アイスランド行きのチケットを取り直そうとしても、取れない可能性だってあったわけです。

 アイスランドの宿はおさえてしまっているし、オーロラ鑑賞や自然ツアーなどのオプショナルツアーは予約してしまっている。

 なので、僕はひとまず、単身アイスランドへ行く決意をしました。

 「アイスランドで待つ」的な返答をし、「しかし難しいかも知れないが、必ず28日には到着してくれ」と切望にも似た要望を添えました。僕は、彼に来てもらわなくてはならない理由があったのです。

 というのも、旅行中の海外旅行用Wi-Fiは彼が持ってくることになっていたので、彼が来てくれないことには街中でインターネットをすることができません。国際ローミングが出来る設定にしていたので、現地のモバイル回線を拾ってインターネットは出来るはずでしたが、通信料金がアホみたいにかかります。まともな収入のない男にとって、これはたいへんな痛手です。それに、アイスランドでどれくらい電波を拾うことが出来るかもわかりません。

 一度も行ったこともない国で、うつで頭が回らない男が、ネットが繋がるかどうか不確定な状態で、一人でうろつくのはあまりにリスキーでした。

 アイスランドに行くことを決意した僕は旅行カバンを回収するため、例のかばんがぐるぐる回って出てくるコーナーで自分のカバンが出てくるのを待っていました。

 いくら出国審査が早く済んだからとはいえ、ロンドンからアイスランドへの出国審査がまた待っていますし、ターミナルも移動しなくてはならない。時間はいくらあっても足りませんでした。

 荷物がベルトコンベアに運ばれ、他の乗客が次々とピックアプしていく様子を、僕は多少いらいらしながら横目で眺めていました。しかし一向に待てど暮らせど僕のカバンは出てきません。

 概ねのカバンが出きったタイミングで、「あれ? もしかして一番最初に出てきたから、別のところに保管されているのかな?」と思いましたが、どうやらそういうわけでもなさそうです。残ったカバンがぐるぐる回っており、もう新しいカバンが出てくる様子はありません。

 嫌な予感がしました。(3回目)

 というか、「これ、僕のカバン、ないじゃん」ということを確信しました。

 僕はカバンの所在を確かめるため、インフォメーションセンター的なところへ赴きました。

 「すみません、僕のカバンがないんですが」

 と、たどたどしい英語で言いました。アフリカ系の女性職員が答えます。

 「ちょっと待ってね。調べるわ。(カタカタとPCのキーボードを叩く)ああ、あなたのカバン、申し訳ないんだけど、トランジットに失敗してまだ北京にあるみたいだわ」

 は? なんだと? パードゥン?

 「それって遅れてくるってことですか」

 「そうね、明日の午後4時には到着すると思うわよ」

 僕は手持ちのポケモンが全滅したポケモントレーナーのように目の前が真っ暗になりました。

 「…いや、明日はもうロンドンにいないんです。これからアイスランドに行くので」

 「じゃあアイスランドでの宿泊先を教えてもらえるかしら? 明後日になるけど、そこに郵送するわ」

 つまり、僕は2日間、着替えや洗顔などができない状態で過ごさなければならないことになります。また、オーロラを撮影するための三脚も旅行カバンの中に入っています。日中のアクティビティをキャンセルして、ホテルでカバンの到着を待っていなければならないということでしょうか。(しかも、オーロラツアーまでにカバンが到着するという保証はどこにもありません。)それはあんまりです。

 「なんとかならないですか」

 「なんともならないわね」

 そうしている間にもアイスランド行き飛行機出発の時間は迫っています。考えている時間はありませんでした。仕方ない、着替えや三脚はアイスランドのレイキャビクで調達するしかありません。

 「わかりました」

 と僕は言い、アイスランドでの宿泊先を伝え、カバンを送ってもらうことにしました。僕はリュックとカメラバッグだけという軽装でインフォメーションセンターを後にし、到着ロビーへ出ました。

 ターミナル間を移動する鉄道の乗り方がわからず、一般人なんだか職員なんだかわからないラフな格好をしたおじさんが何故かフリーパス? の切符をくれたのでそれを使い、アイスランド行きの飛行機が出発する第2ターミナルへ急ぎます。

 慣れない英語の自動発券機を使い、チケットを入手し、手荷物検査を済ませて出国審査へ進みました(「預け入れる荷物はありますか?」と聞かれ「ありません…」と答えた僕の胸中といえば、それはもうひとしおの悲しみに満ち溢れたものでした)。これは案外サクサクと進み、なんとか時間には間に合いそうでした。

 手荷物検査が終わった後の制限エリアで僕はあることに気が付きます。

 ぞわり、と背筋に悪寒が走ります。嫌な予感です(4回目)。

 待てよ? アイスランドで使用するための、専用国際規格のコンセントのアダプターは、後日送られてくる旅行カバンの中だぞ?

 これがないとアイスランドに到着したときにスマホの充電ができません。スマホが使えないと、完全に未開の地でネットに接続できない。これはほとんど文字通り死を意味します。

 果たしてどうすればいい!?

 ヒースローのだだっぴろい国際線出向エリアで、僕はまた孤独に困難に直面することになったのです。(続く)

↓ 続編


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